閾値
数日後。
白羽市の外れ。
工業地帯。
使われなくなった倉庫群。
「またここかよ。」
剣也が呟く。
空は曇り。
風は弱い。
だが――
「反応、強い。」
リアが即答する。
「前回の観測ノードと同系統。ただし出力は上。」
剣也は肩を鳴らす。
「テストってわけか。」
ルナは一歩前に出る。
無表情。
だが、
水色の髪が、わずかに濃い。
「……視線、感じる。」
小さく言う。
「見られてる。」
リアが頷く。
「同意。外部観測あり。」
剣也が笑う。
「じゃあ派手にやるか。」
倉庫内部。
広い。
何もない。
その中央。
装置。
前より大きい。
そして――
起動している。
「……露骨だな。」
剣也が言う。
その瞬間。
地面が震える。
影が浮かび上がる。
数。
多い。
だが――
「質が違う。」
リアが言う。
形が安定している。
“個体”として成立している。
「来るぞ!」
一斉に動く。
戦闘開始。
速い。
重い。
「っ……!」
剣也が一体を斬る。
だが、手応えが違う。
「硬ぇな……!」
リアが横から切り裂く。
連携は問題ない。
だが押し切れない。
「数が多い!」
包囲される。
ルナは動かない。
中央。
装置の前。
見ている。
「……解析中。」
小さく呟く。
剣也が叫ぶ。
「今はそれどころじゃねえ!」
その瞬間。
一体が背後からルナに迫る。
リアが反応。
だが間に合わない。
「ルナ!」
剣也が動く。
――より早く。
ルナが動いた。
一歩。
踏み出す。
手を上げる。
それだけ。
だが――
空間が“止まる”。
影の動きが一瞬だけ鈍る。
「……干渉。」
ルナが言う。
そして。
触れる。
影に。
次の瞬間。
内側から崩壊する。
音もなく。
剣也が目を見開く。
「は?」
リアも一瞬だけ止まる。
「……今のは。」
ルナは自分の手を見る。
「……選択。」
ぽつり。
「……干渉方法、変更。」
つまり――
“戦い方を選んだ”。
影が一斉に動く。
今度はルナを狙う。
「やらせるか!」
剣也が前に出る。
リアも同時にカバー。
だがルナは止まらない。
前へ。
その動きに迷いがない。
影が来る。
ルナは避けない。
「……遅い。」
小さく言う。
触れる。
一体。
崩壊。
二体。
同じ。
三体。
消える。
剣也が笑う。
「なんだそれ。」
リアが即座に分析する。
「位相干渉。対象の構造を内部から破壊してる。」
「そんなことできたのかよ。」
「通常のドールには不可能。」
つまり――
ルナだけ。
その時。
装置が強く光る。
空気が歪む。
剣也が舌打ちする。
「本命か。」
空間の奥。
“あれ”がいる。
起点。
ただし――
出てこない。
観測している。
ルナを見る。
一点だけ。
「……進行確認。」
小さく呟く。
ルナがそれを見返す。
「……見てるだけかよ。」
剣也が言う。
リアが首を振る。
「違う。誘導してる。」
装置がさらに出力を上げる。
影が増える。
さっきより明らかに強い。
「キリがねえ!」
剣也が叫ぶ。
ルナが前に出る。
そして――
止まる。
一瞬。
考えるように。
「……範囲。」
呟く。
次の瞬間。
足元から光が広がる。
円。
半径数メートル。
水色。
淡いが、はっきりと。
「……選択拡張。」
その中に入った影が――
一斉に崩壊する。
音もなく。
跡も残さず。
剣也が吹き出す。
「チートかよ。」
リアが冷静に言う。
「出力が不安定。長時間は持たない。」
実際、
ルナの髪の光が揺れる。
濃くなりすぎている。
「……負荷、増大。」
小さく言う。
だが止めない。
起点がそれを見ている。
「……閾値、到達。」
評価するように。
その瞬間。
装置が停止する。
影も消える。
結界が解ける。
風が戻る。
音が戻る。
終わり。
ルナがその場で崩れる。
剣也がすぐに支える。
「おい!」
ルナは目を開けたまま。
だが焦点が少しずれている。
「……処理……過多……」
リアが即座に接続する。
「安定化処理、開始。」
数秒。
やがて、
ルナの視線が戻る。
「……大丈夫。」
剣也がため息をつく。
「無理すんなって。」
ルナは小さく言う。
「……必要だった。」
その言葉に、
剣也は何も言わない。
ただ、少しだけ笑う。
遠く。
誰もいないはずの場所。
起点が立っている。
静かに。
「……選択。」
繰り返す。
「……進化。」
その言葉は、
評価なのか、警戒なのか。
まだ分からない。




