第三話 「切腹!! 私立ダイイチ野球中等学校」
第三話
「切腹!! 私立ダイイチ野球中等学校」
僕は、1年5組の女子の試合を見ていた。
女子は男子ほど多くはないので、1年4組の女子が混ざって試合が始まる。
今日の三島さんは先発ピッチャー。
カキーン!
ビューン!
カキーン!
……。
「ふうー、9回8失点に抑えたわ、上出来ね」
タオルで汗をふきながら、三島さんは笑みを交えて言う。
ちなみに今日の試合は、8ー5で三島さんのチームは負け。
三島さんはこれで今期1勝3敗。防御率15.00。
「9回8失点だと、防御率8.00だね……」
僕が何気なく言うと、僕はいつのまにか三島さんに鉄拳を頭にくらっていた。
僕が頭蓋骨のじりじりとした痛みに思わずうずくまると、三島さんはその頭上から、
「ばかっ! 人が完投の喜びにひたっている時に水をさして! これでも、前よりはマシなの! 前は9回18失点とか結構あったし」
「そりゃ前と比べたらいいかもしれないけど、野球が本業の場合、どうしても防御率4.00ぐらいが必要じゃないかなあって思っちゃって」
「まあそれはそうだけど……。仕方ないじゃない。打たれちゃうんだし。ていうかあんたの試合も前に見せてもらったけど、相当なものだったわよね」
「3打数0安打1四球3三振だった日だね……。それで打率は1割9分」
「あたしと大差ないじゃない!」
「確かに……」
三島さんと僕は黙った。
そして三島さんはタメイキをつき、
「ああーあ、早く4組に昇格したいわねえ……。確か4組に上がると、給食のご飯とお味噌汁にもう一品つくのよね。ああーあ、焼きジャケとか切干し大根とかヒジキの煮物とかつくのかしら、いいなあ……」
「三島さん、意外と食が渋いね……。それはともかく、地道に頑張るしかないんじゃないかな」
「まあね……。ところで、あんた私の今日のピッチングについて言うことある?」
「……そうだね、たとえば、ピンチの時にど真ん中に投げることが多くて、それで失点してた気がする」
「ピンチの時ど真ん中に投げてた? あたし」
「うん。例えばワンアウト1、3塁の時、今までボールを内側に投げたり外側に投げたりしてたのに、その時だけ急にボールが真ん中に集まってた。それで、1ストライクノーボールの2球目を打たれたり」
「はあー、そっかあ……。なんだかあたし、ピンチになるとパニックになっちゃうのよね。それでとりあえずえいやって適当に投げちゃってるのかも」
「だから、次はピンチの時に少し落ち着いてみたらいいんじゃないかな。一呼吸つくとか。そしたらまた少し失点が減るかも……」
僕は、少しおせっかいだったかな、と思いながらも言うと、三島さんは案外怒らずに、
「……サンキュ」
と言ってくれた。
「……ところで、次はあたしの番ね」
「?」
「あんた、前の試合で妙に見逃し三振が多かったけど、ひょっとして相手のピッチャーの考えとか読もうとしてその間に見逃しくらってるんじゃないの」
僕は、その指摘に驚いた。
実際そのとおりだったからだ。
「あんたさあ、ピッチャーだって人間なんだし、何か考えてる時もあれば何も考えてない時もあるわよ。だから、ある程度ピッチャーの球を見たら、あとは考えすぎずにバンバン振ったほうがいいんじゃない? そしたら、あんた力は無いけどボールをバットに当てるのは上手いみたいだったし、内野を抜くことくらいは出来るでしょ」
三島さんはキンキンに冷えたスポーツドリンクをガブガブ飲みながら言った。
「……三島さん、すごい」
僕が言うと、
「ヤメてよ。私は、思ったことをそのまま口にしただけなんだから」
三島さんはそう口では言いながらも、少し照れた様子だった。
それから、ちょっと考えた様子をした後、何かを決心したような真面目な表情で、
「こうなったら、あんたとあたしは一心同体よ。あたしの苦手な技術とか観察とかは、あんたが補う。で、あんたが苦手な直感とか熱意とかの部分はあたしが補う。それで、1年4組に二人で駆け上がるの。分かった? 途中で投げたりしたらあんた切腹してもらうからね」
「切腹……!」
「あたりまえでしょう。あたしは本気よ。そのかわりあたしが脱落したらショートケーキ5個くらい食べるわよ」
「それ、何の交換条件にもなってないよ!?」
「ばかっ、ショートケーキ5個も食べたらたちまち体重が増えて切腹したくなるのと同じくらいの気持ちになるの!」
「むちゃくちゃだあ」
僕は情けない声を出したが、三島さんはとりあってくれなかった。




