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【連載版】「三十路聖女は用済み」と言われたので、癒しを求め旅に出ます。くれぐれも放っておいてくださいね?  作者: クサバノカゲ


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9/11

09◇私の癒しはどこでしょう

 告白したザックの顔は、耳の先まで真っ赤になっていました。釣られて自分の頬も熱くなるのを感じる。そのまま会話が途切れ、しばしの沈黙。

 いいえ、冷静になりましょう。これはあくまで「初恋」の話です。彼が恋したのは十七歳の癒し系聖女メイベルちゃんであって、三十路の引退聖女じゃない。


「へえ、そうなんだ。知らなかったな……」

「はい。だから僕は、聖騎士になってメイベル様を守ると決めました」


 私が素っ気なく答えると、ザックは少しだけ表情を曇らせて、すぐに話を再開した。


「団長の家にお世話になりながら、そのためにひたすら文武を磨きました。……でも結局、黒の使徒の血を引く僕では騎士団に入れなかった」


 聖騎士団には、由緒正しい血筋でなければ入団できない縛りがある。高貴さの義務ノブレス・オブリージュと言えば聞こえはいいけれど、きっと治癒士(ヒーラー)免許のように権威やら既得権益やら、しちめんどくさい色々があるのでしょう。

 団長は自分の代でそれを変えようと頑張っているようです。がんばれヒゲ、遠くから応援しているぞ。


「ええと……まあそれから、なんだかんだとありまして……団長の口利きもあって、メイベル様の従者をさせていただく機会を得たわけです」

「急に話が大雑把になりましたね……」


 自分にはどうにもできない血筋のせいで、すべての努力が無駄になった。そこに何の葛藤もないはずはないし、むしろ絶望していてもおかしくない。大雑把にしか語らないのは、私に重荷を持たせないための、彼の優しさなのかも知れません。


 ──と、それは置いといてザック(このこ)。本気でバレていないと思ってるの?


 髪の色、背格好、現れたタイミング、口調やトーンを変えても似通った声色。どう考えたって、ザックとファントムは同一人物(・・・・)

 右肩に荷袋と一緒に背負った細長い包みの中身も、きっと彼の愛刀でしょう。というかそれを包んでる灰色の布も、例のフード付きコートにしか見えない。


 おそらく、黒の使徒の活性化による人材不足に直面していた騎士団が、彼の実力に目を付けて非正規の隠密騎士として迎え──幽騎士ファントムが誕生した、というところでしょうか。

 正直なところ、ファントムの正体はもっと渋くて影のある流浪の剣士様(年上)を妄想していたのだけど。……あ、もしかして私の夢を壊さないために、正体を隠そうとしてるなんてこともあるのかしら。


「これが僕の、メイベル様を従者としてお守りしたい理由です」


 聞きたかった話とはちょっと違ったけど、でも確かに私が知っておくべき事実を話し終え、顔を上げた彼は両目をギュッと閉じて言葉を待っています。何その忠犬(ワンコ)ムーブ、さすがに可愛すぎる。


「さてと、たくさん治癒して疲れました。おんぶ(・・・)して下さい」

「え? でもメイベル様なら、あのくらい朝飯前では……」


 目を見開いて首をかしげる。「それはちょっと解釈違いが」とかぶつぶつ言っている。

 そうか。よく考えてみたら、ほぼ徹夜で店主(マシュー)に「綺蹟(キセキ)」による治癒を施して致命傷を完治(・・・・・・)させたことは、ザックには秘密でした。

 マシューはそろそろ、私の泊まった部屋のベッドで目覚めるころでしょう。机に置いた宿賃と聖護符(アミュレット)、受け取ってくれたかしら。


「これでも、慣れない旅路の疲れがあるのです! ほら、はやくして下さいな従者どの」

「はっはい! ……え!? いま『従者どの』って……」

「これから遠慮なくこき使うので、覚悟しなさい」

「はっはいもうそれは望むところです! さあ、どうぞ僕なんかの背中でよろしければ……」


 心底から嬉しそうなザックは、肩の荷袋を端に寄せ、しゃがんで両腕を後ろに差し出す。私は両腕を彼の首に回して、体を預けます。


「……失礼いたします」


 スカートが捲れないよう気を使いながら、両腕で私の両足を抱え、彼は慎重に立ち上がる。ふわりと体が浮かぶ感覚。視界がいつもより少し広い。カバンくんが周囲をくるくる廻っている。


「どう? 重くない?」

「あっ、ええとその……し……しあわせです……!」

「なにそれ、答えになってない」


 あの日、震えていた小さな背中が、今はこんなに大きくなって私を守ってくれる。胸の奥にじんわり拡がっていく温かな愛しさは、母性とは違うものの気がします。

 でも、それはきっと迷惑でしょう。だから。


「私の従者でいたいなら、そういうお世辞みたいなの一切やめなさい」


 ねえお願い、私をこれ以上勘違いさせないで。


「え? 僕は女神さまに誓って、メイベル様にお世辞なんか言ったことないです。だって、おんぶですよ。初恋から今日までずうっと、一筋に好きだったメイベル様を」


 ──ん? え? ずうっと? じゃあこれまでの言葉もぜんぶ、お世辞じゃなく本心?


 彼の言動を思い出して、いっきに顔が火照る。たぶん耳まで真っ赤になってる。顔が見えない体勢で良かった。


「そんなの、最高の幸せに決まってるじゃないですか」


 淀みなく言い切る言葉が、彼の背中の体温を通して、私の胸に沁み込んでくる。

 旅に出て二日目。私は早くも、最高の癒しを見つけてしまったかも知れない。

ここまでお付き合いありがとうございます。

次話より短編版の先のお話になりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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