第九話 「3組の壁」
第九話 「3組の壁」
そんなこんなで4組に上がっても打率が上がり続けたという幸運も重なり、僕は3組に上がった。
しかし、ここで問題が発生した。
5組→4組に移動したころと違って、4組→3組に移動すると全く打てないことが分かった。
打率は.090まで急降下。
「なんだろこれ……」
と、同じくして3組に上がった三島さんも落ち込んでいた。
「あたしさ、こないだから3連続KOされたんだけど…0回3/2イニングで7失点の連続とかありえない……」
3組に上がれば給食はかなりリッチになってくる。ごはん、味噌汁、魚かお肉、それにつけあわせが2、3品。
が、打てないとあまり食欲がわかない。三島さんでさえ、3杯はおかわりしていたご飯が1杯のおかわりにとどまったぐらいだ。
そこで僕は、3組担任の平先生にお話をお伺いに行ってみた。
そして、今までのことを一通りお話させて頂いた。
と。
「そりゃあ、5組4組は努力すればなんとかパス出来るさ。だがな、3組を超えると自分の『強み』っていうものが必要になるのよ。分かるか」
「強み、ですか」
「そうだ。例えば、球速はいまひとつでもキレのあるスライダー。例えば、守備はダメでもホームランをかっ飛ばせる力。それから、ナインの人間関係を上手くまとめる力とかな。何か一つ磨けば、3組で立派にやっていけるさ」
「例えば、僕は何を磨けばいいでしょうか」
「アホたれ。それは自分で考えるんだよ」
「そうですか……」
僕が職員室から出ようとした時、
「……バットコントロール」
平先生の声が背中からかすかに聞こえた。
「えっ?」
「何でもねえよ、へたっぴ青二才」
平先生は言った。
僕は、平先生のお話をお伺いした後、バッティングセンターに向かった。
バットコントロールを上げるため。
また家に居る時は、野球の本のインデックスを眺めたりもした。
3組に定着するには、長い道のりになりそうだな……と思った。
それからまもなく、「3組の壁」という言葉を知った。
それは、3組に定着出来るかどうかがこの野球学校での一つの壁なのだそうだ。
1シーズンで4組に舞い戻る生徒も居れば、長い時間をかけて3組に定着し、ステップアップしていく生徒も居る。
特に「3組の壁」という言葉に関して、生徒の間で噂になっている、過去在籍していた生徒が居た。
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それは、ずっと5組~4組在籍で、ある時急に3組に定着出来た生徒。
けれどその生徒は、本来3組の力は無かったそうだ。どうみつもっても、4組どまり。
彼自身もそのことに薄々気づき始めた。
そこで彼は、彼自身の独特な方法で能力を引き上げた。
『感受性の開放』
その生徒を見ていた先生の一人が、彼の突然の能力の向上を、そんな風に説明した。
ある日から、同じ練習をみていても、彼は1.25倍のことを理解するようになった。
けれど、全てのことにおいて、他の生徒の1.25倍神経を使うようにもなった。
喜びも、悲しみも、何もかもにおいて。
彼は、世界の全てから受けるエネルギーを通常以上に吸収する力を持った。
それが『感受性の開放』と言われたものの正体。
どのようにして彼がそのような能力を手に入れたのかは、誰にも分からなかった。
かといって、何か悪いことに手を染めている様子も無かった。
ともかく、『感受性の開放』は時に彼を苦しめ、しかしその代償として、打力、守備能力を向上させた……。
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「不思議な話もあるものね」
三島さんは言った。
「ま、とはいえ私たちはそんな能力を手に入れる方法も知らないし、何より色々背負いそうで大変そうだし。あせらずいきましょう……とはいえ、アタシは3連続KOされてるからちょっと頑張らないとヤバいけど……」
「僕も打率.090だし……」
三島さんと僕は、はあっ、とタメ息をついた。




