表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】「三十路聖女は用済み」と言われたので、癒しを求め旅に出ます。くれぐれも放っておいてくださいね?  作者: クサバノカゲ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/17

15◇僕はただの従者ですか

「──修道女(シスター)?」


 何かが、記憶のどこかに引っかかる。


「ええ、そう。そもそも修道女(シスター)なら教会に身を寄せることもできたはずで、考えてみれば色々おかしいの。最初から、なんらかの幻惑(まやかし)に掛けられていたのか」


 紫の瞳を伏せて、波打つ金髪を白い指先でもてあそびながら思索に耽るセフィア。その姿もまた絵になります。

 彼女の言う通り、修道女(シスター)なら教会に行けば最低限の宿も食事も保証されるはず。まあ、そこを任されているのが某ハモンドのような悪徳司祭なら、そうも行かないかもしれませんが。


 ──ああ、そうか。それで思い出しました。


 旅の最初に立ち寄ったあの街の、ハモンドの教会で私は、薄暗がりの中に紅く浮かぶ修道女(シスター)の唇を見た。もちろん(それ)だけで断定することはできないけれど、だとすれば黒の使徒に繋がる線も浮かび上がります。


「ねえ、あなたは知らないの?」

「キュキィー!?」


 セフィアに指でつつかれじたばた首を振るサキュバス。最初は嫌がって見えたけど、指が首のまわりをくすぐるように蠢くと、すぐに恍惚(うっとり)と目を細めます。これ、そのうち鎖とか不要になりそう……。

 

「各地の支部に情報提供の通達は出しますが、『紅い唇の修道女(シスター)』だけでは漠然としすぎて難しいかもしれません。──ああでも、何かお困りのことあればいつでも支部にお寄りくださいませ! この先どんなことがあろうとも、私はメイベル様の味方。お力添えは惜しみませんわ」


 心強すぎるお言葉に感激しつつ、名残惜しいけれどお別れの挨拶を交わします。

 ちょうどザックくんの「もうしわけございませええん」がお屋敷の玄関の方から聞こえてきたので。ちなみに、彼の寝坊は、夜遅くまでエリックと二人で語り合っていたのが原因のようです。


「──ザック殿! ご武運をお祈りしております!」

「はい! エリックさんも心を強く持って! 絶対だいじょうぶ!」


 別れ際、男同士で肩を抱き合ってから堅い握手を交わす二人。何かしら通じるものがあるらしい彼らは、意気投合して深い友情を結んだ模様。


 さて、次の目的地は山間の村落。乗合馬車が出ていないので歩きで向かいます。

 そこから街道をショートカットすれば商隊(キャラバン)との合流まですぐ。これもセフィアからの情報です。本当は個人所有(プライベート)馬車も出すと言われたのですが、さすがに遠慮しました。──昨晩ちょっと食べ過ぎたから、体を動かしておきたいし。

 

「そういえばザックくん、昨日はよくセフィア様の誘惑に()てましたね」


 カバンくんと並んで数歩前を歩きながら、ふと思い出して聞いてみる。


「あたりまえじゃないですか」


 彼は力強く断言します。


「だって僕は、そういうこと(・・・・・・)はメイベル様としかしないって決めてますから」


 ──!? ちょっと、何を言い出すのこの子は。


 焦って振り向くと、私を見詰めるザックの瞳はうっとり潤んで、ほんのり桜色に上気した頬。


「もしかして、まだ寝ぼけてる?」

「いいえ! 僕は真剣なお話をしてるんです!」


 ずい、とこちらに歩み寄る彼。


「メイベル様は、どうなんですか! あなたにとって、僕はただの従者ですか!?」


 目の前で問いかける彼の言葉に、心臓が高鳴る。だけど、やっぱりさすがに様子がおかしい。

 そういえば彼、最初にセフィア(サキュバス)に案内された客室にそのまま泊ってたけど、あのお部屋たしか媚薬(ムラムラ)のお香が焚かれていたはず。もしかして、その残り香で……


「──解毒(ディトクス)


 迫る彼の顔に手のひらをムギュッと押し付けて、治癒術を発動する。

 毒薬の一種と解釈して使ったそれがきっちり効いたようで、その場に固まったザックくんの顔が桜色からみるみる青白くなり、一拍おいてから真っ赤に染まる。その顔色を両手で隠しながら、彼はしゃがみ込んでしまいました。


「あ……ああ……僕は……なんてことを……ぜったいクビだ……」


 うわ言みたいに絶望をつづるザックが、なんとも愛おしい。

 薄々感づいていたのですが、どうも彼のこういう姿に私は、とても癒されてしまうようです。聖女にあるまじきことの気もしますが、もう聖女じゃないからいいですよね。


「もう、おしまいだ……」


 カバンくんが彼にとてとて近寄って、慰めるように伸ばした前足は、長さが足りずに空を切る。


「……まあ。そういうのは、いつか(・・・)ね」


 私はくるりと背を向けて、聞こえるか聞こえないかのぎりぎりで囁きます。


「……え……? 今、何と……」

「ほら、置いていきますよ従者どの」

「ああっ! お待ちくださいメイベルさま、置いてかないでええ」


 背後から響く声に耳を癒されながら、すぐに追いついてきたカバンくんと並んで歩を進める。

 もうじき会えるだろう幼馴染(サーリャ)の、短い赤毛と日に焼けた屈託ない笑顔を思い浮かべながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オススメ

きのう喫煙所で悪役令嬢と知り合った
現代舞台の悪役令嬢もの会話劇(円城塔賞最終選考)

受付聖女セシル
〜ヒマな聖女は隣のギルドで受付嬢もしております〜

本作同様メンタル強め聖女のハイファンタジー長編
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ