第八話 「自分の限界を見極めながらうんたらかんたら……とりあえず今は素振りでもすればいいと思うよ」
第八話
「自分の限界を見極めながらうんたらかんたら……とりあえず今は素振りでもすればいいと思うよ」
このあいだの入れ替え戦の結果。
僕と三島さんは4組に上がった。
『ダーリン! あたしね、4組に上がったの!』
三島さんがクラス替えの発表を見たあと公衆電話で彼氏に報告をしていたが、『ダーリン』という呼び方はなんだか不思議な呼び方だなぁ……と僕は思った。
ともかく、これで4組に上がった。
ちなみに、ダイイチ中学校では1組の人と2組に所属する選手が全日本中学野球選手権大会に出場出来る。そう考えると5組から4組に上がることは一見大きなことではないかもしれないけど、それでも嬉しいことに変わりはない。
それから、2ヶ月。
僕たちは4組で割といい成績を残していた。
僕は、打率.270、盗塁9、本塁打1。
三島さんは防御率3.86、4勝2敗1セーブ。
「なんだかすごく調子いいわね! 4組に上がって給食のおかずが一品増えたからかしら!」
三島さんは若干興奮気味に言った。
「あんまり楽観はしないほうがいいと思うけどね……」
僕は言った。
それから、とある放課後の金曜日。
午後8時、あたりはすっかり暗くなっていた。
僕は下校しようとすると、おそらく先輩と思われる方が校門前のベンチに座っているのが見えた。
その方は、ぼんやりと空を見つめていた。
「……今お帰りですか?」
僕が聞くと、「うん……」とその方はつぶやいた。
「中学校生活も早かったなあって思って」
「……ひょっとして、3年生の先輩ですか?」
「うん、そうだよ。残念ながら今の時点の所属は3組で、今年の夏の大会には出られないんだけどね。悔いはないというか、昔が懐かしいというか……そんな気分でベンチに座ってたんだ」
「……そのお話、よかったら少し聞いても大丈夫ですか」
「いいよ。あんまり派手なことはなくて面白味はないかもしれないけど」
僕が先輩の隣に座ると、その先輩は話を始めた。
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最初5組からスタートしてね。なかなか上の組に上がれなかったんだけど、ショートの守備を磨いて、守備要員としてなんとか3組まで上がったんだ。
それから、2年の夏の大会前。僕は補欠の補欠で2組に上がった。
あのときの嬉しさといったらなかったね。
大会中、守備機会は2回。打撃機会は1回。
守備は、無難にゴロとフライを処理した。
打撃は10-1で大量リードしてるときで、平凡なファーストゴロ。
そのあと僕の出番は無かったけど、でもチームは決勝まで進んだ。
僕はその間声だしをしたり、雑用をしたりね。
でまあ、その時が僕のピークだったみたいで、その後は3組から4組を行ったりきたり。こないだのチーム入れ替えが公式戦に出場するラストチャンスだったんだけど、3組残留で終わった。
でも、色んな場所でプレーすることが出来てよかったよ。5組から2組まで色んな特色と面白さがあった……。
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「……実は、キミを噂では聞いたことがあったんだよ。豪快な女子生徒と小柄な男子生徒が協力して5組で成績を上げてるってね。ちょっと変わってるかもしれないけど、とりあえず頑張ったらいいんじゃないかな。ヒトには、かならず『始まりと終わり』があると思うから。成長して、ピークを迎えて、そして下降線へと向かっていく……。だから、『終わり』を迎えた時、悔いが残らないように、とりあえず今は素振りでもなんでも挑戦してみればいいと思うよ」
先輩は言った。
「さてと、そろそろ帰らなくちゃ。ゴメンね、君の話も聞きたかったんだけど、話に夢中になったら帰る時間になっちゃった」
時計を見ると、午後9時を回っていた。
「……先輩は、これからどうされるんですか?」
「……そうだね……ちょっと休んで、それから考えようかな……」
先輩はそう言うと、「ばいばい」と言ってベンチを立ち、それから歩いて校門を出ていった。
それからしばらくして、掲示板の高校合格者の中に、お話を聞かせてくれた先輩の顔写真と名前が載っているのを見つけた。
堅実な野球をする高校で、公式戦でも毎回けっこういいところまでいくんだとか。
先輩、進学しても活躍するといいなぁ……。
と、三島さんが僕の肩を叩いた。
「何見てるの?」
「……人生、かなあ」
「ジンセイ? ???」
三島さんは不思議そうな顔をしていた。




