第3話 慌ただしい旅立ち
随分と空いてしまい申し訳ありません。
「ヘストール…」
「ふむ、私がどうしてここにいると。そう思ってらっしゃるのですね?」
深紅の甲冑に身を包んだ騎士、ヘストールは顎に生えた髭を触りながら続ける。
「親衛隊は、王族の方々がどのような場所に赴いてもお守りするのが務めです。ならば、このような場所に我々が赴くのは当然のこと。お忘れですかな?」
そう言って、彼の視線がふとルナリアに向いた瞬間——わずかに、動揺したように見えた。ルナリアは今、チューブトップを基調とした冒険者用の軽装姿。露出は高めで動きやすいが……まあ騎士からすれば目のやり場に困る格好だろう。ヘストールが咳払いを一つして、視線を逸らした。
「?」
「……ルナリア様。王族たるお方が、そのような……ええと、格好で不遜な態度の者と行動を共にされるのは、いささか……」
「なんか動揺してないかお前」
俺の指摘にもう一度咳払いをする。
…間違いなく、完全に動揺しているな。
「て、ティニア?貴方もですよ。その様な格…格好…」
「た、隊長?目が泳いでますよ?」
そばにいた黒い軍服に身を包んだ女性、ミュレーの言葉にまた咳払いをするヘストール。ここまでくると、もっとからかいたくなる。が、このままでは話が進まないのでここまでにしよう。
「で?誰が不遜な態度だって?俺はそんな態度一つも取ってないぞ?」
腰に手を当てながらため息をつくと、ヘストールはむっとした様な顔をした。
ヘストールーーー王族の警護を担当する親衛隊の隊長だ。
謹厳実直を絵に描いたような人間で、本来しなくてもいい仕事を自ら買って出るほどに忠実。だが任務に厳しすぎるあまりに、度々ギルドや住民とのトラブルを起こす少々困ったやつでもある。
「よく言えますね。別の隊が税収を取り立てた時、問題を起こして怪我を負わせたこと、覚えてないとは言わせませんよ?」
「いやあれ、兵の方が剣で脅してたから、代わりに俺がやったんだぜ?市民から見たら正当防衛だろ」
「それは…うん…まあ、そうか…その件に関してはすまないと思っております」
いや素直すぎるだろ。まあこの様に、兵としてあるまじき行為をする奴に対しても厳しいから、なかなか憎めない奴だ。
「と、とにかく!あなたの様な人間と行動をしているルナリア様は放っては置けないのですよ。ですからルナリア様、王宮へお戻りください」
俺たちの周りを兵士たちが囲む。流石は親衛隊、動きが上手い。
「…ルナ、ティニア。俺が合図したら目を瞑れ」
「へ?わ、わかったわ」
「は、はい…?」
二人の返答を聞いた俺は、口角を上げながらヘストールに向き直る。
「なあヘストール。こういう言葉あるの知ってるか?『人間万事塞翁が馬』」
「ん、東洋の言葉ですか。それが?」
「人生って予測不可能だよな。何が起きるかわからないし」
「確かにそうですね。でもそれがーーー」
ニヤ…
「予測不可能って…こういうこともあり得るよなあ!?」
そういうのと同時ーーー俺は懐からあるものを取り出し、地面に向かって投げつけた。
「二人とも、目を閉じろ!」
ボーーーーーーン!!!
それは閃光弾ーーーそう、俺が作った特製の目眩しだ!
「きゃああ!?」
「ちょっ!?」
「ぐわああ!?め、目が!?」
「な、何も見えない!?」
事前に指示を出したルナとティニアを除く全員が突然の強い光で目を遮らざるを得なくなった。無論、ヘストールとミュレーも例外ではない。
「くっ…煙ではなく光…ですか!?」
「た、隊長!目が…!」
「こ、これでは見えない…!イオめ…!」
そしてこの隙を逃すはずはない!
「ルナ!ティニア!」
ガシッ!
俺は二人の手を取り、出口に向かって走り出した!
「ひゃあ!?」
「わっ!?」
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「閃光弾とは初めて見ましたね…やられました」
「いかがなさいますか?隊長」
イオ達がその場からいなくなった後、ヘストール達は周辺の捜索に出る。だが3人の痕跡が見つからず、途方に暮れていた。
「…仕方ありませんね。陛下には私から報告いたします。ミュレー、しばらく私の代わりに指揮を取りなさい」
「はっ!」
ヘストールから隊を任されたミュレーは早速兵士たちに指示をする。
「…」
報告のために王宮へ戻ろうとするヘストール。だが、その背中はどこか寂しげだった。
「ルナリア様…」
歩き出すのと同時に、ルナリアの名前を呟いた。まるで、自分の子供の名前を言うかの様に…
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ヴァールタリア王国の首都グランヴァール。その中で一際目立つ大きな建物が存在している。
ハスカリア王宮ーーーヴァールタリア王国を治める王族が住む宮殿であり、そして王国を象徴する建造物である。
その中にある執務室で、この国の王であるアリアスはヘストールから報告を受けていた。
「ーーー以上です」
「そうか…わかった」
椅子に座りながら聞くその姿は、とても国を治めている王とは思えない程、哀愁に満ちていた。
「ルナリア…」
ヘストールが部屋から出た後、自分の娘であるルナリアの名前を呼びながらため息を漏らす。
「…アリアス。何を考えている?何故ルナリアを逃した?」
その様子を物陰から見ていた一人の男が、アリアスにそう言い出した。
アリアスはその男をジロッと睨みつけ、ふん、と一蹴する。
「不満だろうな。だが私は、『言うことを聞く代わりに私の出した事に口を出さない』という条件をそのまま実行しているだけだ。違うか?」
「…」
男は口を紡ぎながらアリアスの言葉を聞いていた。
「…ふん、いいだろう。もう貴様は我々の計画には必要ない」
シュン…
「だが、お前が今した事は別だ。いずれ後悔する事になるぞ…」
男はそう言い残し、その部屋から消えた。アリアスは男の気配が部屋から消えるのを感じると、椅子から立ち上がりながら窓の外を見た。
「…望むところだ」
第3話 終了
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