距離
翌朝、光がカーテンの隙間から差し込む。
静か――ではなかった。
「……重い。」
剣也が目を開ける。
視界が近い。
銀じゃない。
透き通る水色の髪が目に映る。
至近距離。
「……ルナ?」
無表情の顔。
ジト目。
完全に密着。
腕にしがみついている。
「……安定。」
ぽつり。
寝言みたいな声。
「いや離れろ。」
剣也が引き剥がそうとする。
だが、地味に力が強い。
「……拒否。」
「拒否すんな。」
そのやり取りの横で――
「……」
視線。
冷たい。
ベッドの端に座っているリア。
無言。
「……起きてたのかよ。」
「さっきから。」
短い。
感情が乗ってないようで、乗っている。
「こいつが離れない。」
「見れば分かる。」
間。
「……随分、仲がいいね。」
圧。
「いや違うからな?」
ルナは剣也の腕に顔を埋める。
「……優先対象。」
追撃。
リアの眉がわずかに動く。
「……そう。」
静か。
怖い。
「いやだから俺に言うなって!」
リビング。
朝食。
いつもの光景。
――のはずが。
「……近い。」
リアが言う。
「分かってる。」
剣也が答える。
ルナ、隣。
肩にくっついている。
完全固定。
「……これどうにかならねえのか。」
「原因はあなた。」
リアが即答。
「え?」
「安定源に依存してる。」
「そんな仕様あんのかよ。」
「ある。」
断言。
ルナは無言でパンを見ている。
数秒。
「……食事、必要?」
「必要ねえよ。」
「……了解。」
それでも、じっと見ている。
「……なんだよ。」
「観測。」
「やめろその目。」
リアが紅茶を置く。
少し強めに。
「……私の時は、ここまでじゃなかった。」
ぼそり。
剣也が止まる。
「……え?」
リアは何も言わない。
ただ紅茶を飲む。
ルナは首を傾げる。
「……比較?」
「しなくていい。」
即答。
空気が少しだけ重くなる。
剣也は頭を掻く。
「……めんどくせえ。」
だが、どこか悪くない。
そんな空気だった。
昼過ぎ。
ソファ。
剣也は座っている。
その横に、ルナ。
やっぱりくっついている。
「……動けねえ。」
「……問題ない。」
「ある。」
リアは少し離れた位置で本を読んでいる。
だが、ページはあまり進んでいない。
視線は時々こちらに来る。
「……ルナ。」
剣也が呼ぶ。
「……はい。」
「なんでそんなくっつく。」
一拍。
「……安定。」
同じ答え。
だが、続きがあった。
「……あの時。」
剣也が少しだけ目を細める。
「あの時?」
「……停止直前。」
断片的な言葉。
「……接触、記録。」
剣也は思い出す。
山で拾った時。
抱き上げた瞬間。
「……それかよ。」
「……はい。」
リアの手が止まる。
ほんの一瞬だけ。
「……なるほど。」
小さく呟く。
そして、少しだけ視線を逸らした。
その時。
端末が鳴る。
空気が変わる。
剣也が画面を見る。
発信元――天城暁。
「来たか。」
通話を取る。
「どうした。」
『遊んでる場合じゃねえぞ。』
開口一番。
「遊んでねえ。」
『嘘つけ。』
一拍。
『任務だ。』
空気が締まる。
「内容は。」
『境界反応、再発。』
リアが顔を上げる。
『しかも今回は“収束型”。』
剣也の目が細くなる。
「……場所。」
『例の山だ。』
一瞬。
空気が止まる。
ルナの指が、わずかに動く。
「……一致。」
小さく呟く。
暁の声が続く。
『お前ら、現地確認しろ。』
「了解。」
通話を切る。
剣也は立ち上がる。
「行くぞ。」
リアもすぐに立つ。
「装備準備済み。」
ルナはその場で立ち上がる。
少しだけ、間。
そして――
剣也の袖を掴む。
「……同行。」
剣也は一瞬考える。
リアを見る。
リアは静かに頷く。
「……必要。」
短く。
剣也はため息をつく。
「分かった。」
ルナの手を軽く外す。
「でも戦闘は無理すんな。」
「……了解。」
その返事は、少しだけ早かった。
外。
空は静か。
だが――
何かが“寄ってきている”。
境界が、また揺れる。
そして今回は、
“誰か”が仕掛けている。




