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記録されなかった感情

医療区画。


静かな機械音だけが流れている。


処置台の上。


ドールは横たわったまま、動かない。


だが――


「……波形、変化。」


リアが小さく言う。


モニターに、微細な揺れ。


意識の再浮上。


「戻るぞ。」


剣也が低く言う。


白。


何もない空間。


輪郭も、距離もない。


ただ“存在”だけがある。


――起動。


その言葉が、内部に響く。


視界が形成される。


光。


装置。


人影。


『同期率、確認。』


『安定。』


『この個体は問題ない。』


声。


複数。


どれも同じ調子。


評価。


記録。


それだけ。


「……個体識別。」


自分の声。


初めての出力。


返答はない。


代わりに――


『次段階へ移行。』


処理。


更新。


上書き。


場面が変わる。


同じ空間。


だが、違う。


一人だけ。


距離が近い。


白衣の男。


他とは違う。


声が、少し低い。


『聞こえるか。』


ドールは答える。


「……はい。」


『いい反応だ。』


その言葉。


他の評価と違う。


内部に、微弱な変化。


定義できない。


『お前は“観る側”だ。』


男は言う。


『記録しろ。忘れるな。』


「……はい。」


『それでいい。』


一瞬だけ、間。


『怖いか?』


処理が止まる。


その単語は、定義外。


「……不明。」


男は小さく笑う。


『そうか。』


それ以上は言わない。


だが――


その声だけが、残る。


別の断片。


暗い領域。


実験。


定着。


影。


生成。


崩壊。


繰り返し。


『もっと出力を上げろ。』


『耐えられる。』


『記録しろ。』


ドールは見ている。


ただ、見ている。


だが――


内部で何かが蓄積される。


未定義の“負荷”。


また変わる。


警報。


赤い光。


『制御不能!』


『切断しろ!』


『リンクを――』


ノイズ。


混線。


その中で――


あの声。


『待て。』


一言。


だが、遮られる。


『遅い、排除だ!』


衝撃。


世界が歪む。


リンクが、切れる。


――断絶。


初めての“空白”。


処理不能。


命令なし。


優先順位なし。


「……待機。」


それしか選べない。


だが――


その直前。


最後の記録。


あの男。


手を伸ばしていた。


届かない距離。


『――』


音は消える。


だが、意味だけが残る。


――止まるな。


現在。


医療区画。


ドールの指が、わずかに動く。


「……反応、上昇。」


リアが言う。


剣也は近づく。


目を逸らさない。


ドールの瞳が、ゆっくりと開く。


焦点が合わない。


だが、確かに“こちら”を見る。


「……ここは。」


かすれた音。


「セレスティアだ。」


剣也が答える。


ドールは、少しだけ沈黙する。


内部で、何かが照合される。


「……敵対……しない……?」


問い。


確認。


剣也は即答する。


「しない。」


一切迷わない。


その言葉に、


わずかな“ズレ”が生まれる。


想定外。


「……理解……できない。」


正直な出力。


剣也は小さく笑う。


「俺もだ。」


リアが横で静かに言う。


「現在、保護状態。」


ドールは、わずかに目を閉じる。


処理。


選択。


そして――


「……記録……継続……」


それが、彼女の答えだった。


廊下。


外。


暁が壁にもたれている。


腕を組み、目を閉じている。


足音。


振り向かない。


剣也が出てくる。


「……起きた。」


短く報告。


暁はゆっくり目を開ける。


「そうか。」


一拍。


「何を見た。」


剣也は少しだけ考える。


「……人間じゃないのに、人間みたいなもん。」


曖昧な言い方。


だが、核心を突いている。


暁は小さく息を吐く。


「連中はな。」


低く言う。


「“理解するために近づけすぎた”。」


剣也は黙る。


暁は続ける。


「結果、どっちにもなれなかった。」


視線が、医療区画へ向く。


「だから残る。」


剣也は壁に寄りかかる。


「助けたの、間違いじゃねえよな。」


暁は即答しない。


数秒。


そして――


「ああ。」


短く言った。

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