零番目
空気が止まる。
いや、
空間そのものが“見られていた”。
天井を埋め尽くす巨大な白い目。
瞳孔が存在しない。
感情もない。
なのに、
こちらを理解している。
『――やっと見つけた』
声ではない。
直接、脳へ流れ込んでくる。
ルナの身体が震えた。
「……っ。」
リアが即座に前へ出る。
ルナを庇う。
「対象を危険認定。」
巨大な目がゆっくりリアを見る。
『――模倣体』
リアの動きが一瞬止まる。
『――失敗作』
空気が歪む。
次の瞬間。
リアの身体が吹き飛んだ。
「リア!!」
壁へ叩きつけられる。
衝撃。
床が砕ける。
リアがすぐ立ち上がる。
だが口元から微かに火花が散る。
「……高次干渉を確認。」
エレナが顔を青くする。
「物理攻撃じゃない……!」
暁が霊装を構える。
「精神位相攻撃か……!」
侵食体たちが再び動き出す。
『――回収』
『――接続』
『――零位相』
黒い群れがルナへ殺到する。
剣也が前へ出る。
「ルナ、下がってろ!」
霊装刃を振るう。
一体を両断。
だが次。
さらに次。
数が多い。
リアが再加速。
蒼白の光が空間を裂く。
侵食体をまとめて吹き飛ばす。
だが。
巨大な目は消えない。
ずっと見ている。
『――神島剣也』
剣也の動きが止まる。
「……なんで名前を。」
『――観測済み』
頭痛。
強烈なノイズ。
一瞬。
知らない光景が流れ込む。
赤い空。
崩れた都市。
無数の白い目。
そして。
幼い剣也。
瓦礫の中。
『――接続適性』
剣也が目を見開く。
「……なッ。」
暁が叫ぶ。
「聞くな!!」
その声で剣也が意識を戻す。
エレナが叫ぶ。
「認識汚染よ!」
「思考に入れたら侵食される!」
巨大な目がゆっくり細くなる。
笑ったみたいに。
『――観測は順調』
『――零番目の覚醒率上昇』
ルナが震える。
「……やだ。」
初めて。
明確な恐怖。
ルナは自分の頭を押さえる。
ノイズ。
記憶。
知らない声。
『零番目は成功例です』
『最も深く接続できる器です』
『境界を越える鍵です』
「……ちがう。」
ルナが呟く。
「わたしは……」
巨大な目が応答する。
『――お前は“門”だ』
地下施設全体が揺れる。
その瞬間。
リアが前へ出た。
損傷した状態のまま。
それでも。
ルナの前に立つ。
「ルナは門ではありません。」
巨大な目が止まる。
リアは静かに言った。
「彼女は、私たちの仲間です。」
一瞬。
巨大な目の動きが止まった。
まるで。
“理解できない”というように。




