表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/34

境界の街

校門を出ると、夕暮れの光が街を包んでいた。


昼間の喧騒はすでに落ち着き、帰路につく生徒や仕事終わりの人々が、それぞれの速度で歩いている。どこにでもある日常の風景だった。


剣也はその中を、リアと並んで歩いていた。


「さっきのやつら、大丈夫かな。」


何気なくそう言うと、リアはわずかに間を置いて答えた。


「身体的損傷は軽微。生命に影響はないと推定。」


「そうか。」


剣也は短く答えた。


特に気にしている様子ではなかったが、完全に無関心というわけでもない。その距離感が、彼らしかった。


しばらく歩くと、住宅街に差し掛かる。


見慣れた道。見慣れた家並み。


だが――


「……リア。」


「うん。」


「なんか、静かすぎないか。」


リアも足を止め、周囲に意識を向ける。


子どもの声も、犬の鳴き声も、遠くの車の音も聞こえている。


だが、どこか遠い。


「音の反響が弱い。……空間密度の変化を検知。」


「またかよ……」


剣也は小さく息を吐いた。


こうした違和感は、霊災の前兆として何度も経験してきた。


だが今日は、質が違う。


「発生源が特定できない。」


リアが周囲を見渡しながら言う。


「一点ではなく、広域に分散している。」


「面で来てるってことか。」


リアは小さく頷いた。


剣也はポケットから端末を取り出した。


「暁に一応投げとくか。」


通信を繋ぐと、すぐに応答が返る。


『どうした、剣也。』


「今帰りなんだけど、この辺おかしい。」


『……どんな感じだ。』


「静かすぎる。霊的な圧が、薄く広がってる。」


数秒の沈黙。


その間に、キーを叩く音が微かに聞こえた。


『……こっちの観測でも似た反応が出てる。』


「マジか。」


『しかもお前のとこだけじゃねえ。白羽市の各所で同時に発生してる。』


剣也の表情がわずかに変わる。


「同時多発かよ……」


『ああ。ただし強度は低い。今のところ実体化の報告はなし。』


「前兆ってことか。」


『可能性は高いな。今日は深追いするな。異常があったらすぐ引け。』


「了解。」


通信を切る。


端末をポケットに戻しながら、剣也は空を見上げた。


夕焼けは沈みかけ、街は夜へ移行し始めている。


「……リア。」


「なに?」


「こういうの、前からあったか?」


リアはわずかに視線を落とした。


「類似現象はある。でも――」


一瞬、間が空く。


「規模が違う。この範囲で同時発生するのは稀。」


「ってことは、裏で何か動いてるな。」


剣也はそう言って、歩き出した。


リアもその隣に並ぶ。


街灯が一つ、また一つと点灯していく。


その光の下で、人々は変わらず日常を過ごしている。


誰も気づいていない。


この街が、“境界”に近づいていることに。


「ねえ、剣也。」


不意に、リアが口を開いた。


「もし、この街全体が霊災に巻き込まれたら……どうする?」


剣也は少しだけ考える素振りを見せてから、肩をすくめた。


「決まってるだろ。」


その声に迷いはない。


「全部叩き潰す。それだけだ。」


リアはその言葉を受けて、わずかに目を細めた。


「……了解。」


やがて二人は、自宅の前へと辿り着く。


見慣れた扉。


変わらない風景。


剣也はドアノブに手をかけた。


その時――


「……っ。」


ほんの一瞬、背後に違和感を覚えた。


振り返る。


だが、何もない。


静かな夜の住宅街が広がっているだけだった。


「どうしたの?」


リアが問いかける。


剣也はわずかに目を細め、首を振った。


「……いや、気のせいだ。」


そう言って扉を開ける。


その背後で、


街灯の影が、わずかに揺れた。


だが――


二人がそれに気づくことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ