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Phantom Zero  作者: 高槻 和真


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【外伝前章】白衣の亡霊

地下区画の空気が凍りつく。


誰もすぐには言葉を返せなかった。


暁がゆっくり振り返る。


「……今なんつった。」


ルナはモニターを見つめたまま、小さく呟く。


「……会った。」


「向こうで。」


リアが即座にルナの状態を確認する。


「脳域負荷、上昇。」


「記憶断片へのアクセスを確認。」


エレナが静かに近づく。


その金色の瞳が細くなる。


「どこで見たの。」


ルナは答えようとして、少し止まる。


うまく言葉にできていない。


「……白い場所。」


「空、ない。」


「でも、光ある。」


断片的。


だが曖昧ではない。


実際に“見た”記憶。


剣也がルナの隣へ立つ。


「無理して思い出さなくていい。」


ルナは小さく首を振った。


「……違う。」


「これ、大事。」


そして再び、ゆっくり口を開く。


「……いっぱい、いた。」


「動かないドール。」


「知らない声。」


「赤い光。」


その瞬間。


暁の顔色が変わる。


エレナも気づく。


「培養列……?」


ルナが続ける。


「……その人、歩いてた。」


「一人だけ。」


ノイズが混ざる。


ルナが頭を押さえる。


「“まだ接続が浅い”って。」


「“この子たちは未完成”って。」


静寂。


リアの解析音だけが響く。


剣也が低く聞く。


「……その“子たち”って。」


ルナの瞳が揺れる。


「……私たち。」


沈黙。


重い。


エレナが静かに息を吐く。


「最悪ね……。」


暁が机を強く叩く。


「クソが……!」


珍しく感情を露わにする。


剣也が見る。


「何かわかったのか。」


暁は苦い顔のまま言う。


「真白姉は、“ドールの人格形成”を研究してた。」


「ただの兵器じゃなく、“自我を持つ器”としてな。」


リアが反応する。


「現行ドール理論では非効率。」


「だから凍結された。」


暁が言う。


「感情は誤作動を生む。」


「軍も企業も、そう判断した。」


ルナが小さく呟く。


「……でも、あの人は違った。」


剣也が視線を向ける。


ルナは遠くを見るように言う。


「“選ばせる”って。」


空気が変わる。


エレナが低く言う。


「……やっぱり。」


「天谷真白は、“人間を再現”しようとしてた。」


リアが静かに分析する。


「感情。」


「矛盾。」


「選択。」


「不完全性。」


「そう。」


エレナが頷く。


「だからエイドスと対立した。」


剣也が眉をひそめる。


「統合思想と真逆か。」


「ええ。」


エレナがモニターを見る。


「エイドスは“誤差を消す”。」


「真白は“誤差こそ人間”だと考えた。」


静かに。


だが確信を持って。


「つまりルナは――」


その時だった。


警報。


突然。


地下施設全体に赤色灯が点灯する。


『警告。位相侵食反応を確認。』


『地下区画に異常接続発生。』


リアが即座に戦闘モードへ移行。


「高濃度霊的反応!」


エレナが舌打ちする。


「追ってきた……!」


剣也が構える。


「何が来る!」


その瞬間。


研究区画の奥。


封鎖されていたはずの隔壁が、


内側からゆっくり歪み始めた。


金属が軋む。


あり得ない方向に。


そして。


“黒い手”が、


隙間から伸びる。


ルナの瞳が大きく揺れた。


「……あれ。」


小さく。


震える声。


「……向こうの。」

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