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残された側

本部。


ビルの窓から通りの街灯を見下ろす。


ブリーフィングルームは、いつもより静かだった。


剣也とリアは、先ほどの任務報告を終えたばかりだ。


正面のモニターには、観測点γの記録が再生されている。


男の姿。


領域展開。


そして――


“あのドール”。


映像が止まる。


沈黙。


「……見た通りだ。」


剣也が言う。


暁は腕を組んだまま、何も答えない。


視線はモニターに固定されたまま。


「おい。」


剣也が呼ぶ。


暁はようやく、小さく息を吐いた。


「……ああ、見てる。」


声が、いつもより低い。


「どう思う。」


剣也の問い。


暁は少しだけ間を置いた。


「予想通りだな。」


「何がだよ。」


暁は視線を外さない。


「“連中が動き出した”ってことだ。」


剣也は舌打ちする。


「だからその“連中”ってのは何なんだよ。」


暁はようやく振り向く。


その目は、いつもの軽さが消えていた。


「昔、関わった。」


短い一言。


それだけで空気が変わる。


リアも、わずかに視線を上げた。


「セレスティアじゃねえ。もっと前だ。」


暁はゆっくりと歩き、机に手をつく。


「まだ連合が形になる前。霊装技術もバラバラで、誰もが手探りだった頃だ。」


剣也は黙って聞く。


「その中に、“あいつら”がいた。」


「第三系統か。」


「ああ。」


暁は頷く。


「連中はな、戦うためじゃなく、“理解するため”に霊災を扱ってた。」


「理解?」


「観測して、記録して、再現する。」


淡々とした口調。


だが、その奥に嫌悪が混じる。


「結果として何やったと思う。」


剣也は何も言わない。


暁が続ける。


「“作った”。」


一言。


重い。


「霊災を。」


部屋が静まり返る。


リアが静かに問う。


「人工的に。」


「完全じゃねえ。だが、“限りなく近いもの”だ。」


剣也は小さく息を吐く。


「イカれてるな。」


「同感だ。」


暁は即答した。


「だから潰された。連合がな。」


「じゃあ終わった話じゃねえのか。」


「表向きはな。」


暁の視線が鋭くなる。


「だが、全部消えたわけじゃねえ。」


沈黙。


そして、暁は少しだけ言葉を選ぶ。


「……ドールも同じだ。」


リアの視線が、わずかに揺れる。


「連中はドールも“観測対象”にした。」


「おい、それって……」


剣也が言いかける。


暁が遮る。


「リンクの仕組み、知ってるな。」


「シーカーとドールの共鳴だろ。」


「ああ。」


暁は頷く。


「普通は、切れたら終わりだ。」


リアが小さく答える。


「機能停止。」


「だが連中は、“切れても動く個体”を作ろうとした。」


剣也の顔が険しくなる。


「それが……未帰還ユニットか。」


「そうだ。」


暁は短く言った。


「成功したかどうかは分からねえ。少なくとも当時は、まともに動くもんはなかった。」


「でも、今はいる。」


剣也が言う。


暁はゆっくり頷く。


「見た限りな。」


少しの間。


そして――


暁の表情が、ほんのわずかに崩れた。


一瞬だけ。


「……一体、いた。」


ぽつりと落ちる。


剣也が目を細める。


「昔か。」


「ああ。」


それ以上は、すぐには続かない。


沈黙。


重い沈黙。


リアは何も言わない。


剣也も、急かさない。


やがて暁は、低く息を吐いた。


「回収任務だった。」


視線は遠い。


過去を見ている。


「暴走した実験施設。ドールが一体、残ってるって話だった。」


「結果は?」


剣也が聞く。


暁は一瞬だけ目を閉じた。


「……動いてた。」


短い答え。


「でもな、敵じゃなかった。」


リアの瞳が、わずかに揺れる。


「命令もねえのに、ただそこに“いた”。」


暁の声は静かだ。


「施設の中、ずっと歩き回ってた。」


「それで?」


「連合の判断は単純だ。」


暁は目を開ける。


「“危険物は排除”。」


剣也は何も言わない。


もう答えは分かっている。


「……やったのか。」


暁は一拍だけ間を置いて、


「ああ。」


とだけ言った。


短い肯定。


それで十分だった。


部屋の空気が重くなる。


「それ以来だ。」


暁が続ける。


「未帰還ユニットを見るのは。」


剣也はゆっくり息を吐く。


「だからか。」


「何がだ。」


「放置しろって言った理由。」


暁は少しだけ笑った。


だが、それはいつもの軽さじゃない。


「……ああ。」


否定しない。


「今回は違うかもしれねえ。」


視線が、剣也に向く。


「敵かもしれねえし、ただの観測対象かもしれねえ。」


一拍。


「だがな。」


声が低くなる。


「“選択肢”は残しておけ。」


剣也はその言葉を受け止める。


リアも静かに聞いている。


暁はいつもの調子に戻る。


「任務は変わらねえ。観測点を潰す。」


「了解。」


剣也が答える。


「ただし――」


暁が付け加える。


「“あいつ”に関しては、俺に回せ。」


剣也は少しだけ考え、


「……分かった。」


とだけ言った。


リアも頷く。


「了解。」


暁は二人を見て、軽く手を振る。


「今日はもう上がれ。頭冷やせ。」


剣也は背を向ける。


リアも続く。


扉の前で、少しだけ足を止める。


振り返らないまま、言う。


「暁。」


「なんだ。」


「今回のやつ。」


一拍。


「……同じかもな。」


暁は何も答えない。


ただ、小さく息を吐いた。


扉が閉まる。


一人残された部屋。


暁はしばらく動かなかった。


やがて、モニターを見る。


止まったままの映像。


あのドール。


「……今度はどうする。」


誰にともなく呟く。


答えは、まだ出ていない。

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