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境界の向こう側

本部、出撃準備区画。


装備は最小限。


だが空気は重い。


「場所は特定できてる。」


篠崎綾音が端末を操作しながら言う。


「前回の観測ノードの残留データを逆算。干渉先を割り出した。」


「随分あっさりだな。」


剣也が言う。


「甘く見ないで。」


短く返される。


「向こうも隠してない。むしろ――」


一拍。


「見せてる。」


暁が鼻で笑う。


天城暁。


「誘ってるってわけだ。」


リアが静かに言う。


「罠前提。」


「上等だ。」


剣也は肩を回す。


「どうせ行くんだろ。」


暁は短く頷く。


「当たり前だ。」


そして視線をルナへ向ける。


ルナは無表情。


だが――


わずかに、水色の髪が揺れる。


「……一致率、高い。」


小さく言う。


「そこに、“ある”。」


移動。


山を越え、さらに奥。


人の痕跡は完全に消える。


空気が変わる。


「……ここだな。」


剣也が止まる。


目の前には、何もない。


ただの空間。


だが――


「境界、確認。」


リアの声。


「位相ズレ、局所集中。」


剣也は一歩踏み出す。


その瞬間。


視界が歪む。


音が遠のく。


そして――


世界が“反転”する。


そこは、同じ場所で、違う場所だった。


森はある。


地形も似ている。


だが色が薄い。


空気が重い。


「……内側か。」


剣也が呟く。


リアが頷く。


「完全な結界ではない。中間領域。」


ルナは、すでに歩き出していた。


迷いがない。


「おい、勝手に行くな。」


剣也が追う。


その奥。


開けた空間。


そして――


“それ”はいた。


人影。


静かに立っている。


長い髪。


色は――


白に近い、淡い色。


だが、ルナとは違う。


揺らがない。


“完成されている”。


剣也が息を止める。


「……あれか。」


リアが小さく言う。


「高密度反応。ドール個体。」


ルナが止まる。


数メートルの距離。


見つめる。


無表情同士。


だが――


空気が違う。


相手が、ゆっくりと顔を上げる。


視線が合う。


その瞬間。


ルナの身体が、わずかに震えた。


「……起点。」


声が出る。


自然に。


相手は、何も言わない。


ただ見ている。


そして――


一歩、近づく。


音がない。


だが距離は確実に縮まる。


剣也が前に出る。


「それ以上近づくな。」


遮る。


相手は止まる。


視線が剣也へ移る。


数秒。


観測されている感覚。


「……人間。」


初めて、声が出る。


静か。


感情がない。


だが――


完全に“無”ではない。


「……干渉対象。」


その言葉に、ルナが一歩出る。


「……違う。」


小さく言う。


相手の視線が戻る。


「……ルナ。」


名前を呼ばれる。


初めて。


ルナの瞳がわずかに揺れる。


「……識別、更新済み。」


返す。


それは、彼女なりの“現在”の提示だった。


相手は、ほんの一瞬だけ間を置く。


「……不要。」


切り捨てるように言う。


「個体識別は機能で足りる。」


ルナの指が、わずかに握られる。


「……私は。」


言葉が詰まる。


だが――


続ける。


「……選択、する。」


はっきりと。


その瞬間。


空気が変わる。


相手の瞳に、わずかな変化。


「……誤差。」


小さく言う。


だが、その“誤差”を無視しない。


一歩、さらに近づく。


剣也が構える。


リアも同時に動く。


だが――


相手は攻撃しない。


ただ、手を伸ばす。


ルナへ。


「戻れ。」


命令。


単純。


絶対の形。


ルナの身体が一瞬だけ硬直する。


内部命令が反応する。


だが――


「……拒否。」


即答。


完全に。


その瞬間。


ルナの水色の髪が、強く発光する。


色が濃くなる。


揺らぐ。


相手はそれを見て、


初めて“理解”したように目を細めた。


「……やはり。」


小さく呟く。


「残っている。」


剣也が前に出る。


「連れてく気なら、力ずくになるぞ。」


相手は視線を剣也へ。


そして――


少しだけ、口元を動かした。


笑ったのかどうか分からない程度に。


「……必要ない。」


次の瞬間。


空間が歪む。


「なっ――」


視界が崩れる。


結界が解ける。


一瞬で。


元の山へ戻される。


「消えた……?」


剣也が周囲を見る。


反応はない。


完全にいない。


リアがすぐに分析する。


「強制排出。こちらの位相を切られた。」


「逃げたのか?」


「違う。」


リアは首を振る。


「“終わらせた”。」


ルナはその場に立ったまま。


動かない。


髪の光が、ゆっくりと収まる。


「……観測……完了……」


小さく呟く。


そして――


「……次、来る。」


その言葉には、


確信があった。

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