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第39話 やっとおねい様と踊れる――はずでしたのに、どうして四人で踊ることになったのですのーー!?

 卒業パーティ当日。

 この日の予定はバレエを舞台で披露し、

 ドレスを着て立食パーティに参加し社交ダンスなどを交える流れだ。


 マーガレットは、待合室で姉と二人、

 バレエ衣装に袖を通し、鏡の前で身だしなみのチェックをしていた。


「たくさんの方々の前でおねい様と踊れるなんて、夢のようですわ……!」


 踊る演目は、『眠れる森の美女』より宝石の精。

 二人の舞姫が、まるで宝石そのもののように舞台を彩る。


 姉がダイヤモンドの精。

 純白のクラシックチュチュに、銀糸の豪華刺繍と煌びやかな飾りつけ。

 ティアラが、天井の照明を受けてキラキラと光っていた。


 マーガレットはローズクォーツの精。

 鈍いピンク色の生地に、鮮やかな桃色の刺繍。

 煌びやかな飾りは姉よりも控えめだが、上品な衣装に仕上がっていた。


「素敵ですわ、おねい様……っ!」

「マーガレットも、とっても可愛らしいわ」

 

 あああ可愛い、だなんて……っ!

 おねい様……大好きですわぁああーーーー!!


 胸がおねい様でいっぱいになったそのとき、

 待合室のドアがゴンゴンと強めに叩かれた。


「――いったい何ですの?」


 まだ出番は先のはずですのに。

 それこそ今は――リリアとエドガーが舞台に立つはずですわよね……?


 マーガレットは、がちゃりとドアを開けた。


「……マーガレット、様ぁ……っ!」


 廊下には、花のワルツの衣装を身に纏ったリリアが、

 今にも泣きそうに鼻を赤くしながら立っていた。


「リリア? どうされまして?」


 リリアは、ずぴっと鼻をすすってクシャりと顔を歪める。


「私、やっぱり自信がありません……っ!

 マーガレット様がいないと……私ぃいっ!」

 

 廊下の奥では、困り顔をしたエドガーが腕を組んで様子を見ていた。

 黒を基調としていながら、深紅と金の刺繍と飾りが、

 男らしさをアピールしながらも、上品にまとまったデザインだ。


「落ち着きなさい、そんなことを言っても、もう本番ですのよ!?」

「分かって、いるんですけれど……っ!

 私、怖いんです……!」


 リリアは、生成りの衣装のウエストについた若葉色のリボンを固く握りしめていた。

 そんなことをしたら、せっかくの飾りがダメになってしまいますわ!


 エドガーが低い声を出す。

「……どっちとやってもいいが、時間がないぞ」


 ここにきて、おねい様と踊れなくなる、のですの……っ!?


 リリアボロ雑巾計画の、当初の目論見を成すことができたようですわね……。

 

 ――じゃなくて、ですわ!!


「しっかりしてくださいまし!

 昨日も練習しましたわよねっ!」


 マーガレットはリリアの細い肩を掴んで前後に揺らした。


 こんなのって、ないですわ……っ!


「あら、じゃあ、みんなで踊ればいいんじゃないかしら?」


 ひょこっと顔を出した姉が、軽い調子で言った。


「――え?」


「花のワルツ。即興で」


 うふふふふ。


 姉が楽しそうに笑った。


「それでいこう」


 エドガーが即答し、舞台の方へ歩き出す。


「え、ちょ、ちょっと、お待ちくださいまし!?」


 進行役の生徒が、もう時間です、とわざわざ伝えに来た。

 姉も、待合室を抜けてエドガーの後ろについて歩く。


 取り残されたマーガレットとリリアは、互いに顔を見合わせて、

 一瞬だけ固まった。


 頭をフル回転させる。

 このお荷物初心者リリアを躍らせながら、

 おねい様と踊るには――……っ!


 マーガレットは、待合室に飾ってあった、白い百合の花を花瓶から抜き取ると、

 リリアの手を引いて、姉とエドガーに合流した。


「最初、序盤はわたくしとリリアが中心で踊りますので、

 おねい様方は上手いことやってくださいまし?

 そして、わたくしがこの花をリリアに手渡しますので――」


 エドガーと姉は、足を止めてマーガレットを振り返った。


「この合図がありましたら、リリアをエドガーに返しますわ!

 わたくしは、おねい様を踊りたいのですの!

 ……なんですの?」


 エドガーと姉が、頷きもせずに目を丸くして見ていることに気が付き、

 マーガレットは首を傾げた。


「……お前が、求婚してどうする」

「うふふ。その組み合わせも、いいわね」


 求婚……組み合わせ……?

 手に持った百合の花は、確かに卒業花ではありますけれど……!

 女性同士で求婚、なんて――あり得るのですの!?


「ち、違いますわ……っ!

 単なる合図ですの!

 ……本当に、違うのですわーーーーっ!!」


 マーガレットの叫びは、開演ブザーにかき消された。



 幕が、上がる――――。



 おねい様とバレエを踊れて、

 マーガレットは、本当に幸せな時間を過ごした。




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