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25回目の結婚生活  作者: 東の雲


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14/16

どっちがいい?

土曜日。快晴。


 今日は夫婦そろっての休日ということで、美咲の提案でショッピングモールへ出かけることになった。


「わぁ~、このお店可愛い~っ! 誠さん、ちょっと見ていこう?」


 そう言って美咲が飛び込んだのは、若い女性向けのアパレルショップ。

 淡い色味の春服が並ぶ中、美咲はきゃっきゃと声を上げながらハンガーを手に取り、誠を振り返る。


「ねえ、誠さん。これとこれ、どっちがいいと思う?」


 ――はい、出ました。地雷ワードランキング第1位「どっちがいい?」。


 誠の頭に過去25回の結婚で培われた修羅場記憶がフラッシュバックする。


⸻


【フラッシュバック1:センス否定事件】



「どっちがいいと思う?」と聞かれ、「左のワンピースかな」と答えたら、0.5秒で返ってきた一言。


「え? そっち? だっさ…やっぱ誠くんってセンスないんだよね~」


 あの瞬間、誠の中の何かが死んだ。


⸻


【フラッシュバック2:優柔不断裁判】


 優しさのつもりで「どっちも似合ってるよ」と答えたら、


「どっちもって何!? 優柔不断って一番イライラする!」


 と詰められ、買い物帰りのファミレスで1時間以上の説教。

 ハンバーグが冷めきるころ、誠は悟った。

 ――「どっちも」は地雷中の地雷である。


⸻


【フラッシュバック3:興味ナイナイ攻撃】


 「どっちでもいいよ」と言ったら、


「えっ……もしかして、私のこと、もう興味ないの……?」


 そのまま、その日は口を聞いてもらえなかった。


⸻


 これらの経験から誠は悟っていた。

 「どっちがいい?」と言いながら、本人は既にどちらかにほぼ心は決まっているのだ。


パートナーに欲しい方を選んでもらい、購入への最後のひと押しが欲しいだけなのだ…と。


 だからこそ、今、目の前で「どっちがいい?」と問うてくる美咲に対し、誠は即答できない。


 つまりこれは妻の好みを見抜く推理ゲーム。



 誠の脳内にいつもの探偵とホワイトボードが現れた。


⸻



 美咲が手にしているのは、白のワンピースと水色のワンピース。

 どちらも可愛い。どちらも似合いそう。

 ――だが、問題は「どちらが美咲の本命か」である。



 美咲の手元、視線、表情――。

 彼女の好きな色はピンクや淡いパステル。けれど今は白と水色。

 持っているワンピースの色合いはどうだ?


 先週一緒に洗濯したとき、美咲の服は薄いピンク系が多かった。バランスを考えると、白のワンピースを欲しがっている可能性が高い。


 だが待て。

 店員が「今年は水色が流行りですよ」と勧めたとき、美咲は一瞬だけ目を輝かせた。

 つまり流行にも心が揺れている……?


 そういえば今朝、「最近、水色の服も着てみたいかも~」とつぶやいていた。

もしやあれは、このための伏線だったのか?



「白→手持ち服とバランスが良い」

「水色→流行+新鮮さ」

「本命は……?」


 ここで誠は深呼吸。

 この一言が、二人の夕飯の空気を左右する。


 誠は目を閉じ、心の中でカジノのルーレットを回す。

「白か水色か、偶数か奇数か……勝負だ!」




「うーん……どっちも似合いそうだけど……水色かな。爽やかだし、美咲にすごく合うと思うよ」


 その瞬間、美咲がニコっと微笑む。


 ――よっしゃ、勝った!


 しかし、次の瞬間。


「へぇ~、誠さんは水色なんだ。うーん、じゃあ……やっぱ白にする!」


 あっさり、裏切り。


「えぇぇえええ!?!?!?!?!?」


 誠の魂が口から半分出かかる。


⸻


「だってね~、水色も可愛いんだけど……やっぱ白は合わせやすいし……っていうか、私、もうちょっと痩せたら水色着ようかなって思ってたから!」


 ……そんな内部事情、どう推理しろと?

 名探偵でも無理だぞこれは。


「でもね、真剣に考えてくれて嬉しかったよ」と満面の笑顔で白ワンピを抱える美咲。

 その姿を見て、誠はほんのり救われた気持ちになる。


⸻


【帰り道・カフェにて】


「なあ、美咲……さっきのって、つまりどういうことだったんだ?」


「え? どっちがいいか聞いたやつ?」


「うん。あれって、もう内心決まってたんじゃないの?」


「うん、だいたい決まってた。けど、やっぱり誠さんがどう思ってるか聞きたかったの~」


「……それって、俺が白って言ってたらどうしてたの?」


「うーん……迷って、水色買ったかも」


美咲はちょっと意地悪そうな笑顔を見せる。



「じゃあどっちでも一緒やないか!」


「違うの!大事なのは、私が選んだ方を誠さんが否定しないことなの!」


「それ、つまり……地雷原ってことじゃない?」


「え? なに? 地雷?」


「ううん、なんでもない……」


⸻


 結局、どっちが正解かなんて、答えは最初から決まっていたのだ。

 正解は「どう答えるか」じゃない。

 誠が美咲の“心”をちゃんと見ていたかどうか。


 誠は笑った。


「よし。次からは“どっちがいい?”って聞かれたら、“お前が好きな方”って即答しよう」


「それもダメなやつ~! 興味ないって思われるから!」


「じゃあ、“水色かな。でも白も捨てがたいな。でも水色かな、いや白かもな……どうしよう!”って5分くらい悩んだふりすればいい?」


「それも逆にうざいやつ~!」



 その日の夜、誠は枕に顔を押し付けながら笑った。

 こんなくだらないことで頭を悩ませる日常が、なによりも愛おしかった。

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