兵器の残滓
地下区画に、不自然な静寂が落ちる。
侵食体も止まり、
巨大な白い目も動かない。
まるで全てが、
ABELの判断を待っているようだった。
【 優先順位再構築 】
リングが低速回転する。
黒い装甲の隙間から、微弱な光が漏れる。
ルナがABELを見上げる。
小さい。
だが視線は逸らさない。
「……帰りたくない。」
【 理由を要求 】
機械音声。
感情ゼロ。
だが。
どこか“質問”に近かった。
ルナは少し黙る。
言葉を探すみたいに。
「……怖いから。」
「向こう、痛い。」
地下空間が静まる。
「ひとりだった。」
剣也が微かに目を細める。
リアも黙って聞いていた。
ルナは続ける。
「ずっと、“もの”だった。」
「失敗したら壊される。」
「役に立たなかったら捨てられる。」
「だから……」
その小さな声が震える。
「ここにいたい。」
沈黙。
ABELは動かない。
【 感情情報を受信 】
【 未定義データ 】
リングが再び乱れる。
ノイズ。
火花。
エレナがモニターを見る。
「内部演算が暴走してる……。」
暁が低く呟く。
「感情処理なんざ、想定されてねぇんだろ。」
その瞬間。
巨大な白い目が再び開く。
『――ABEL』
地下空間が震える。
『――命令を修正』
『――零番目を回収せよ』
ABELが停止する。
『――感情は不要』
『――自我はノイズ』
リアが前へ出る。
「違います。」
巨大な目がリアを見る。
「感情は、誰かを守るために必要です。」
『――非合理』
「でも。」
リアは静かに言った。
「剣也は、そうやって私を変えました。」
剣也が少し目を見開く。
リアは続ける。
「ルナも同じです。」
「だから。」
リアがABELを見る。
「あなたも、選べます。」
空気が止まる。
ABELのリングが、
ゆっくりリアへ向く。
【 選択 】
【 未定義行動 】
巨大な白い目が強く発光。
『――異常』
『――TYPE:00に汚染確認』
その瞬間。
ABELの全身に黒いノイズが走った。
強制制御。
装甲が軋む。
リングが暴走回転。
【 命令再同期 】
【 零番目回収 】
ABELがルナへ向けて腕を伸ばす。
だが。
途中で止まる。
震えている。
兵器が。
命令に逆らっている。
エレナが息を呑む。
「……ありえない。」
暁が低く笑った。
「いや。」
「兵器だからだろ。」
「戦うために作られたなら、“誰のために戦うか”を選び始めてもおかしくねぇ。」




