零位相暴走
侵食体の群れが押し寄せる。
黒い腕。
歪んだ顔。
白い目。
地下研究区画を埋め尽くすように迫ってくる。
剣也が踏み込む。
霊装刃が閃く。
一体を切断。
続けて回転し、背後の侵食体を蹴り飛ばす。
「キリがねぇ……!」
リアが高速機動で援護。
蒼白の軌跡。
侵食体を次々と斬り裂いていく。
だが。
再生。
増殖。
侵食。
リアが警告する。
「敵性存在、周辺位相を利用して自己複製。」
「現状火力では制圧不能。」
暁が結界端末を地面へ叩きつける。
青白い光が広がる。
「十秒だけ空間固定する!」
エレナが叫ぶ。
「その間に核を探せ!」
その時。
ルナが小さく声を漏らした。
「……だめ。」
全員が一瞬見る。
ルナの指先。
そこから黒いノイズが滲み出ている。
煙みたいに。
「……増えてる。」
リアの解析が乱れる。
「ルナ内部で高濃度位相反応。」
「自己侵食率、急上昇。」
エレナの顔色が変わる。
「零位相暴走……!」
地下区画が震える。
巨大な白い目が細くなる。
『――接続開始』
次の瞬間。
ルナの周囲の空間が歪んだ。
床が溶ける。
壁がノイズ化する。
現実そのものが崩れ始める。
剣也が即座にルナへ向かう。
「ルナ!」
ルナは震えていた。
ジト目のまま。
だが今は明らかに怯えている。
「……ごめんなさい。」
「わたし、止められない。」
その声。
小さい。
壊れそうなほど。
剣也が腕を掴む。
「勝手に終わろうとすんな。」
ルナが目を見開く。
黒いノイズが剣也の腕へ這い上がる。
普通なら侵食される。
精神を壊される。
だが。
剣也は離さなかった。
「お前はもう一人じゃねぇだろ。」
ルナの瞳が揺れる。
リアも前へ出る。
「侵食を分散します。」
「リア!?」
エレナが叫ぶ。
リアは迷わない。
ルナへ手を伸ばす。
銀色の光と黒いノイズが衝突する。
リアの身体に亀裂。
火花。
警告音。
「負荷限界値を突破。」
それでも。
リアは離さない。
「ルナ。」
「あなたは、“向こう側”ではありません。」
「あなたは、ここにいます。」
巨大な白い目が揺れる。
『――異常』
『――同期不全』
その瞬間。
ルナの中で何かが変わった。
ノイズが止まる。
空間の侵食が、一瞬だけ静止した。
ルナがゆっくり顔を上げる。
その瞳に。
初めて、
はっきりと感情が宿っていた。
「……わたし。」
「ここに、いたい。」




