保護対象
ABELが歩く。
重い。
だが速い。
一歩踏み出すたび、地下区画の床が軋む。
【 回収を開始します 】
無機質な音声。
感情はない。
ただ“命令”だけが存在している。
ルナが小さく後退る。
「……やだ。」
ABELは止まらない。
リアが立ち上がる。
損傷警告。
左腕部フレーム破損。
霊装出力低下。
それでも前へ出た。
「ルナから離れてください。」
ABELのリングが回転する。
【 現行機確認 】
【 非効率個体 】
次の瞬間。
ABELの姿が消えた。
衝撃。
リアの身体が再び吹き飛ぶ。
今度は天井近くまで叩き上げられる。
「リア!!」
剣也が即座に踏み込む。
霊装刃。
全力。
ABELへ斬撃。
金属火花。
浅い。
装甲表面しか切れていない。
「硬すぎるだろ……!」
ABELの視線が剣也へ向く。
【 神島剣也 】
【 接触優先度:上昇 】
「チッ。」
剣也が後退。
その瞬間。
ABELの背部装甲が展開した。
大量の黒いリング。
浮遊。
エレナが叫ぶ。
「広域位相兵装!避けて!!」
リングが発光。
次の瞬間。
空間ごと切断された。
見えない斬撃。
地下区画の壁が斜めに消し飛ぶ。
暁が結界を展開。
青白い壁が出現。
だが。
一瞬で砕ける。
「ぐッ……!」
圧倒的。
性能差が違いすぎる。
リアが瓦礫から立ち上がる。
呼吸はない。
だが明らかに損傷している。
それでも。
ルナの前へ戻る。
ルナが呟く。
「……なんで。」
リアは答える。
「守りたいからです。」
「合理性ではありません。」
「あなたが、ここにいてほしいと思ったからです。」
ルナの瞳が揺れる。
ABELが停止する。
【 理解不能 】
リングが高速回転。
ノイズ。
【 感情演算エラー 】
エレナが気づく。
「……違う。」
「ABEL、リアを解析してる。」
暁が眉をひそめる。
「学習してやがるのか……?」
その時。
ルナがゆっくり前へ出た。
「……もう、やめて。」
水色の髪が揺れる。
周囲のノイズが静かになる。
ABELがルナを見る。
【 零番目 】
ルナは真っ直ぐ見返した。
「わたしは、行かない。」
沈黙。
地下区画に、
初めて静寂が落ちる。
ABELのリング回転速度が低下していく。
【 命令との矛盾を確認 】
【 零番目保護 】
【 零番目意思拒否 】
【 優先順位衝突 】
ABELの身体が微かに揺れる。
エレナが目を見開く。
「……自己判断を始めてる。」
暁が低く呟く。
「コイツ、“ただの兵器”じゃねぇ……。」




