第38話 エドガーは、不器用にもほどがありませんこと!?
治癒室にカーライルがやってきて、
卒業パーティの余興は、予定通り開催される旨をエラルドに伝えに来た。
「そうか、わかった」
エラルドが頷き、椅子から立ち上がる。
「マーガレットは、今日は休んでいてね。
寮に戻りたくなったら、生徒会の誰かに一言伝えてから戻るように」
そう言い残してカーテンの奥に消え、
カーライルと共に、廊下を歩いていく音が遠ざかった。
マーガレットは、簡易ベッドに身を投げ出して横になった。
「……ふぅ」
白い天井をぼんやりと見上げて、息を吐く。
思えば、勘違いばかりして、動いておりましたわ。
おねい様のことを、一番分かっていたつもりだったのに、
結局、何も分かっていなかった。
駆け回って、走り回って、から回って……。
おねい様に、一番迷惑をかけてしまったわ……。
そんなことをとめどなく考えているうちに、
魔力の消費が激しかったこともあって、
マーガレットは、眠りに落ちた。
コンコン。
ドアがノックされる音で目が覚める。
男女の声がした。
一人は、エドガー。
もう一人は――。
控えめにカーテンが開けられて、はちみつ色をした髪のリリアが顔を覗かせる。
マーガレットと目が合った。
「……マーガレット、様……」
「……何しに来たのよ、うるさいわね」
マーガレットは、むくりと起き上がり、
服装と髪の乱れを手櫛で直した。
「起きてるんなら、入るぞ」
シャッ!
とカーテンが乱暴に開けられ、相変らずの仏頂面をしたエドガーが見おろしてくる。
「……いったい、なんですの?」
今は、何時だろうか。
治癒室の窓の外からは、卒業パーティの余興が開催されている雑多な音が聞こえる。
……この日は、バレエのエントリーをしていたはずだけれど、
もう、おねい様と踊ることはなくなってしまったわね……。
「体調はどうだ」
エドガーが、柄にもないことを聞いた。
ふん、なによ。
どうせ、リリアと楽しく踊った後なんでしょ。
その報告でもしに来たのかしら。
「……悪くないわ。
少し、頭がぼんやりしますけれど」
「そうか。明日は、本調子に戻れそうか?」
「……?」
いったい、なんですの?
こんなに気遣ってくるなんて、
なんだか、慣れなさ過ぎて気持ちが悪いですわ……っ!
「お前今、俺のこと気持ち悪いとか思っただろ?」
「は――いえ……まあ、そうですわね……?」
「どっちだよ、バカ」
「失礼ですわねっ!
いったい何の用ですの!?」
エドガーは横目でリリアを見て、話の主導権を雑にほうり投げた。
視線を受け取ったリリアは、一瞬困惑した表情になったが、
胸に手を当てて、本題を伝えた。
「あのっ、明日の卒業パーティなんですけれども、
マーガレット様とクリスティーヌ様のバレエを見たいという声が多くて、
……エントリーされませんか?」
上目がちに見られる。
「え……?」
マーガレットの喉が、ごくりと生唾を飲み込んだ。
そんなの、聞かなくても、分かるでしょうに……っ!
「や、やりたいわ!
……でも……いいのかしら。
わたくしは、皆さんに……」
もう少しで怪我人を出していたし、
卒業パーティ自体を台無しにしてしまうところだった。
だから、
楽しんでしまったら、いけないような気がした。
「校舎前の地面を焦がしたのは、俺だ」
「――え?
急に、何を言い出しますの?
「さらに、地面に穴をあけてツタを出したフィンネルも、
後で始末書を書かされる」
「そ――れは、わたくしを止めようとしていたからですわ!」
「『言い争いが発展し、マーガレット嬢を巻き込んでしまった』。
お前はある意味本当の被害者でもあるし、こうして元に戻っている。
……それで片が付いたんだよ」
――また、変なように罪を被る気……!?
マーガレットはエドガーに食って掛かった。
「そんな、微塵も事実ではないことを……、
許容できるはずが、ありませ――」
「がたがた言ってんじゃねぇ」
「きゃっ――!」
肩を強く押され、
数歩後ずさる。
それでも押されたため、マーガレットの背中が壁にくっついた。
「お前が俺らに指図できる立場じゃねぇんだよ。
いいから黙って被害者面していろ」
灰色の目に睨まれて、身が凍る。
言い返そうとしたのに、出来なくて、
喉が、勝手に震えた。
「――ひどい……ですわ……っ!」
「ひどくて結構。
お前は、ちょっとは周りを見て行動しろ」
エドガーの腕が離れる。
「明日は俺と聖女も出る。
――今日できなかったから、ありがてえことだ」
マーガレットは信じられず、おろおろするリリアに視線を投げた。
「ごめんなさい……私が、出来ないって言って……」
自信なさげに、俯いている。
「そう言うことだから、明日は出てくれ。
それじゃ、俺はこれで」
粗暴で乱雑な男は、言うことだけ言って、治癒室を出て行った。
本当に、勝手な御方。
もう少し、器用になれればいいですのに。
「……マーガレット様」
「なによ」
マーガレットは、弱いところを見られた居心地の悪さで、雑に返事をした。
「もう一度、バレエを教えてください……っ!
本当に、本番が怖くて……!」
「……」
そんなの、知らないわよ。
そう、言いたかった。
このままリリアが大勢の前で失敗して、
おねい様の狙い通り、プライドをへし折る大計画が成就すればいい、
そう、思いたかった。
でも、もう、違うとわかりますわ。
おねい様は、そんなこと、微塵も望んでおりませんものね。
最初から。
だから――
「仕方ないですわね」
マーガレットはリリアに手を伸ばした。
「舞踏室――は、発表が行わているのでしたわね?
なら、百合の華に行きますわよ!」
リリアの顔が、ぱああ、と明るくなる。
「はい! マーガレット様!」
リリアの温かい手が、重ねられた。




