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ロクス・アド・ファミリア  作者: 星胤ヒカル
第三章 表裏交錯する武闘大会
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第九話 予測



(そろそろやるべき……です?)



 着替えながら、メイはふと考え込む。



(やはり団長の目を掻い潜るなら、今が最後のチャンスになるです。でも……)



 物思いにふけりながら更衣室を出る。そこで目にしたのは、





 入り口付近で倒れているユーリ団長だった。





「……っ! 団長!」



 素早く駆け寄り、呼吸を確認する。死んではいないらしい。息はあるし、目立った外傷は無い。気絶しているだけだろうか。

 ただでさえこの間、ダンジョンで負傷しているのだ。本来なら助けを呼ぶべきだろう。だが……



(団長がやられたということは……奴らが動いた可能性があるです、そして)



 団長の目を掻い潜り、独自に動きたかった私にとってこの状況は、



(……絶好のチャンスでもある、です)



 意図していないとは言え、望んだ状況が向こう岸からやってきた。利用しない手はない。このまま団長がいない方が、私にとって都合が良い。



「……ティナ」



「はい、ここに」



 ふわり、と長い赤髪をなびかせ、1人のメイドが現れる。私が心の底から信頼できる、ただ1人の子。



「この人を人目のつかない場所に隠しておけです。うちの団長だから、丁重に扱うです」



「かしこまりました、メイ様」



 メイドがお辞儀をすると、ユーリ団長を持ち上げる。団長どころか私よりちっこいメイドなのに、どこからその怪力が出るのかは昔から分からない。



「それと、ティナ」



「なんでしょうか、メイ様」



「それです。2人だけの時は様付けするな、と言ってるです。メイと呼べです。いい加減覚えろです」



 何回この話をさせる気だろう。私にとって最高のメイドと思える彼女の、唯一と言って良い欠点である。



「も、申し訳ありません。ですが……無礼を承知で申し上げますと、旦那様のご息女であるメイ様とそれに仕える私では身分が違います故……」



「身分も何も無いのです。友達に様付けするなです」



「ですが、旦那様が……ええと。その……なるべく、努力はさせて頂きます」



 申し訳無さそうに頭を下げるティナ。



「メイ……様、は、これからどうされるのですか」



 そんなもの、決まっている。本当は今言ったのに治らない様付けに文句を言いたいが……目の前のチャンスを逃す訳にはいかない。



「ティナに話していた通りです。当初の目的通り動くです」



 壁にもたれかかっていたハンマーを手に持つと、ティナと顔を見合わせこくりとお互い頷いた。






 計画の始まりだ。




⭐︎




「アギャアアアアア!」



 うさぎ人形が叫びながら突進してくる。分離した両手を従えながら、その凶悪な牙で噛み砕こうと口を大きく開けていた。

 噛みつきを避けようと後方へジャンプ……



「……ダメだ」



 しようとして踏み止まる。何か、酷く嫌な予感がした。

 こちらが一瞬後退しかけた動きに呼応するように、分離した両手が俺の後方で挟み込むように手を叩く。危うく捕まるところだった。

 安堵する暇もなく、両手に退路を塞がれ前方には口を開けた人形本体。



「仕方ない」



 決断した俺は、わざと突進してくる人形に向かって走る。そして噛まれる直前に身体の上半分を仰け反り、そのまま人形本体の真下を通り抜ける。何も無い虚空の空間を、その凶悪な牙で噛み砕く。



「よっと」



 天を向いていた身体を180度回転させて、滑りを止め片足をつく。正面を見上げると、人形の右手がこちらにグーで殴りかかってきていた。素早くマンゴーシュで受け止める。

 やろうと思えば切り付けられるが、これ以上分離されても厄介なだけだ。マンゴーシュで人形の右手を押し返し、バックステップで距離を取る。

 不気味な笑みを崩さない人形はこちらを嘲笑うかのように、繋がっていない両手で拍手を向けてくる。このうさぎ人形を倒すには……



「きっと何処かにコアがある筈だ。それを破壊しないと……」



 あの人形は、ネプラシェルの魔力で動いている。ということは、何処かに魔力を内包するコアがある筈だ。そのコアとなる部分を見つけ出し、それを破壊しないことには……どれだけ切り刻んでも無駄だろう。



「……あ」



 などと考え事をしている間に、次の攻撃が飛んでくる。人形の左手が、こちらに殴りかかろうとしていた。まずい、反応が遅れた。



「やばいっ」



 咄嗟の防御体制を敷くも効果は無く、思いっきり吹き飛ばされた。世界が空転し、地に叩きつけられる。血と砂の味が妙に苦い。身体が悲鳴を上げていた。



「……ぐはっ」



 人形がのっそりのっそりと近づいてくる。その顔はやはり不気味に笑っていた。咄嗟に動こうとするが全身の悲鳴がそれを許さない。俺は負けを確信した。



「ごめん……カトレア姉ちゃん……」



 倒れ込む俺に、人形の両手が振り下ろされる。負けを覚悟した。






 その時、奇妙な事が起こった。






 突然、人形の動きがとてつもないスローモーションに見え始めた。いや、それどころでは無い。人形の両手の動きが可視化された。攻撃にどの位置に来るか、フレームごとかのように視認して見えた。



「……え?」



 俺は困惑した。



 だが、考える前に身体が動く。



 激情を訴える身体を酷使して立ち上がり、一歩だけ後ろに下がった。人形の両手が地面を叩きつける。



「アギャア!?」



 人形が驚いたような声を上げ、そのまま両手で追撃をしてくる。が、それもスローモーションで捉えて、攻撃の位置が逐一フレーム単位で分かる。俺は最小限の動きで、徹底的に避け続けた。

 疲れたのか、追撃が止む。その内に俺はレイピアで、人形の両手双方を分離しない程度に、手の甲部分を切り払った。



「ウギャアアアアア!!!」



 人形が叫びながら後退する。正面から相対するような状況となった。

 俺は自らの状況を理解した。脳裏に何が起きたか浮かんでいたからだ。



(スキル……軌道予測……)



 若草色の右目が、鮮やかなオレンジに輝いていた。

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