第4話 おねい様は、やっぱり完璧ですわ!(途中まで心配でしたけれど)
姉との添い寝から一週間が過ぎて、
マーガレットはエリステル魔法学園の入学式に出席していた。
おねい様がおかしくなってしまった日を境に、
季節外れの大寒波は過ぎ去り――、
今度は一気にうららかな陽気に包まれた。
桃色の花が咲き乱れ、舞い散る花びらがふわりとマーガレットの髪を飾る。
上級生代表で壇上に上がったのは、
ベルーゼ王国の第二王子であるエラルドだった。
今年卒業したら、どなたかを妻に迎えるという。
……そんなの、おねい様に決まっているのですけど。
――そう言えば。
おねい様とスケートをしているとき、
エラルド王子は、何のためにおねい様をお呼びになったのかしら……?
あれが無かったら、今もおねい様は……。
マーガレットは、小さく首を振った。
……やめましょう。
あれはわたくしが悪いのですから……。
エラルド王子のすばらしいスピーチが終わり、
会場内に拍手が響き渡った。
次はいよいよ、生徒会副会長であるおねい様の番ですわ……!
マーガレットは、早まる胸の前で両手を組んで、ごくりと生唾を飲み込んだ。
あれから、おねい様は元に戻ることはなく――
(壇上の階段で、コケたりなさらないかしら……)
(言い間違えて、あたふたしてしまわれませぬよう……)
祈りを込めて、前を向く。
白いスカートを揺らし、
きっちりブレザーを着こなした銀髪の姉は、
誰もが息を飲むほど美しく、そして、堂々としていた。
(ああ、おねい様ぁぁああ……!)
どきん、どきん……!
先程とは別の意味で心臓が高鳴る。
声に出して、叫び出しそうになるのを必死で抑え、
瞬きすら惜しんで、その姿を見つめ続けた。
マイクの前に立った姉が、ゆっくり息を吸った。
「――まずは、皆さま。
ご入学、誠におめでとうございます……――」
雪解け水を思わせる、透明でひんやりとした声が鼓膜を揺らす。
その言葉だけで……っ!
今ここで死んでしまってもまったく惜しくありませんわぁあ!!
それが、一番幸せな死なのかもしれない……。
だんだんふわふわしてきた頭の片隅で、マーガレットはうっとりと目を細めた。
姉は、言い間違えることもなく、
完璧にやり遂げた。
さすが、おねい様ですわ。
ポンコツなんて思ってしまって、ごめんなさい。
「はぁ……っ!」
胸の苦しさが、心地よかった。
だってここには、苦しくなるほどおねい様が詰まっているっていうことだから……!
これで、入学式が終わる。
あとは、クラスの発表やら教科書やらの配布をこなせばいい。
……はずだった。
校長が、おもむろに一人の生徒を紹介するまでは、そう思っていた。
「――では最後に、晴れてわが校に転入した生徒をご紹介します」
――転入?
入学がすべての、この魔法学園に?
会場がどよめき立った。
一人の女子生徒が、壇上に上がる。
腰まで伸びた、はちみつ色の金髪。
小柄で、華奢な肩。
赤い唇がみずみずしく、
瞳は――翡翠のように美しい子。
校長が掌で彼女を差し、軽く紹介した。
「つい先日、聖女としての御力に目覚められた、リリア・クローバーさんです」
――は?
聖女……?
聖女と紹介されたリリアは、校長からマイクを渡され、両手で握った。
「す、すみません、リリアです。
年は……二つ、上なんですけど、皆さんと一緒に、お勉強できたらって……、
よ、よろしくお願いします」
ぺこり。
頭を下げる。
その角度も、仕草も何もかも――。
(……平民臭くてたまりませんわ)
リリアは、校長にマイクを渡すと、壇上を降りて行った。
マーガレットの胸に、イライラとした棘が刺さる。
おねい様で満たされて、ピンク色だったのに。
胸の高まりは、穴の開いた風船のように、すっかりしぼんでしまった。
いやですわ!
こんな……刺々した気持ち。
黒っぽい色までついているような……、不快感。
そうしているうちに、校長の言葉で入学式が終わる。
ぞろぞろと、新入生が移動する。
クラス分けの表を見に行った瞬間――
――最悪ですわ……。
見たくもない名前が、よりにもよって、同じクラスに記されていた。
特待生のクラスのはずなのに。
リリア・クローバー。
気に食わないですわ……!
聖女の力が本物なら……王子の妻の候補として、当然ながら上がってくる。
エラルド王子がどれだけおねい様のことを愛していようとも、
周りからの圧力で、
聖女をお選びになられるかもしれませんわ……!
二人の愛を引き裂く、忌まわしい存在……!
そんなの、ゆるせるわけがありませんわ……!
これから毎日、同じ教室で顔を合わせるなんて……。
マーガレットは、硬く握りこぶしを作って誓う。
必ず――。
この魔法学園に平民の身分で入学したこと、後悔させてやりますわ……!




