一か月後
本日、3話同時更新。
この話は2話目です。
半分休日、半分仕事。やりたいことをやりたいようにやって過ごす日々は思ったよりも長く続き、あっという間に一か月が経過。夏の暑さも過ぎ去って、すっかり過ごしやすくなった今日この頃……俺はユーダムさんと、再び実験場のログハウスに来ていた。
「そろそろ時間ですね。お迎えする準備は」
「万全さ。だけど、一体何があったんだろうね……」
これから来るのは、セバスさんとローゼンベルグ様。ローゼンベルグ様が無事に出張先から戻った後、以前アローネさんにお願いしていた伝言が伝わり、また瘴地管理や呪術の指導をしていただけることになった。
ただ、例の出張先の状況は聞いていた以上に悪かったらしく、公爵家からの手紙には俺の呪具が役に立ったというお礼に加えて“相談したいことがある”とも書かれていた。
だから急いでスケジュールをすり合わせたのだけれど……確か、この国の呪術師の元締めとでも言うべき高位貴族が仕切っている場所で、なお対応に困る事態とはどこまで酷い状況なのだろうか?
「あっ、噂をすれば」
セバスさんの転移魔法であろう魔力を外に感じる。急いで扉を開けるとやはり2人が山道に立っていた。ローゼンベルグ様が少々お疲れに見えるので、本当に何かあったようだ。とりあえず挨拶をしつつ招き入れ、用意していたお茶を出して一息入れてもらおう。
「遠い所を御足労ありがとうございます」
「いえいえ、セバス殿のおかげで楽なものですよ。ここに来ればもてなしてもらえますし、君の指導にはほとんど手間もかかりません。休暇のように感じているくらいですよ」
「是非、ゆっくりしていってください。実は最近少し時間があったので、ここにも手を入れてみたところなんです。主に宿としての環境や利便性を向上させて、保養地としても使えるようにしてしまおうかと思っています。
でも考えていたらどんどん作りたいものが増えてしまって……今あるのは前より質の良い寝具類と、裏に作った大きなお風呂場だけですが」
「ゆっくり眠れてお風呂に浸かることができる、それだけで十分に贅沢ではないですか。今から楽しみですよ」
うん……出発前にも思ったけど、本気でローゼンベルグ様から社畜の雰囲気を感じる。そして共感してしまう。本当に忙しい時って、ゆっくり寝られるだけでもありがたいものなぁ……
何があったか聞きたいけれど、もうしばらくは仕事の話はせずに休んでもらおうか……という考えが頭に浮かんだところで、
「ふふふ、お気遣いありがとうございます。ですがご心配なく。休むにしてもやるべきことを終えてからの方が、精神的にゆっくりと休めますからね」
「確かに、仕事が残っていると思うと気になってしまうのはありますよね。では、面倒な話を片付けてしまいましょうか」
俺の思考を察したローゼンベルグ様の言葉により、例の相談が始まる。
「まず、リョウマ君にはお礼を。君の作った呪具は確かな効果を発揮し、我々の力になってくれました。これは私だけでなく、今回の現場に出た呪術師の総意だと思ってください。代表して指揮を執っていた責任者、つまりカーシェル公爵家からの感謝状を預かっています」
「感謝状。しかも参加者の総意とは、話が変な方向に大きくなっていませんか?」
「妥当でしょう。リョウマ君の呪具と、それを量産可能にする能力を評価された結果ですよ。感謝状という形式については、貴族としての打算が含まれたものと考えてください」
「打算というと」
「まず、私は君の呪具を配る際に“最近新しい弟子を持ったこと”、“才能があり早くも防護の呪具を作れるようになったこと”、“効果は十分と判断して持参したこと”この3つしか伝えていません。責任者であるカーシェル公爵家の方にもです。
しかし相手も貴族ですし、私が出仕しているのがジャミール公爵家と知っていますので、向こうの手持ちの情報と併せて、私の新弟子がリョウマ・タケバヤシであることが見抜かれました。近頃は特に、貴族の間で話題に上がっているそうですね?」
「そうらしいですね」
グレンさんや暖房関係の件もあるから、他所の公爵家が俺の名前を知っていることに不思議はない。新弟子であることに繋がったのは、ジャミール公爵家で働いているローゼンベルグ様が時間を割いて教えているから、仲介と許可があったと見たとか?
……公爵家レベルの情報網がどこまで調べられるのか分からないから、ひとまず置いておこう。
「僕が弟子だと発覚したことと、感謝状が送られることの関係は?」
「カーシェル公爵家は、いわばこの国の呪術師のまとめ役。そうでなくとも貴族として、有能な呪術師とは繋がりを持っておきたい、と考えるのは自然なことです。
しかし、君はジャミール公爵家の技師という立場であり、重用されていることも周知の事実。下手に声をかけて“引き抜き”と思われると面倒ですからね。
要するに……感謝状という形で君への好意を明らかに示しつつ“引き抜き工作ではない”という点も明確に主張しているわけです。
ちなみに、君の呪術師の互助会への登録を勧められることはありませんでしたが“呪術師としての活動を行う上で、何かあれば相談に乗る”と伝えることも頼まれましたね。これも同様の理由です」
「たった一通の感謝状にそこまでの意味が」
貴族の政治的意図が多分に含まれていると思うと、テーブルにそっと置かれていた封筒が随分と重厚に見えてくる。
「リョウマ様、どうかお気を楽に。今回の感謝状については私も、旦那様も内容を把握しております。当家との関係に配慮されているだけで、先方の感謝と好意からのものですので」
「文面通りに読み取って構わない、と。ではありがたく、素直に受け取らせていただきます。先方からの言伝も承りました」
セバスさんからのフォローもあって、思わず警戒していた体から力を抜く。
「しかし、僕のミサンガはそんなに役立ちましたか? 聞いた感じだと、かなり優秀かつ熟練の呪術師の方々が集まっていたようですが」
「腕の良い呪術師が集まっていたからこそ、私が細かい説明をせずとも呪具から君の素養を推測できたのでしょう。
確かに呪いを防ぐ効果だけであれば、より効果の高い物を作れる術師は大勢います。ですが事前準備が整っていたところで、1000個を一度に用意できる人は多くありません。しかも1つ残らず、質の良いものでした。
たとえ効果がそこそこでも、高く安定した生産力を持つ人材は非常にありがたい存在なのです。今回のように必要とあらば惜しみなく提供してくれるくらい、他者に協力的なら尚更にね」
業界全体が人手不足かつ、呪具は生産に時間がかかるという話は前に聞いていた。今回の評価には業界の背景にも一因がありそうだ。
「個人的には、もう少し高く評価されてもいい。まだ低いくらいだと思うのですがね……」
「これ以上ですか?」
「そうですよ? 先程は“あの場ではもっと効果の高い物を作れる人が大勢いる”とか、”たとえ効果がそこそこでも”と言いましたが、リョウマ君ならやろうと思えばもっと効果を高めて作れるでしょう」
「まぁ、それは確かに」
「私は君が“化生の手”を使っている所に立ち会いましたからね。あれと比べれば、呪具に込められた術が全力ではないことも分かりますし、君が新しい術を生み出す速度を考慮すれば、効力を高められないとも思えないので。
あれを無断で詳しく説明するわけにもいきませんし、すんなりと理解されるとも思えないので詳細は語っていませんが……おそらく先方は“防護の術を習得し、呪具作りで修練中”、“一晩ではなく弟子入りしてから作り溜めていた物を放出した”という認識かと。
その程度の認識なら、打算と好意を込めて感謝状を贈る程度が妥当、という判断になります」
だから本当ならもっと評価が高くていいのだ、とローゼンベルグ様は断言した上で、連絡にあった“相談”に話を繋げた。
「率直に言いますと、君の呪具をこれからも定期的に納品していただきたいのです。価格は前回の3倍を払う、というカーシェル公爵家からの確約もあります」
「生産体制は整っていますし、継続的に納品することは可能です。というか既に呪いをかける前のミサンガは増産に入っていて、現時点で5000本は在庫が溜まっています」
「……話が早くて大変助かりますが、そんなに用意があるのですか?」
「ローゼンベルグ様からの相談があるとしたら、現実的なのは追加の呪具の用意しか思い当たらなかったので、用意だけしておきました。もし間違っていても、ミサンガなら保存も難しくないですからね」
公爵家の技師という立場もあるが、それ以前にいくら強力な術が使えたとしてもと、呪術を習い始めて間もない子供に対し、ベテランでも手を焼く現場に来て働けと言われることはないだろう。組織立って活動しているなら尚更、内部の反発もあるはずだ。
「あとは運も良かったんですよ。ミサンガの生産を依頼している教会の孤児院の子達が、随分とやる気を出してくれているので。なんでも卒業が近い子供が数人いるから、卒業後の余裕を持たせてあげたいということで、年少の子供達が団結したようですね」
「一番早い子は2か月後だったっけ? 今後10年孤児院で生活する子なら少しずつ溜めていけばいいけれど、卒業間近じゃその時間がないものね。だからって卒業の準備を放り出してミサンガ作りをやるわけにもいかないだろうし」
ユーダムさんがさりげなく補足してくれた通り、時間的に俺の依頼で稼ぎきれない子供達がいた。そして彼らは孤児院で下の子供の面倒をよく見て、慕われていた子達だった。だから時間的に余裕のある年少の子達は、これまでの感謝を込めるように頑張っているのだ。
「全部買い取ってもらえるかどうかを恐る恐る確認された時は、思わず笑顔になりました」
「それはそれは、心温まるお話ですな」
「縄の生産のためにも多くの奴隷を雇用したと聞いていましたが……呪具の生産が多くの人のためになっているのであれば、素晴らしいことですね」
「自分で言うのもなんですが、好循環を生み出せていると思います。この好循環を維持していくためにも、呪具が売れるのは助かります。ですから今回のご相談は僕にも利益があると思っています。
……しかし防護の呪具が必要ということは、それだけ危険に晒されている人がいるということですから、あまり喜べませんが……それでも僕の呪具が役に立つなら、できるだけお手伝いをしたいと考えています」
俺がそう言うと、ローゼンベルグ様は肩の荷が下りたと言わんばかりの笑顔を見せる。
「重ね重ねになりますが、ありがとうございます。特に今回は状況が状況ですから、防護の呪具は一際需要が高まっているので、本当にありがたい」
「やっぱり、相当状況が悪いのですね? 聞いているだけでも組織力がある呪術師の集団が、本腰を入れて対処に困るような」
「最初は良かったのですよ。入り口付近から施設の中央あたりまでは、困難ではあれど対応は可能でした。しかし中央あたりからさらに難易度が上がり、ある区画に達したところで……処理の前に先んじて調査をしていた1つの班が壊滅しました。
後の調査により、該当区画に放置されていた呪物は既に呪いが複雑に混ざり合ってしまっていた可能性が高く……さらに厄介なのは、有能な呪術師であった初代のものと思われる“施設防衛・盗難防止用の術”までもが、呪いの塊に混ざり込んでいました」
「防衛用の術が混ざっているということは」
「呪いの塊としてただそこにあるだけでなく、侵入者に対して、今回の場合は調査員に向けて呪いによる攻撃が行われたのです。内部の呪いが上乗せされた形で……」
「余計に状況が悪化している……」
初代の人は全く悪くない。至極真面目に呪術師として、施設管理人としての責務を果たそうとしていただけだ。後継者、特に3代目が管理を放棄して隠蔽したのが悪い。
この点に関してはローゼンベルグ様も、この件に携わった他の方々も同じなんだと思う。通常なら何の問題もない、正当な判断と行動の結果だからこそ、なんとも言えない気持ちになる。鬱憤を抱えても、それをどこかに向けることもできないのだ。思い出して渋い顔にもなる。
「その、被害に遭われた方は?」
「まず調査を行っていた班員6人が同時に昏倒。さらにその様子を目撃し、救助を行った後続の班員には影響が出て3人が重症です。意識はありますが、脱出中にじわじわと体が動かなくなり、奇声を発して苦しみ暴れていると聞いています。
発動の鍵は特定の区画への侵入。区画から離れるにつれて威力は弱まり、発動時その場に居合わせていない者への被害はありませんでした」
治療は行われているものの、ローゼンベルグ様が帰還のために現地を離れた時点で、回復の目途は立っていなかったらしい……
「彼らはいずれも呪術師として熟練かつ、確かな実力者です。また、呪物を邪な目的のために欲する者もいますので、保管施設に盗難防止の術がある可能性は想定内。万全を期して挑んだ結果がこれなのです。
彼らが実力者であり、事故が起きた場合に備えて治療の準備が整えられていたからこそ、昏睡や重症で済んだと言えるでしょう。何か1つでも手抜かりがあれば、彼らはその場で命を落としていました」
「不幸中の幸い、と言っていいのでしょうか」
暴れているとなると、いっそ死んだ方がマシなほどの苦しみなのか……と考えてしまうが、それは口にできないし、したくない。
「そこは呪術医の腕と本人の努力次第でしょう。このような危険は、呪術を扱う以上、大なり小なりあるものです。リョウマ君も気をつけてくださいね? 君は強力な術も、新しい術を生み出す器用さも持ち合わせているので、特に」
「呪術の利便性と危険性は表裏一体、と肝に銘じます」
なお、事故後の調査では瘴気の発生も確認され、現場責任者が短期での問題解決は不可能と判断。施設は封鎖と世俗からの隔離が最優先事項になったとのこと。
「具体的には施設周辺の森を切り開き、施設を囲うように城壁および管理や作業を担う人員のための拠点として、砦を1つ作ることが決定しました。そのためには当然、今回の調査のための簡易的な拠点作りとは比べ物にならないほど、多くの労働者が動きます。
もちろん呪術師でない方を保管所に立ち入らせることはありませんが、備えは必要ですからね。防護の呪具はいくらでも欲しいのですよ。あればあるだけ、現場の呪術師に余力が生まれるので」
「そこで僕への依頼に繋がるわけですね」
「リョウマ君のミサンガは腕に付けるだけで使えて手軽ですし、活動の邪魔にもなりにくいことも評価されていましたよ。呪術師には服装に制約がある者も多いですから」
「そう言っていただけると、やる気が出ます。
そうだ、早速作ってしまいましょうか? 術をかけるだけですし、手元に入ったことを確認した方が安心でしょう」
ということで、アイテムボックスから用意していたミサンガの箱を5つ取り出す。1箱につき1000本入り。中身が分かりやすいように、上蓋にはミサンガの焼き印が押されている。モッシュ工房で作ってもらった仕上がりの良い箱だ。
この内の1つから、ミサンガを一本取り出して……心持ち強めに術をかける。
「ローゼンベルグ様、この質でいかがでしょうか? ご確認ください」
「ほう、これは……さらに術の扱いに慣れましたね。以前よりも明らかに早く、安定しています。効果も前のものより強くなっている」
「呪術もそうですが、最近色々と鍛えている中に魔力操作も含まれているので、その影響もあるかと」
「様々な活動をしていることは知っていますが、勤勉ですね……確認できました。このミサンガと同等の質でお願いします」
「かしこまりました。では早速……『術写し』」
品質確認の取れたミサンガを受け取り、それを元にして残り999本のミサンガに術を写し取る。これにより一箱1000本全てのミサンガが、防護の呪術をかけられたミサンガになった。なお、術の名前に関しては端的かつそれっぽいものにした。
コピペをイメージしたとはいえ、そのまま『コピペ』だとしっくりこない。要は気分の問題である。
「ひとまず1000本できました。もう一度ご確認ください」
「これが前に聞いた量産用の呪術ですか。……素晴らしい、確かに呪いがかかっているだけではなく前回と同じく均質。効果にムラがない」
「質については、術のイメージ的にそれが普通ですね。欠格品が出る可能性はありますが、いくつも見つかるようでは問題ですし」
イメージはコピペだけど、品質に関してはマニュアルとオートメーションの違いにも近い気もする。ローゼンベルグ様の確認方法も、全部ではなく無作為に選んだ100本を確認している。完全に工場で行われる抜き取り検査だ。
指でミサンガをなぞるように、丁寧かつ素早く確認していく彼の表情を見るに、どれも合格のようだ。確認した物は次々と箱に戻され、やがて最後の一本が戻された。ここで再度、箱入りの1000本を元にして、残りの4箱の4000本に呪いを写せば――
「はい、これで5000本が完成しました」
「なるほど。規格が定まっていさえすれば、箱ごとでも写せるのですね」
「その通りです。今回は効果を強めたので、念のために少量から試して魔力の消耗を確認しました」
「確かにこの術は、対象が多すぎると一気に魔力を失いますね」
ちゃんと注意すべきところは注意している。……けど正直なところ、呪術だとあまり魔力を消費していない。これは“負の感情で魔力を増幅して使う”という呪術の性質から、普通の魔法より少ない魔力で十分な効果が得られてしまう。若者風に言えば、コスパ最強なのだ。
尤もローゼンベルグ様の教えや反応からして、ここまで自由に扱えて消耗も少ないのは、よっぽど呪術が俺に向いているから。もっと言うなら、まず間違いなく前世のあれやこれやがあるせいだろう。
……そう考えるとちょっと微妙な気分にもなるけれど……使えるものは使えるんだからしょうがない。意図したものではないとはいえ、文字通り生涯を費やした訓練の成果、精々今後の役に立って貰うとしよう。
「ひとまずこれで在庫分は使い切りましたが、足りますか? 追加が必要であれば、少しお時間をいただきますが」
「十分です。量も質も期待以上。これで私も良い返事ができますよ」
確認をしている時から明るくなってきていたが、とうとう晴れ晴れとした表情を見せてくれた。これだけ喜んでもらえるなら、制作者としても嬉しいものだ。
「助かりました。仕事が増えるのもありますが、それ以上に現場の雰囲気が絶望的で、悪魔が出ると皆が口々に言っていましたよ」
「えっ、悪魔がいるんですか?」
今まで聞いたことがないけど、この世界には悪魔もいたのか? 魔獣もいるし不思議ではない、と思ったら、
「ああ、失礼、悪魔とは呪術師の間でたまに使われる比喩です。古い逸話に“恐るべき呪いあるところ、瘴気を纏いて悪魔が生まれいずる”という言葉がありまして、今回のような惨状を表す言葉になっているのです。
本来は呪いの危険性を訴え、呪術の扱いを誤るべからず、呪物の管理を怠るべからずといった、呪術を扱う上での戒めが込められていたのではないかと言われています。要は呪術師が使う慣用句ですね」
「ということは、悪魔はいないと」
「少なくとも私は見たことがありません。手に負えない現場なら何度か経験しましたが、それだけです。
しかし、魔力にあてられた動植物が変異を起こすこともありますので、強力な呪いによって偶発的に、その場に存在した何かが“悪魔”と称されるに相応しい存在に変じる可能性は否定できません。
とはいえ逸話自体が何百年も昔の話であり、現代では実際に見た人がいないので、本気で信じている人はほとんどいないでしょう。あくまでも過去の教訓を含んだ昔話という認識が一般的です」
魔法や魔獣があるならと思ったけれど、ギリギリあり得るかも? と思えるくらいの迷信のようだ。
「そうなんですか……ん?」
ふと気づくと3人の大人達から、生暖かい視線を感じた。
………これ、アレだ。“御伽噺を信じて目を輝かせる子供”を見るような目。存在しない悪魔の話に食いついたから誤解されたのだろう。もしかしてと思っただけなんだけど、これ弁明しても余計にそんな子供の反応になるよなぁ……
「えーっと、そうだ。これで呪具の納品依頼は一旦完了ということで。追加はまた後日に。
次は前回の授業を踏まえて、こちらで行った訓練や課題についての報告、また判明した出来事から今後のことまで、色々と相談させていただきたいのですが」
「ええ、もちろん構いませんよ。私はそのために来たのですからね」
「さーて、ここからが本番だね」
「私もお手伝いさせていただきます」
うん、これはこれで誤魔化した感じになってしまった。弁明してもアレだけど、今でも大差はないのでは?
なんだか久しぶりに子ども扱いを受け、俺は疑問に思うのであった……




