第十話 秘策
「見せて、貴方の全てを。……心眼」
右目が青白く輝き始める。それと同時に、思い出したくない過去がフラッシュバックした。
「ぐっ……」
思わず片膝をつく。殺意の籠った捜索の目が。私を探す獰猛な目が。獲物を求める赤い目が。封印していた筈の記憶が、嫌というほど呼び覚まされる。
「はあ、はあ、はあ……」
人形に囲まれていたことを思い出し、周りを警戒する。しかし、人形達は不気味にこちらを見つめるだけだ。
「……見ないと、ね」
私はゆっくり立ち上がり、心眼を通して周りを見る。
人形達の輪郭が、青白い線になって浮かび上がる。それが奥の方まで、何重にも続いていた。
(……途方もない数ね。でも、私にこれ以上襲いかかる素振りを見せないのは……どういうことだろう)
そう思いながら背後を振り返ると、2つの動く輪郭が遠くに見えた。巨大な人形と、それに対峙する背の小さい人間。人間の方を注視して、そのステータスを確認する。アレスだ。どうやら体力が低下しており、負傷もしているらしい。
(アレスの救援に行きたいけれど……そう都合良く進める訳でも無さそう)
四方八方を観察する限り、私とアレスの間には特に沢山の人形が配置されている。逆に、私から見てアレスと反対の方向には人形の集団が少ない。
(人形の少ない方に誘導して、私とアレスを合流させない……ってところかな)
つまりネプラシェルは、私が人形の集団を見てより少ない方を見抜く所まで予測していた……ということだ。
(……なら、私のすべき行動は)
一つしかないと確信を持っていた。
「アギャアアアアア!」
うさぎ人形が叫び出し、分離した両手でひたすら殴りかかってくる。普通の冒険者ならそれを避け切るなど、決して容易では無いだろう。
しかし、スキル軌道予測で相手の動きを正確に捉えられる俺にはそれが可能だ。体を仰け反る、しゃがむ、マンゴーシュで防ぐ、素早くジャンプ。
(……でも、相手にどうにも隙がない)
全ての攻撃が予測出来るから、避けて防いで守り続けることは出来る。ただ、がむしゃらに攻撃の手を緩めない人形は、どうにも隙が少なく攻め手がない。
(さっきも段々動きが鈍っていったから、それに期待するのもアリだけど)
ただそこまで待っていられる程、俺の身体が動き続ける保証はない。肩から、腰から、身体のあちこちから限界を訴える痛みが止まらない。早く終わらせられるならそうするべきだ。
早く終わらせる最も確実な方法は、魔力の源たるコアを壊す事。でもコアの位置は分からない。魔力の影響で青白く輝いている筈だから、綿で出来ているうさぎ人形なら視認出来てもおかしくないと信じたい。
(……そう言えば、背中を眺めたり股下を潜ってもそれらしい場所は無かった)
目の前のうさぎ人形を見上げる。緩まぬ攻撃は、スキルのお陰で全て防ぎながら。
そして、気づいた。
うさぎ人形の目の位置についている、黒いボタン。その左目側のボタンの奥側が、微かに青く光っているのを。
(……あれだ!)
遂に見つけた。あそこをレイピアでブッ刺せば、この戦いは終わるに違いない。
(場所が分かったなら、切り付けるのは一瞬。だから兎に角、一瞬相手をどうにか静止させないと……)
スキルが発動してから、俺は攻撃を全て避けている。それなら、急に"それ以外の行動"を挟んでみようと決めた。確証はないが、ダメならダメで別案を考えれば良い。
猛攻の中、人形の左手が俺を殴り飛ばそうとグーの形で突っ込んでくる。俺はジャンプして避ける。ここまでは同じだ。
そこから、俺は敢えて静止している左手の上に降り立った。そしてレイピアを少しだけ刺す。綿がポコポコと溢れ出てくる。
「ミギャ!?」
狙い通り、人形が動揺して止まった。
(今だ!!!)
左手を蹴り飛ばすように高くジャンプして、人形の顔の位置まで到達する。そして俺はレイピアを人形の左目に、力のある限りブッ刺した。綿とは違う、何かを刺した感覚が伝わってきた。
「ウギャアアアアア!!!!!」
レイピアを引っこ抜いて地上に降り立つと、人形が奇妙な声をあげて、両手で左目を押さえていた。が、すぐに倒れ込んでいき、そのまま動かなくなった。スキルで視ても、飛んできそうな攻撃はない。
(か……勝った……のか?)
そう思うと、どっと身体中に途方もない疲れが襲ってきた。背を地上に倒れ込む。暗闇の中だから、上を向いても太陽は見えなかった。
「そ、そうだ……姉ちゃんと……合流……しないと……」
悲鳴をあげ続ける身体に鞭打ち、なんとか身体の上半分を持ち上げる。
その時だった。
暗闇が突如、元の戦場の景色に戻った。暗闇に慣れた目が少しチカチカする。兎に角姉ちゃんを見つけようと、必死に周りを見渡す。
地面に倒れるネプラシェルと、剣を鞘に納めるカトレア姉ちゃんが見えた。




