第2話 王女ルナリア
遅くなりました。次もかなり遅くなると思いますが、お待ちしていただけると幸いです。
「でえええええ!?お、王女様ああ!?というか旅ってどゆことおお!?」
俺は突然の事に理解が追いつかず、思わず大声で叫んでしまった。
だってそうだろう!?目の前に国の宝である王女様がいて、その王女様といきなり世界中を旅して欲しいってどういうことってなるやん!?
「ちょ、こ、声が大きい!」
「へ?あ、ああ!ご、ごめん・・・」
しーっと静かにするように諌められ、俺は即座に謝った。とはいえ、外まで声は聞こえてしまっただろうな・・・
「うーん・・・それにしても、一緒に旅をして欲しいってどういうことなんだ?」
世話役と名乗った、金髪をツインテールにした女性にそう問いかける。
「それは私から説明しますね」
すると、もう片方の女性ーーールナリアという腰まで届く、美しい黒色の長髪をしたこの国の王女が話しかけてきた。
「改めて、私はこのヴァールタリア王国の王女、ルナリア・アウル・ヴァールタリアと申します。こちらはティニア・ティーグル、私専属の世話役です」
自己紹介を交えながら、ルナリアは話を続ける。
「まずは度重なるご無礼をお許しください。後で私から叱っておきますので・・・」
あははと苦笑いをするルナリアの姿に、俺は少しドキッとしてしまった。
まあ、ティニアという女性の方はムッとしていたが。
「俺はイオと言います。よろしくお願い致します、ルナリア王女」
俺は左胸に右手を添えながらお辞儀をする。
本当は握手だが、流石に王女相手にはできないからな。
「はい。それで、依頼についてなのですが・・・」
ーーー数10分後ーーー
「なるほど・・・」
俺はルナリアから依頼についての説明を受けた。
ルナリアからの話によると、城で何不自由ない生活を送っていたが、自室で読んでいた世界について書かれた本を色々読んでいるうちに外の世界を知りたくなったのだという。
やがて、「世界を知りたい」という欲求が抑えきれなくなったルナリアは、国王や王妃に黙って世話役のティニアと共に城を抜け出し、世界を旅する事を決意した。
その際、「ギルドで依頼として出せばより安全に旅をすることができる」という情報を得て、2人はここにきたということであった。
「・・・申し訳ありません。理解が追いつかないというのは重々承知しております」
ギュッ・・・
「ですが私は、生まれてからこの国を、ましてや城の外にも出たことがありません。だから知りたいのです。世界がどうなっているのかを」
「・・・」
ズボンをギュッと握りしめながら切実に話すルナリア。
「だからどうかーーーどうかお願いできないでしょうか!?お願い、いたします・・・!」
椅子から立ち上がるのと同時に、ルナリアは俺に向かってお辞儀をする。
彼女も必死なのだろう。いつも見ている、王女としてのルナリアとはまるで別人の様な姿だ。
それを見ていると、ある疑念が浮かんでくる。
「お話は分かりました。ですが・・・何故国王や王妃に相談せずに?」
「!」
それは話の中にあった、「国王や王妃に黙って」という部分だ。
「一市民の自分が言うのもなんですが・・・確かご家族とは仲が良かったはず。相談すれば、その辺りは配慮して貰えると思うのですが」
「それは・・・」
そう聞くと、ルナリアはううっ、と俯いてしまった。
「実はーーー」
「ん?」
すると、それを見ていたティニアがルナリアの代わりに話し始めた。
「国王陛下ーーーヴィリアス様は最近、ルナリアとは話をしていらっしゃらないの。それどころか、自ら避けていらっしゃるのよ。リムル様も同様に、ね」
「え?」
・・・これは流石に驚いた。そんな事情があったとは。
「だからルナリア様は独断で城を抜け出した、と?」
そう聞くと、彼女は頷きながら答えた。
「はい・・・」
(どう言うことだ?この前あった国王の演説の時は、疎遠な感じには見えなかったように思えたが・・・)
俺は半年前の、国王の演説を思い出していた。
あの時、王家全員が民衆の前に顔を出していたが、普通に会話をしていて疎遠とは程遠いほど仲が良かったはずだ。
(ここ半年で何かあったのか?それとも・・・うーん?)
「あの・・・?」
すると、俺がいきなり黙り込んだことに心配したのか、ルナリアが声をかけてきた。
「ーーーへ?あ、ああ!すみません、ちょっと考え事をしていたので」
「そ、そうですか・・・」
(いかんいかん、いつもの癖が・・・)
俺の悪い癖で、依頼者が何か事情を抱えていると、色々と深く考えすぎてしまうのだ。
だが、依頼者が困っているならきちんと最後まで解決するのも俺の役目ーーー深く考えてしまうのは駄目ではないはずだ。
「それで、貴方どうするの?この依頼、受ける気はあるのかしら?」
「そうだな、色々な事情があるのは分かった。でもーーー」
俺は立ち上がりながら話を続けた。
「どんな依頼も受けるのが俺の流儀です。どのような事情があっても大丈夫ですよ」
「!それじゃ・・・!?」
「ええ。依頼、お受け致しますよ。ルナリア様」
俺は頷きながら依頼の承諾をした。ルナリアも同じように立ち上がり、俺の手を取りながら喜んだ。
「あ、ありがとうございますっ!この恩は一生忘れませんっ!」
「い、一生って・・・」
流石に一生というのは言い過ぎだとは思うが、それ程嬉しかったのだろう。
悪い気は・・・うん、しないな。
(良かったわね、ルナリア)
その様子を、ティニアは安堵しながら見ていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あれ?いつものように受けたけど・・・考えてみたら王女と旅するのって、いろんな面で大変な気がするような?・・・ま、いいか。なんとかなるだろ。
・・・多分」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーーんで?ま・た、依頼をギルドに先に通すのを忘れて勝手に受けたと。なるほどねえ」
「・・・はい、ごべんなざい」ボロッ
あの後俺たちは受付に戻り、ルナリアの素性は伏せた上で、依頼の趣旨と承諾の云々を説明した。
まあ・・・その直後、ラウリーから「笑顔」で顔をガリガリとばりかかれることになってしまったが。
「だ、大丈夫ですか・・・?」
「な、なんて凶暴な・・・」
ルナリアとティニアはその様に顔を青くしていた。
当然だ。なにしろ俺の顔をばりかかる時のラウリーの顔は、見る者全てが恐怖に染まるような鬼の形相だったのだから。
何故こうなっているのか?理由は単純、「勝手に依頼を受けたから」だ。
本来依頼は、ギルドの受付を通してからでないと正式に受けることができない仕組みになっている。
緊急を要するような依頼は例外だが、基本はギルドの受付を通した後なら依頼を受けることができる。
俺はあの時、その規則があったのをすっかり忘れ、勝手に依頼を受けてしまったのだ。
尚、その場合は冒険者側の自己責任となり、ギルド側には何の責任も行くことはない。
・・・のだが、殆どの場合は「何故か」ギルド側の確認不足として処理されてしまうことが多く、一部の責任者からは不満の声が上がっている。
「ら、らいじょうぶらいじょうぶ、ははは・・・」
(痛え・・・)
俺は平然を装いながら頷くが・・・うん、痛いですラウリーさん。やるならもうちょっと抑えめでやって欲しかったです。
あーでも、これで100回目だっけか?ならこの仕打ちは妥当か、ははは・・・
「はあ・・・全く懲りないですね、イオさんも」
治癒術をかけながら、エルドはため息をついた。
みるみるうちに傷が治っていき、顔の腫れも引いていく。
「いってて・・・あ、ありがとなエルド」
未だ引き攣る痛みを抑えながら、エルドにお礼を言う。
「お礼はいいですから、とりあえずラウリーさんと話をきちんとつけてください?」
「そうよ。ちゃんと話をしたら、ラウリーちゃんも許してくれるわよ?」
「お、おう」
俺は頷きながら、頬をプクーと風船のように膨らませているラウリーに向き直り、改めて依頼の話をした。
「と、とりあえずラウリー。依頼についてはさっき話した通りだ。報酬は今は用意できないけど、後で必ず払うみたいだから、よろしく頼むぜーーー」
「んー!!」
「あ・・・よ、よろしくお願いできますでしょうか・・・?」
顔を膨らませながら発せられた怒りの声に、俺は咄嗟に敬語で言い直す。
さ、流石にこれ以上、彼女を怒らせるわけにいかないっ!
「・・・ん」
「へ?」
するとラウリーが右手を差し出してくる。
意図がわからない俺は、思わず気の抜けた返事をしてしまうが、
(もしかして、右手?)
と、ジェスチャーで「右手?」と送ると、ラウリーは小さく首を縦に振ったので、そのまま右手を差し出す。
ギュッ・・・
「・・・え?」
ラウリーは俺の右手を取るとーーーなんと、両手で優しく包み込んでくれたのだ!
・・・いやなんかされんの俺!?
「・・・全く、相変わらず勝手なんだから。こっちの苦労も分かりなさいよ、この馬鹿っ」
すると予想に反して、ラウリーは心配をするような優しい口調で俺に話しかけてくる。
いつものラウリーとは違うその様子に、俺は少し戸惑ってしまう。
「っ、ご、ごめん・・・」
「ちゃんと無事に帰ってきなさいよ。死んだら・・・絶対に許さないからね!」
「だ、大丈夫だって!ほら、俺が死ぬような事なんてないからさーーー」
「お前、今まで受けた依頼のこと忘れたのか?」
「あ・・・」
ガランに指摘された俺は、返す言葉が見つからなかった。
(ふふ、イオさんって人気があるのですね♪)
(いや、人気とは違うような気がするんだけど・・・)
ーーー城下町・中央通りにてーーー
ギルドで依頼について話をした後、俺達は街の中央通りに来ていた。
「そういえばルナリア様、まずはどこに行くのか決めているのですか?」
ふと俺はまず何処に行きたいのか聞いていないのを思い出し、彼女に聞いてみた。すると彼女はうーんと唸りながら、
「そうですね・・・あ、そうだ!この場合、まずは近くの街に行くのが鉄板!なんですよね?」
と、王女らしからぬ発言をしてきた。
「いや何処で仕入れたんですかその言葉ぁ!」
思わず俺は漫才のようなツッコミを入れる。
「えっと、確か冒険の心得?というのに入ってました!他にも色々あって・・・」
するとルナリアは、懐から本を取り出してパラパラとページをめくった。
「『魔物との戦いは常に危険と隣り合わせ、命を大事にする事を最優先に!』とか、『休息は旅において必要不可欠!疲れた時はまずは体を休めよう!』とか!あとはーーー」
「あー、ルナリア様?」
・・・いかん、これは長くなるやつだ。止めなければ。
「あ!そういえばこういうのもあるんですよね?えーと・・・」
俺の静止も聞かず、ルナリアは続けようとしていた。
「ルナリア」
すると、ティニアが肩に手を置きながら彼女を止める。
「?ティニア、どうかしたのですか?」
「周り、見てみなさい」
周りを見るように促す。そしてーーー
「〜〜〜っ///」
周囲の目が自分に向いていたのを察知したのか、顔を真っ赤にしながら俯いた。
「ゴ、ゴメンナサイ・・・」
「いや声ちっちゃすぎるやろ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「とりあえず近くの街となると・・・ここから近いのはクレバルですね」
あのあと色々あったもののとりあえずルナリアが元に戻ったので、これからどうするのかを地図を広げながら話した。
(クレバルか。ここからなら1時間もかからない所だな)
クレバルーーー何度か依頼で行ったことのある街だが、木材のみで作る「モダート洋式」の建物が多く並んでおり、中々風光明媚な場所だ。
「それじゃ、まずそこに行きましょ」
「ええ!」
目的地が決まったのが嬉しいのか、ルナリアはキラキラと目を輝かせながら頷く。
(本当、こうしてみると王族とは思えないな)
俺は心の中で、彼女の所作について考えていた。
(いや。蓋を開けてみれば彼女も普通の女性だ。こうなるのは同然かな)
今まで王族として育ってきた彼女。こんなに楽しくしているのは、その反動かもしれない。
「あ、そういえばイオさん!」
ふと、ルナリアに呼ばれ、俺は足を止めた。
「?どうかされましたか?」
「これから一緒に旅をするのですから、イオさんも私のことは好きな呼び方で構いませんよ?勿論、敬語も無しで大丈夫です!」
内容は名前の呼び方や話し方に対することだった。
確かにこれから旅をする仲なんだし、大丈夫なんだろうけど・・・
(とはいえ、流石に様とか敬語とかを使うと怪しまれるからな。それにしても、好きな呼び名か・・・)
とりあえず、彼女からの提案は飲むことにしておこう。
「はは、それじゃお言葉に甘えてーーー行こうか、ルナ」
「ルナ・・・ふふ、はい!」
(いきなり愛称呼びって・・・まあいいかな。ルナリアも嬉しいみたいだし)
改めてルナリアーーールナの名前を呼び、正門に向かって歩き始めようとした。
「ーーーようやく見つけましたよ、ルナリア様」
「え?」
「!」
その時、俺達の背後からルナの名前を呼ぶ声が聞こえた。
振り向くとそこにはーーー
「ルナリア様、城へお戻りください。ヴィリアス様がご心配なされていましたよ?」
「まあ落ち着きなさいミュレー。急かさなくてもルナリア様は戻られますよ。フフフ・・・」
20人は下らない兵士と黒い鷹を連れた女性、そして蛇の刺繍を所々に施した深紅の甲冑を纏った隊長らしき人物がいた。
「へストール・・・」
(はーん?なんであいつがここに?)
第二話 終了
ここまでみてくださりありがとうございました。