第二話 「なんとかなるさ 私立ダイイチ野球中等学校」
第二話
「なんとかなるさ 私立ダイイチ野球中等学校」
「まあ、5組のお前らは今は米と味噌汁だけの給食だ。しかし、頑張れば4組や3組に上がって良い飯を食う事が出来るようになる。もちろんそれだけが野球で得られる全てではないけれども、それもモチベーションのひとつとしてぜひ練習に励んでもらいたいんだな、うん」
担任の聖先生が言う。
確かにもっともだ。
僕は打者だから、たくさん打てばいい。単純で分かりやすい。
しかし、野球のみというのが参ったなあ……。
せめて普通科だったら、体育が苦手だったら学科でカバーするとか、色々方法があったと思うのだけれど。
……普通科の学校に今から転入を試みる?
しかし、一度決めた道をあっさり投げちゃうっていうのも何だかなあ。
僕は、悩んでいた。
そして、結局特に結論も出ないまま、僕はあてどもなく外を散歩することにした。
※※※
グラウンドでは、声を出してピッチング練習やらバッティング練習やら行われていた。
普通の中学校だとサッカーとか陸上とか色々あるのだけれど、この中学校は完全に球児だけというのがちょっと不思議な光景。
そこに、背の高い一人の女生徒がキャッチャーを座らせ、バッターを立てて、実戦形式のピッチング練習を行っていた。
僕は、少しだけその光景を覗いてみた。
この中学校では、女子プロ野球を目指す生徒も少数ではあるが存在するらしい、とうわさにだけは聞いたことがあった。
そして、その女の子の手から、ピュッと球が放られる。
その女の子のボールの速度は速かった。これならそう簡単には打てないのではないかと。というか僕だったらみっともない空振りをしかねない。
けれど、バッティングの相手には、意外にもパカン、と簡単に打たれていた。
「くやしいぃ!」
その女の子は叫んだ。
そして、二球目。
またも、パカン、とツーベースコースの当たりを打たれる。
「うー」
女の子は、納得のいかないような唸り声のようなものをあげる。
僕は、その女の子がなぜ打たれるのか何となく分かった気がした。
それは、彼女が真ん中にしかボールを投げていないからだった。
どんなに速い球でも、真ん中に来ると分かっていれば、打てる。
その女の子は三球目を投げようとしたので、
僕はつい、
「真ん中以外」
とつぶやいてしまった。
「へ?」
その女の子は投げる途中だったので、モーションを止めることが出来ず、中途半端な姿勢でボールを放った。
けれど。
バスン、というキャッチャーミットの小気味いい音が辺りに広がる。
バッティングの相手は、ど真ん中ではなく、インコース気味になったストレートを、振ることが出来なかった。
たとえ中途半端な投げ方だったにせよ。
その時、その背の高い女の子は無言でこっちを見た。
そして、少ししてから、
「……空振りとれたの、初めて」
そして、僕の手を無理やり引っ張った。
僕は思わず、「へ?」と叫ぶように言ってしまった。
「あんた役に立つ! 決まり! あんたは今日から共同戦線よ! あんたは私にアドバイス、私はあんたにアドバイス、はい決まりね」
「ちょ、そんな勝手に決められても」
そんなこんなで、僕の悩みはどこへやら。
※※※
「あ、でも勘違いしないでよね、私は彼氏ちゃんと居るんだからね! あくまでも野球の共同戦線なんだからね!」
自動販売機近くの休憩所で、三島光は言った。
「聞いてないよそんなこと……。それよりもさあ、共同戦線っていったけど、焼け石に水なんじゃないかなあ。ちょっと話を聞いてみると、僕も三島さんも最低ランクの1年5組みたいだし。おまけに僕は打率1割後半でぜんぜん打てないし、三島さんは防御率10点台でわりとぼこぼこに打たれてるんでしょ? あんまりお互いの助けにならないような気もするんだけれど」
すると、三島さんは足をずしん、と響かせて、
「あんたはそういうネガティブな気持ちだからいけない! なんとかなるわよ!」
なんだかすごいなあ、と思った。
確かに、そう言われるとなんとかなる気がしないでもない気はしてきた。
「たくましいなあ、と僕は思った」
僕が少しふざけて言うと、三島さんは割とカンカンに怒って、
「感心してないであんたも心に火をつけなさーい!!」
「す、すいません」
僕は三島さんと同学年だったけれど、割と本気で謝罪をしてしまった。




