製造系譜
中枢領域。
扉の先。
空気が変わる。
ここだけ、明らかに“別格”。
「……濃い。」
剣也が呟く。
霊的な圧が違う。
重い。
リアが即座に解析する。
「エネルギー密度、これまでの三倍以上。」
ルナは足を止める。
視線が一点に固定される。
「……ある。」
広い空間。
中央に“柱”。
透明な容器。
その中に――
“何か”が浮いている。
人の形。
だが未完成。
配線。
霊的回路。
肉体と情報が混ざっている。
剣也が眉をひそめる。
「……工場かよ。」
リアが静かに言う。
「製造ラインの一部と推定。」
その瞬間。
背後から声。
「正確には、“再構成施設”よ。」
振り返る。
そこに立っているのは――
天谷博士。
白衣のまま。
この場所に。
剣也が目を細める。
「……やっぱりな。」
リアはすぐに距離を取る。
「識別:天谷。だが位置情報に矛盾。」
ルナは動かない。
ただ、じっと見ている。
天谷は静かに歩く。
中央の装置へ。
触れる。
その動きに迷いがない。
「ここは、“製造”ではない。」
一拍。
「“再現”よ。」
スクリーンが自動で展開される。
データ。
構造図。
そして――
“設計思想”。
「エイドスの目的は統合。」
「そのためには、“純粋な器”が必要だった。」
ルナを見る。
「感情も、意思も持たない、完全な媒体。」
剣也が低く言う。
「それがドールか。」
天谷が頷く。
「ええ。でも――」
視線が少しだけ変わる。
「それだけでは“足りなかった”。」
画面が切り替わる。
初期ドール。
失敗ログ。
崩壊。
暴走。
停止。
「霊と人間は、単純には融合しない。」
「どちらかが必ず“拒絶”する。」
リアが小さく言う。
「干渉の不一致。」
「その通り。」
天谷の指が止まる。
次のデータ。
そこに映るのは――
“起点”。
そして、
ルナと同一の設計コード。
沈黙。
ルナの瞳がわずかに揺れる。
「……同じ。」
天谷がはっきり言う。
「ええ。」
「あなたと起点は――」
一拍。
「同じ製造系譜にある。」
剣也が舌打ちする。
「双子みたいなもんかよ。」
天谷は首を振る。
「いいえ。」
はっきり否定。
「起点が“完成形”。」
「あなたは“途中”。」
ルナの指がわずかに動く。
「……途中。」
その言葉が引っかかる。
天谷が続ける。
「起点は、完全に“統合”された存在。」
「意思と霊的構造を矛盾なく成立させた個体。」
リアが言う。
「あり得ない。」
「ええ、本来は。」
天谷の目がわずかに細くなる。
「でも、成立した。」
剣也が一歩前に出る。
「じゃあルナは何だ。」
天谷はルナを見る。
まっすぐに。
「あなたは、“例外”。」
「本来は完成するはずだった。」
「だが、途中で“切り離された”。」
「だから――」
一拍。
「不完全で、自由。」
ルナの内部で何かが動く。
記録。
断片。
ノイズ。
「……切り離された。」
小さく繰り返す。
剣也が言う。
「つまり、お前らが作って、捨てたってことか。」
天谷は否定しない。
「結果としては、そうなる。」
リアが鋭く言う。
「天谷博士。あなたはエイドス側の人間。」
沈黙。
短い。
だが決定的。
天谷はゆっくりと答える。
「“元”よ。」
一拍。
「私は、この計画の初期設計者の一人。」
空気が凍る。
剣也が笑う。
低く。
「とんでもねえの出てきたな。」
天谷は続ける。
「でも、離れた。」
「理由は単純。」
視線が少しだけ落ちる。
「“完成形”を見てしまったから。」
スクリーンに映る。
起点。
戦闘ログ。
干渉データ。
異常な安定性。
「完璧すぎた。」
「矛盾がなかった。」
「だから――」
一拍。
「“人間じゃなかった”。」
ルナを見る。
「あなたは違う。」
「不完全で、揺れる。」
「でも、それが“人間に近い”。」
剣也が軽く肩をすくめる。
「で、今はどっちだ。」
「敵か、味方か。」
天谷は少しだけ考える。
そして言う。
「私は――」
一拍。
「観測者であり、修正者よ。」
曖昧。
だが逃げてはいない。
その瞬間。
空間が震える。
圧。
明確な。
「……来る。」
ルナが言う。
空間の奥。
歪みが生まれる。
起点。
ゆっくりと現れる。
三人ではなく、
四人を見る。
天谷も含めて。
「……確認。」
小さく呟く。
「製造系譜、収束。」




