バツ24との出会い
付き合ってから1年の記念日を祝うケーキを見ながら美咲は誠と初めて会った日のことを思い出していた。
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その日、美咲が担任する四歳児クラスは、昼食後の園庭遊びの真っ最中だった。
砂場で夢中になってトンネルを掘っていた翔太が、勢い余って転び、膝を擦りむいて泣き出した。
「翔太くん、大丈夫?」
すぐに駆け寄り、応急処置をする美咲。傷は浅く、消毒をして絆創膏を貼れば済む程度だ。
しかし規則上、保護者への連絡は欠かせない。
母親に電話するも繋がらず、父親の携帯も呼び出し音だけが続く。
最後に登録されていた緊急連絡先――父親の勤務先「高梨印刷」に連絡を入れると、事務の女性が慌ただしく応対した。
「翔太くんのお父様は、ただいまお客様との打ち合わせで外出中でして……」
美咲は「それではまた折り返しで」と電話を切り、翔太のそばに戻った。
だが、その三十分後。
園の玄関に、スーツ姿の男性が駆け込んできた。
「翔太は! どこにいますか!?」
息を切らし、額に汗を光らせて立っていたのは――翔太の父親ではなく、まったく別の人物だった。
背筋の伸びた長身、四十代半ばに見えるが、若々しさもある。
「すみません、翔太くんのことで……! うちの社員の子なんです。本人は今外に出ていて動けないと聞いて、代わりに来ました」
その声には必死さがあり、まるで自分の子どものことのように焦っていた。
彼の名前は――高梨誠。
翔太の父親が勤める印刷会社「高梨印刷」の社長だった。
「翔太、大丈夫か!」
翔太の前にしゃがみこみ、目線を合わせる誠。
翔太は少し照れながら「もう痛くない」と答えると、誠は安堵の笑みを浮かべ、そっとその頭を撫でた。
――ただの社員の子なのに。
その姿を見た瞬間、美咲の胸に温かいものが広がった。
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数日後の休日。
美咲は気分転換に街を歩いていた。
商店街の本屋の前で、ふと視線が止まる。
そこにいたのは、先日のあの人――高梨誠。
ラフなシャツにジーンズ姿で、経済誌を立ち読みしていた。
スーツ姿とは違う柔らかさがあり、美咲の心臓は不意に跳ねた。
(声をかける? でも突然すぎる? でも、このまま行ったらもう二度と会えないかも……)
迷った末、美咲は勇気を振り絞って声をかけた。
「あの……この前は保育園に来てくださって、ありがとうございました」
誠が顔を上げ、驚いたあとに柔らかく笑った。
「あ……先生。あの時の」
覚えていてくれたことに、美咲の頬が熱くなる。
「あの……よかったらお茶でもどうですか?」
考えるより先に口が勝手に動いた。
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喫茶店に入り、向かい合って座った二人。
美咲は、思わずあの日感じた気持ちを口にした。
「あの……社員さんのお子さんなのに、翔太くんのためにあんなに必死になれるの、すごいなって。なんだか……かっこいいなって思いました」
誠は意外そうに目を見開き、それから照れたように笑った。
「俺は社長だけど、社員の家族も大事にしたいんです。翔太は、うちで働いてくれる社員の“宝物”みたいなものだから」
その言葉に、美咲の胸が温かく震える。
――この人は、ただの社長じゃない。人を本気で思いやれる人だ。
気づけば、美咲はもう誠に惹かれていた。
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夕暮れの街を歩きながら、美咲は思い切って言った。
「今日は……ありがとうございました。また、お会いできますか?」
誠は少し驚いたように眉を上げ、それから穏やかに笑った。
「もちろん。ぜひ」
その瞬間、美咲の胸にときめきが走った。
二人の未来が、ここから始まった。
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初めて会った日に感じた直感は間違っていなかった。
私はこれからも大好きな誠さんと歩んでいくんだ。




