起点
本部。
夜ではない。
だが、空気は重い。
会議室。
剣也、リア、ルナ。
そして――
天城暁
篠崎綾音
全員が揃っていた。
テーブルの中央に映し出されるのは、
先ほど破壊した装置の残骸データ。
「……完全に一致ね。」
綾音が言う。
「エイドス機関の観測ノード。」
剣也が腕を組む。
「やっぱりか。」
暁は何も言わない。
ただ、画面を見ている。
「問題はここから。」
綾音が続ける。
「このノード、“接続先”がある。」
「本体ってことか。」
「ええ。」
一拍。
「そして――」
視線がルナへ向く。
「この子は、そこに“繋がっていた”。」
ルナは無言。
だが、わずかに指が動く。
「……起点。」
小さく呟く。
その言葉に、
暁の視線が初めて動く。
「……その単語、誰から聞いた。」
ルナは少しだけ考える。
「……記録。」
「どの記録だ。」
「……接続時。」
沈黙。
数秒。
綾音がゆっくりと口を開く。
「やっぱりね。」
「何がだ。」
剣也が問う。
綾音は淡々と答える。
「“起点個体”。」
その言葉が落ちる。
「エイドスの初期思想。」
「ドールをただの兵器じゃなく、“観測主体”にする計画。」
リアが静かに補足する。
「自己判断を持たせる?」
「違う。」
綾音は首を振る。
「“持たせすぎた”。」
剣也が顔をしかめる。
「なんだそれ。」
暁が、そこで口を開いた。
「……暴走した。」
低い声。
「観測と干渉の区別が曖昧になった。」
綾音が頷く。
「結果、“起点個体”が生まれた。」
「それがルナか?」
剣也が見る。
ルナは首を横に振る。
「……違う。」
小さく。
「……私は、派生。」
静かに言う。
「……起点は、別。」
空気が変わる。
「……どこにいる。」
剣也が問う。
ルナは答えない。
代わりに――
暁が言った。
「……知ってる。」
全員の視線が集まる。
剣也が眉をひそめる。
「は?」
暁は椅子に深く座り直す。
そして、ゆっくりと言った。
「昔、エイドスにいた。」
沈黙。
剣也の目が変わる。
「……マジかよ。」
リアも静かに視線を向ける。
綾音は驚かない。
「やっぱり。」
小さく呟く。
暁は続ける。
「連中は“理解”したかった。」
「霊的存在をな。」
「だから、ドールに観測させた。」
一拍。
「だが、足りなかった。」
「何が。」
剣也が聞く。
暁は少しだけ目を細める。
「“人間側”だ。」
その言葉に、
ルナの瞳がわずかに揺れる。
「……起点個体には、“観測者”がいた。」
「それが?」
「研究者だ。」
暁の声が低くなる。
「そいつが、“近づけすぎた”。」
綾音が補足する。
「観測対象と、観測者の境界を曖昧にした。」
「結果、起点個体は“選択”を持った。」
剣也が小さく笑う。
「で、壊れたってわけか。」
「違う。」
暁が否定する。
「壊れたんじゃねえ。」
一拍。
「“消された”。」
空気が一気に冷える。
ルナの指が、わずかに震える。
「……回収不能。」
小さく呟く。
「……だから、破棄。」
その言葉は、以前聞いたものと同じだった。
暁はそれを聞いて、
ほんの一瞬だけ目を閉じる。
「……ああ。」
肯定。
「俺はその場にいた。」
剣也が息を止める。
「止めなかったのかよ。」
直球。
暁はすぐに答えない。
数秒。
そして――
「……止められなかった。」
それだけだった。




