魔法の杖作り・座学編
本日、3話同時投稿。
この話は1話目です。
翌日
昨夜のうちにギムルまで戻り、今日は朝から軽く廃坑の見回りを行った。ギムル北鉱山は俺の家だが、公爵家から預かっている土地でもあるので管理を怠るわけにはいかない。
尤も、以前は魔獣の巣になっていた坑道の大半は既に封鎖済み。見回りはリムールバード達、下草刈りはスライム達に任せておけばいい。封鎖していない坑道もほとんどゴブリン達の酒蔵など、普段から何かに使っているのでさほど手間はかからない。
散歩気分で山を一回りしつつ“今後何かに使うかもしれない”という理由で残していた数本の入口に、工場から引き取った縄を張って呪いをかけるだけで作業らしい作業は終了。まだ昼にもならないのに手持無沙汰になってしまった。
「どうするかなぁ……」
つい昨日、“しばらくはゆっくり休める”と宣言したばかりなので、本当にしばらくはゆっくり過ごすつもりなのだけれど……何をしていいのかが分からない。いざ休もうとすると、毎回こうなるから困る。
やりたいことは沢山あるのだけれど、やりたいことをやっていると周りからは“働きすぎ”に見えるようだし……基本的に毎日遊びまわっているのと大差ない、と個人的には思うんだけどな……
俺の感覚的に仕事とは“生きていくためのお金を得るために、嫌な事でもやらなければいけないもの”だから、好きなことをやって十分以上に稼げている時点で幸せなのだ。その上結果が出てやりがいがあれば、もっと時間を割きたいとすら思う。
「とはいえ健康に問題が出ると良くないのは当たり前だし、皆さんも心配してくれているわけだからね……」
理解はしている。ありがたいとも思っている。だからといって手持無沙汰にならないかどうかは、また別の話なのだ。
「……そうだ、教会に行こう」
■ ■ ■
ということで教会、もとい神界にやってきた。
「いらっしゃい、竜馬君」
「おう、よく来たな。なんかあったか?」
今日いるのはルルティアとテクンだけのようだ。他の皆は仕事中なのだろう。
「お疲れ様。今日は何もないから来た」
「あらあら」
「教会の連中が聞いたらブチ切れるか、目を剝いてぶっ倒れるかのどっちかだな」
笑いながら座る場所を用意してくれたので、遠慮なく座らせてもらう。
「あ、これ差し入れね。前と同じでうちのゴブリン達が作った清酒と、あと軽食を何種類か。軽食の方は街の屋台で適当に買ってきたもので悪いけど」
「んなこと気にしなくていい、っつーかむしろ珍しくて嬉しいぞ」
「お供えをしてくれる人は沢山いるけど、屋台のご飯を供えてくれる人はいないものね。あるとしても教会の周りで売っている“お供え物セット”みたいなものだから」
「俺も教会で屋台飯を供える度胸はないなぁ……こうして直接渡せるからこそだよ」
「気持ちは分からんでもないが、俺としてはもう少しこういう物が増えて欲しいな。その方が人間の生活に近いだろ」
テクンが肉の串焼きにかぶりつき、続いていつの間にか満たした盃を煽った。
ルルティアも野菜の炒め物を小皿に取って、清酒と一緒に食べ始める。
俺達はしばし雑談をしながら酒と屋台飯を味わい、小腹が満たされた頃、
「そういや竜馬、今日は暇なんだよな? だったら前に話していた魔法の杖の作り方、教えてやろうか」
「是非」
思い出したように切り出された申し出はありがたく、二つ返事で受けた。
「よっしゃ! それじゃ早速始めるぞ! まずは杖の仕組みからだ。仕組みに関しては魔法に通じる部分も多いから、竜馬なら理解はしやすいだろう。ちゃっちゃと行くぞ」
「よろしくお願いします」
俺が一礼すると、テクンは盃に残っていた酒を一気に飲み干す。
「まず、魔法の杖の良し悪しはどこで決まると思う?」
「杖の良し悪し……まず思い当たるのは“質の高い魔石”、これまでに何度か魔石を扱ったことがあるけど、良質なものが高価で杖にも使われたはず。あとは、魔力が通りやすい杖が良いと聞いたかな」
良質な魔石は杖に限らず、高度な魔法関係の物に使われている。また、魔力の通りやすさに関しては亡霊の街でレミリー姉さんが、自作する杖についての加工法について話す過程で軽く聞いた。
「間違いじゃねぇが、正確でもねぇな。なら、その辺の細かいところを補足していく形でいくか……
まず魔法の杖ってのは魔法を使う際の補助道具だ。絶対に必要な物ではない。ただ、杖を使うと威力が上がる、魔法の発動が楽になる、魔力の消費量が減る等の効果がある。
これが何故かっつーと“魔力の変換と維持”を助けるからなんだ」
魔法を使うには体内にある魔力を体外に放出し、イメージにより魔力の属性を変換して維持し、発動する。この3つのプロセスの内、どれか1つでも十分にできなければ失敗してしまう。また、この3つのプロセスの中で最も重要と言えるのが変換と維持。
テクンの言葉を聞いてまず1つ理解できた気がしたのは、
「杖には霧散する魔力を留める働きがある?」
「おう、それがまず1つめの機能だ。魔力はただ放出しただけじゃ霧散する、だから魔力操作で霧散しないように維持する。特に属性を変えた魔力は無属性より扱いにくいからな。杖を使うことで維持が楽になれば、当然魔法も使いやすくなるわけよ」
まだ街に出て間もない頃、俺が土属性の魔力でスライムをアーススライムに進化させた時、エリアや奥様が真似をしようとしてできなかったのもこれが原因だ。
「そんでもって、もう一つの機能は変換。人間は魔力の属性を無属性から別の属性に変換できるが、全ての魔力を変換できるわけじゃないんだ」
「そこでまた無駄が出る、と。ちなみに一般的な魔法使いは何%くらいの変換率?」
「熟練するにつれて無駄は減っていくから、曖昧になるが……ぶっちゃけ、人間だと熟練者でも半分行く奴は稀だろうな」
「そうね。魔法を初めて成功させたくらいの初心者が1桁台。一人前と呼べるくらいになったら10~20%。30%もあれば熟練者で、40%を超えたら天才と言っても良いと思うわ。魔法に長けた種族、例えばエルフとかだともう少し上がるでしょうね」
つまり、大多数の魔法使いは放出した魔力の三分の一も使えていないわけか……俺はどの程度かも気になるが、それ以上に70~80%は使えていないと考えたらかなりの無駄だ。そしてこの変換の無駄を改善するのが、魔力の変換機能。
「まぁ、変換を助けるとは言っても、杖を使うだけで100%使い切れるわけじゃない。杖の素材と職人の腕、それらが合わさった最終的な杖の品質によって、プラス10%~30%ってとこだな」
「完全に無駄なく魔力を使い切るのは私達とか、神獣とか、それに近しいドラゴンとかじゃないと厳しいわね。長命で研鑽に何百年と時間をかけられるのが前提みたいなところがあるから」
「なるほど……変換効率についてはあまり気にしない方が良さそうか。ただ、杖を使うだけで10%も上がるのは大きいな」
こうして数値で教えてもらえると、杖が魔法使いの基本装備になる理由がよく分かる。
「状況と目的にもよるけどね。
たとえば完全な初心者が一から学ぶ時、杖の補助があれば魔法を使う感覚を掴むのは早くなると思うわ。でも、そこからずっと杖に頼ってしまうと技術の習得が遅れるの。下手をすると杖がなければ魔法が使えない、なんてことにもなりかねないわ。
魔法という技術の鍛錬という点に注目するなら、杖なしで腕を磨き続けた方が良いのよ。だから体系的に魔法を指導する場では、初心者はまず杖を使って練習。その後に杖の使用を禁止し、一人前になったら再度使用を許可するところが多いわね」
「魔法使いを育てることを考えたら、そうなるのか……」
杖という道具が使われてきた歴史の積み重ねで、道具の使い方や指導方法が確立されたと考えると面白い。
「よし、次に行くぞ」
ここでテクンがおもむろに腕を振ると、目の前にシンプルなデザインの1本の杖と数本の枝。さらに道具類の入った箱が2つ現れた。よく見ると杖は本体と頭部に分かれており、頭部には大きな魔石がはめ込まれている。
「魔法の杖の素材は基本的に魔力を通しやすい木の枝が良いとされている。代表的なのはトレントの枝だな。竜馬も見たことはあるだろう」
「一度トレント狩りをしたから覚えている。懐かしいな……」
トレントは体内に魔力を、人で言う血液の様に巡らせて生きる魔獣。だから枝に魔力が通りやすくなっていると聞いた記憶がある。
「トレントに限らず魔法の杖の材質となる木材は、地中から吸い上げた水分や栄養素を木全体に運ぶための管に魔力を留める性質があってな。これが勝手に霧散していく魔力を減らすんだ」
「木の“維管束”が重要部位、それから杖全体の内、本体が魔力の維持を助けるための主要パーツになると」
「ついでに管に沿って魔力が流れる過程で、魔力の流れを整える働きもあるから、魔法の命中率が上がるぞ。店に相談したらまず“真っ直ぐな杖を選べ”と言われるくらいだ。実際、魔法が感覚的に理解もしやすくてハズレも少ない」
「整流器としての機能もあるのか……」
これは知らなかった。
「魔力を保持できる量は木材の種類と品質による。さらに特定の属性に向いた種類もあるが、この辺は専門の職人を目指さない限り詳しい説明は要らないだろうから今回は省くぞ。
そこまで話すには時間が足りねぇしな。
とりあえず“魔力が通しやすくて、魔力保持の性質が強い木”を使うとだけ覚えとけばいい。それも現代ではって話で、大昔の人間は近場にある木で適当な杖を作っていたんだ。それが経験則で材質を選ぶようになって、研究を重ねて、今の基本ができた。
質のいい杖が溢れている今じゃ売れはしないだろうが、自分で使う分にはどんな木を使って作っても間違いじゃねぇ。基本となる要素を知った上で作るなら、何でどう作ろうと竜馬の自由さ。その辺は好きなように研究するといい。
好きだろ? そういうの」
「また新たな沼にハマりそうな気がして躊躇するくらい好きだ」
本当に、本っ当に楽しそうなのが困る。昔のゲームでモンスターの配合表があると、コンプリートするのが好きだったけど、これはそれ以上に際限がないのが既に目に見えている。
「ここまでで本体部分が魔力維持と整流に影響すると分かった。ということは、魔石は変換の役割が?」
「察しの通りだ。魔石は杖の先端に取り付けて、杖を通る魔力を魔石に流し込む様にする。
これは魔力の性質の話になるんだが、無属性の魔力は他の属性の魔力の影響を受けやすくてな。特定の属性の魔力が多くある場所を通り抜けると、それだけで一部が染まるんだよ。質の良い魔石ほど顕著にな」
「自身で変換しきれなかった魔力から、さらに一部を魔石が変換してくれる。だから変換効率が上がる」
「この魔力の変化を専門用語で魔力の“純化”と今の人達は呼ぶみたいよ」
「魔石を使う主目的はそれだが、魔石に蓄えられた魔力を上乗せして魔法を放つこともできる。杖が一気に劣化するから、緊急事態に使う裏技だな。こっちは杖作りにはさほど関係ないから、頭の片隅に置いとくだけでいい。
杖に付ける魔石は、当たり前だが使用者の得意とする属性を選ぶこと。竜馬の場合は全部の属性の杖を作って持っておけばいいんじゃねぇか? 空間魔法があれば持ち運びには困らないだろ」
確かに、材料が足りなくてもお金には困ってないので注文すればいい。基本的に魔法を使うのは日常の作業だから、杖を使うことで効率アップも期待できるかもしれない。
「ここまでが杖作りに関して、知っておくべき基礎知識だ。分からないことはないか?」
「今後また新しい疑問が出てくる可能性はあるかもだけど、教えて貰った内容はすんなり理解できたと思う」
「なら先に進むぞ。ここからは実際に作りながら説明するから、竜馬も手を動かしながら聞け。技術ってもんは知識だけ蓄えても頭でっかちにしかならねぇからな」
そう言うと、テクンは横に置かれていた枝と工具箱を一組、素早く俺の前に並べるのだった。




