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ロクス・アド・ファミリア  作者: 星胤ヒカル
第三章 表裏交錯する武闘大会
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第七話 心象



 いざ戦場に足を踏み入れると、周りの観客席から途方もない注目を浴びているのが感じられた。正直なところ、逃げ出したい気持ちが無いと言えば嘘になる。



「……姉ちゃん? 大丈夫?」



 気持ちが表情に出たのだろうか、アレスが不思議そうにこちらを見つめる。



「心配しなくても大丈夫よ。アレスは目の前に集中していなさい」



「う、うん……」



 にこやかに言ったつもりだけど、アレスは僅かに訝しんだ目線だった。



「西コーナー! 仲間を守る最強の盾! 馬車屋が誇る最高峰の防御札! アンメル・リッツ! 動物をこよなく愛す人形屋! 武志ギルド団長! ネプラシェル!」



 演劇の神・美佑の紹介に、対峙する2人が観客席に手を振っている。1人は青銅のような鎧を見に纏い、自身の身長ほどもある大盾を構える。整った顔とボサボサの緑髪はトレードマークなのだろうか。いずれにせよ、恐らくこちらがアンメルなのだろう。

 もう1人はアンメルの後ろで、黒を基調として赤い筋の入ったローブで全身を覆っている。ローブの内側が真っ暗で、表情どころか身体が見えない。暗闇の中から、右手だけが飛び出しているような状態だ。



「……後ろの人、なんか怖いね」



 アレスも似たような印象らしく、こちらに小声で囁いた。肯定するのもな……と思った私は、にこやかに笑うだけにしておく。



「東コーナー! 大会参加者最年少! 皆を導く小さな勇者様! アレス・ミューズ! 神も眷属もメロメロ!? 人気ダントツな楓斗ギルド団長! カトレア・ファーレン!」



 美佑の紹介に、今度はこちらに注目が集まる。アレスはマンゴーシュを振り回して挨拶する。私はぎこちなく手を振るに留めた。観客席の各所に、



《カトレアちゃんは俺の嫁》



《カトレアちゃん大好き》



 のような団扇やタオルが見えて辟易する。そう言った阻害物から目を逸らしていると、自然と神様の方を向いていた。

 神様もこちらの目線に気づくと、静かにグーサインだけ見せてきた。思わず表情が綻ぶ。観客席から、



「今俺に微笑んだだろ!」



「おい彼氏でもいるんじゃないのかあれ!」



 みたいな声が聞こえるが、有象無象の絶叫は無視することにしよう。



「はーい、カトレアちゃんで盛り上がるのはそこまでねーーー!!! じゃあ早速やっちゃおうかー! 試合開始ー!」



 美佑の掛け声で、一気に会場の空気が変わった。




 試合開始の言葉と共にアレスが素早くアンメルに距離を詰めて、レイピアを振り下ろす。が、アンメルは早速盾を構えて弾いた。そのまま盾を押し出して吹き飛ばそうとする。

 アレスが左に避けて側面からレイピアを差し込むが、アンメルは盾を横にスライドさせそれもまた防いだ。守りは硬そうである。



「ちびっ子な割に頑張るねぇ、はは」



 アンメルは嘲笑うかのようにアレスを見つめる。だが侮蔑の表情にもアレスは崩れない。



「これでいつも通りです!」



 アンメルの周りを飛び回り攻めるアレスだが、盾による圧倒的防御を前に攻め手に欠けている。私は敢えて少し観察していたが……ならばと思いネプラシェルに距離を詰めて襲いかかった。この彼(彼女?)はずっと動きがないのだ。

 ローブの内側にサーベルを振り下ろすが、いつの間にか飛んできたアンメルに盾で防がれた。勝ち誇ったような表情を浮かべている。



「おっと、団長には手を出さないでくださいね?」



「……守ってばかりでは勝てませんよ」



「勿論、分かっておりますよぉ」



 アレスも参戦し、2人がかりで攻めるがアンメルが徹底的に守り続けている。こちらへの攻撃はほぼ無く、このままでは消耗するだけだ。



「アレス! 一回下がるよ!」



「う、うん!」



 隙を見てアレスと共に後退する。アンメルが追撃しようという素振りは見せない。時間稼ぎのつもりなのだろうか。



「そんな焦らなくても大丈夫ですよぉ。団長が準備出来たら君たちは負けるんですから」



 アンメルの顔が醜く歪む。怒ってもう一度攻撃しようとするアレスを止める。あの言動も、こちらを消耗させようとする作戦だろう。



「優勝候補がなんか調子悪くね?」



「ネプラシェルを警戒してんだろ、多分」



「早苗ギルドは瞬殺だったのになー」




 観客席から冷たい視線と声が届く。そちらが勝手に期待して勝手に幻滅してるだけだろう……と思ったが口には出さない。

 ちらりと神様の方を向いた。隣に座る涼也と話し込んでいるようだった。こちらへの目線は普段と変わらない……が、その目には1ミリも疑いが含まれていない。その横では、ラミアが笑顔全開で頑張れと叫んでいる。

 神様もラミアも、こちらの負けを全く想定していない。そう思うと、頑張らないとと決意出来る。アレスもラミアの様子を見て落ち着いたようだ。



「……完成」



 突然聞こえた声に警戒を強める。少しして、ネプラシェルの声だと気がついた。女性の声だった。

 ローブの暗闇から、両手が出てきた。その手には黒い……薔薇?がある。アンメルの表情が好奇に包まれた。



「……ばぁ」



 ネプラシェルが薔薇を上に投げると、地面から真っ黒の人形が大量に出てきた。そして、戦場の4人を取り囲む。人形同士がてを繋いで、輪っかのような状態になった。



「さぁ、パーティーの始まりだよぉ」



 アンメルは盾を再び構えて防御の姿勢。嫌な予感がした私はアンメルに向かってダッシュするが、時既に遅かった。



 視界が暗闇に包まれた。





「なんじゃありゃ」



 涼也が率直に呟いた。楓斗も目の前の状況を理解するのに少々時間が必要だった。



「黒いドーム……的な? どういうスキルだあれ」



「えーっとだな、確かネプラシェルのスキルは……」



 楓斗は自らの知識を掘り返す。慣れてきた筈の頭痛が、一段と強くなる。



「……神様?」



 ラミアが心配そうに見つめてくる。



「大丈夫だよ、ラミア」



 頭痛と格闘しながら、ラミアの頬をそっと撫でる。



「なあおい、知識詰め込みすぎなんじゃないか」



「余計なお世話だ。そうそう、ネプラシェルのスキルは幽闇劇場。暗闇のドームを作るスキルだな」



「暗闇? ってことはあの中は真っ暗なのか?」



 俺が頷くと、涼也はふーんと考え事をする。



「……大丈夫なのか?お前の眷属」



 涼也は心配そうにこちらに問うが、何も心配する必要は無い。



「大丈夫だ、カトレアのスキル心眼なら……」



 きっとこの状況でも、打破出来るに違いない。

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