第二十八話 偵察
「武闘大会についての紙が届いてたから確認するぞー」
「「おおー!」」
「どういうテンションなんですか……」
ギルド施設内にある会議室。床から天井まで鮮やかに彩る大理石と豪勢なシャンデリアに反して、4人の間は不思議なほど和やかだった。
「……というか、神様とアレスは兎も角、何故ラミアがここに?」
カトレアが首を傾げる。
「お兄ちゃんについて来ただけだよー」
「ラミアが聞きたいって言うからさ。良いでしょ?」
アレスがカトレアの顔を覗き込む。
「その顔見せられたらいいえなんて言えないじゃないの……別に構わないけ」
「やったー!」
ラミアがギューっと抱きつく。
「ひゃん!? ちょっと、暴れないの!」
「えーっと、話進めて良いか?」
武闘大会の話が置いてきぼりなので、楓斗は仕切り直しを図る。カトレアがこくりとうなづいた。
「武闘大会は参加ギルドが15組。2対2で継戦不能になれば負け。対戦カードは当日くじを引く。勝ち残りで対戦していって、最後の1組になったギルドが優勝」
「じゃあ4回勝てば優勝ってことだよね」
「そうね。それで、作戦はどうするの?」
「僕が基本的に前衛で姉ちゃんが後方からサポートになるんじゃない?」
ラミアはキラキラした目で見ている。
「まあそうなるだろうな。カトレア的には他に手はあるのか?」
「無いと思いますね。私が前衛に行っても、アレスが後方から探るのは難しいでしょうし……」
「なら僕が基本的には前で姉ちゃんが後ろ。相手によっては2人とも前。そんな感じ?」
「かな。じゃあそれで頼むぞ」
楓斗がアレスとカトレアを見つめると、アレスは大きくはい、と返事をし、カトレアは頷いた。
「ごめんな、ラミア。アレスと2人で出すことも考えたんだが、団長たるカトレアを出さない訳にも行かなくてな」
「神様、大丈夫だよ! 代わりに、お姉ちゃんとお兄ちゃんを精一杯応援するから!」
カトレアがくすりと笑った。
「ラミア、ありがとうね。お姉ちゃん頑張るから」
「じゃあ姉ちゃん、早速特訓行こうよ!」
「良いわよ。きっちり指導してあげる」
カトレアとアレスが会議室を後にした。楓斗はふと思い出した事をラミアに聞いた。
「そう言えば、ガロンはどこ言ったんだ?」
「ガロンおじいちゃん? 用事があるからーって言ってどこか言っちゃったよ」
その返答にふーんと思い、それ以上は気にしない事にした。ただでさえ面倒事の多い方に、変に首を突っ込むのも違うだろう。
「おいぼれじじい、そろそろ家督を譲る気になったか」
都市南部のとあるバーに、ガロンは呼び出されていた。隣に座るのは20歳前後の青年である。寂れたバーで、2人しか客はいない。
「阿呆。何度言うても無駄じゃ。貴様の様な青二歳になんぞ譲らんわ」
「あーもう、マジでめんどくせぇな」
「儂からすれば、貴様がめんどくさくて仕方ないわい」
2人の前にバーテンダーがやってきて、酒を注いだ。青年はすぐに手に取り飲み干すが、ガロンは一滴足りとも口に運ばない。
「……飲まねぇのか。一応これでもじじいの好きな銘柄用意させたんだけどな」
「そうか、貴様にとって儂は睡眠薬が好きな銘柄になるのか 面白いことじゃて」
「……なんで分かるんだよ」
「わざわざこんな寂れたバーに呼んだ時点で怪しさ満点じゃろうて。まあ睡眠薬は鎌かけただけじゃが」
「はー、うっぜぇ。マジ死ねよおいぼれ」
青年は乱暴に立ち上がると、金をカウンターに置き店を後にしようと歩き出す。が、扉に手をかけたところで振り返った。
「そういや、今ギルドにいるんだってな。じじいのせいで、何か酷い目に遭わないと良いけどな」
はっはっはっ、と高笑いしながら青年は出て行った。
「……貴様がどうこう出来るほど、やわな奴はおらんわい。実力差も計れんのかあいつは」
そしてバーテンダーに違う酒を頼むのだった。
「やっぱり、涼也クンも出るんだネ」
「当たり前だろ。書き入れ時を逃しては、商売人の誇りが許さないからな」
「さては優勝じゃなくて知名度を狙ってるネ?」
調合屋の店先で、販路交渉を無事終えて帰ってきた涼也は店を出て来たところの早苗と出会していた。
「優勝が目指せるならそうしたいが、あいにくお前に勝てねぇし、楓斗にも勝てねぇからな。はあ、お前らみたいな奴らが羨ましいばかりだよ」
「こう見えても案外苦労してるんだヨ?」
「別に苦労してねぇとは言ってねぇよ。でも、それはそれとして妬ましい」
「……楓斗クンは兎も角、こっちに対しては色んな意味が含まれてそうダネ」
早苗が手提げる袋の中に、大量のポーションが入っている。
「……早苗は結局誰出すんだ?」
「まあ、順当にハルマとモミジになるよネ。当然優勝を狙うから手加減はゼロだヨ」
「うわ。当日お前と当たらない事祈るばかりだ」
「まあこっちとしてもキミ達みたいな面倒なタイプはお断りだネ」
無言の睨み合いになる。火花散るその光景に、周りから人の流れが離れ出した。
「あ、やべ。店の前でやる訳にもいかなかった。さては早苗測ったな」
「……自業自得だヨ。じゃあネー」
手をふりふりしながら、早苗は歩いて行く。涼也が店前で何してるんですか、と眷属であるサマルに一部始終を見られて怒られるまで、3分も掛からなかった。
路地の裏の、そのまた裏。光が決して届かない闇の小道。複数の影が蠢く。一つを除く全ての影の首で、銀の首輪が鈍く輝いている。
「……言われた通りやったか」
「は、はい。仰せのままに」
首輪のない影が大きく伸び、見えない天を仰ぐ。
そして語る。
「傲慢な神達へ……
地獄からの暑中見舞いだ」




