再接続点
山道。
空気が違う。
前に来た時と同じはずなのに、どこか“重い”。
「……来てるな。」
剣也が低く言う。
リアはすぐに頷く。
「境界、形成中。完全ではないけど、干渉は始まってる。」
隣で、ルナが止まる。
風が吹く。
その中で――
水色の髪が、わずかに揺れた。
以前より、少しだけ色が濃い。
「……一致。」
小さく呟く。
「ここ。」
剣也が見る。
「覚えてんのか。」
「……断片。」
それ以上は言わない。
だが、足は自然と前に出る。
森の奥。
あの廃墟。
変わっていない。
――いや、違う。
「……おい。」
剣也が目を細める。
「前こんなんだったか?」
リアが即座にスキャンする。
「構造、変化してる。」
「変化?」
「外見は同じ。でも内部の“密度”が違う。」
つまり――
「作り直されてる。」
ルナが一歩前に出る。
無表情のまま。
だが、足が止まらない。
「……誘導。」
ぽつり。
剣也が舌打ちする。
「罠か。」
その瞬間。
空気が“閉じる”。
音が消える。
風も、気配も、全部。
「……来たな。」
リアの瞳が光る。
「局所結界、展開確認。」
外と切り離された。
完全に“戦闘空間”。
廃墟の中。
暗い。
だが、中央にだけ光がある。
装置。
見覚えのない構造。
だが、嫌でも分かる。
「……観測装置。」
リアが言う。
ルナの視線が止まる。
動かない。
「……これ。」
一歩、近づく。
剣也が止める。
「待て。」
だが――
ルナは止まらない。
そのまま、装置の前へ。
「……接続可能。」
小さく呟く。
次の瞬間。
装置が反応する。
光が走る。
「ルナ!」
剣也が叫ぶ。
だが遅い。
接続が始まる。
視界が変わる。
ルナの中へ。
あの白い空間。
だが、今度は違う。
ノイズが少ない。
鮮明。
『――再接続を確認。』
あの声。
男の声。
『生きていたか。』
ルナは答えない。
ただ、見ている。
『いい。データは残っている。』
一歩、近づく。
だが、距離は変わらない。
「……あなたは。」
初めて、言葉を返す。
男は少しだけ間を置く。
『識別は不要だ。』
だが、すぐに続ける。
『お前の“起点”だ。』
その言葉に、
ほんのわずか、内部が揺れる。
「……記録。」
『そうだ。』
『お前は観測する。』
『それだけでいい。』
一瞬、沈黙。
そして――
『だが今回は違う。』
空気が変わる。
『回収する。』
現実。
「切れ、ルナ!」
剣也が叫ぶ。
ルナの身体が震える。
リアが装置に干渉する。
「外部遮断、試みる。」
だが――
遅い。
影が出現する。
複数。
以前より明らかに質が高い。
「……来たな!」
剣也が構える。
リアも即応。
だが、
ルナは動かない。
装置に触れたまま。
「……命令、競合。」
小さく呟く。
「……回収……拒否……」
初めての“拒否”。
その瞬間。
水色の髪が、強く光る。
色が濃くなる。
不安定に揺れる。
「ルナ!」
剣也が一歩踏み出す。
影が遮る。
「邪魔すんな!」
斬る。
一体。
二体。
だが数が多い。
リアが補助に入る。
「剣也、時間を稼いで。」
「言われなくても!」
装置の前。
ルナは動かない。
内部で、何かが壊れる音。
定義が崩れる。
「……観測……継続……」
違う。
「……選択……」
その言葉は、本来存在しない。
それでも――
「……拒否。」
はっきりと、言った。
次の瞬間。
装置が弾ける。
接続が強制切断。
光が消える。
ルナが崩れる。
静寂。
影も消える。
結界が解ける。
外の音が戻る。
剣也はすぐに駆け寄る。
「ルナ!」
抱き起こす。
反応はある。
だが弱い。
「……安定……低下。」
かすれた声。
剣也は歯を食いしばる。
「無理すんなって言っただろ。」
ルナは、ほんの少しだけ目を動かす。
剣也を見る。
「……選択……した。」
小さく言う。
それだけで十分だった。
リアが近づく。
装置の残骸を見る。
「……確定。」
低く言う。
「エイドス機関、観測拠点。」
剣也はルナを抱えたまま立ち上がる。
「……ぶっ壊す対象が増えたな。」
リアは頷く。
「全面的に同意。」
ルナは静かに目を閉じる。
だが、その表情は――
ほんのわずかだけ、
以前と違っていた。




