第2話 ヒールなんかでくじけるなんて、おねい様らしくありませんわ(でもそれもいい!)
おねい様がお目覚めになられた翌日。
マーガレットは身支度を済ませ、朝食のために食事室へ向かった。
部屋に入ると、食堂係が座席を引き、長テーブルの中央に着席する。
マーガレットは、少し目を伏せて従者に聞いた。
「おねい様は、まだですの?」
もうとっくに、食事室にいるものだと思っていたのに。
そして、マーガレットを目に映して、
『遅いですわね』
『あなたを待っていたら、お料理が冷めてしまいましたわ』
って、嫌味を言われるものと思っていたのに。
空想の中のおねい様は、今日も美しかった。
朝日を受けて天使のように輝く長い銀髪と、
氷のように冷たい瞳。
何を言われても、いいの。
その双眸が、ただ一点――わたくしに向けられてくだされば――。
「……はぁ」
空想のおねい様が消え、未だ空白の席を見つめる。
遅いですわ。
あまりにも、遅い。
様子を見に行かせた侍女が、控えめな様子で食事室に戻ってきた。
「お仕度に少々……お時間がかかっていらっしゃるようです」
やっぱり、本調子ではないのですね……。
昨日の様子が頭をよぎる。
明らかに、様子がおかしかった。
疲れていただけ……。
そう、思いたかった。
しばらくすると、廊下から複数の足音が聞こえた。
おねい様だわ!
マーガレットは、椅子から立ち上がり、扉の方を振り返った。
「おはようございます、おねい様……!」
ほっそりした体躯に沿うような淡いサテン生地のドレス。
ドレスと揃えた水色のアイシャドウが、美しさを引き立てている。
完璧なクリスティーヌとしての姉が、マーガレットの目の前に現れた。
……はずだったのに。
「おはようご――きゃああっ!」
がくん、と高いヒールを履いた細い足首がくじけた。
「おねい様っ!?」
姉はマーガレットにぶつかるような勢いで倒れ込み、二人して床に倒れ込む。
わたくしが下。おねい様が上。
しなやかな身体が覆いかぶさって、
お花とシャボン玉の、いい匂いが鼻をくすぐった。
おねい様が、慌てた様子でもぞもぞと動く。
足と足が絡まって、変な感触だわ……!
心臓がどきどきして――いえ、
おねい様と触れている胸から、鼓動が伝わってきますわ……!
「……ご、ごめんなさ……っ」
氷が解けたような――薄い色の美しい瞳。
綺麗ですわ……。
もっと近くで見ていたいほどに。
おねい様は、悪くありませんわ。
足をくじいてしまっただけ。
どうして、謝っているのですの……?
姉は、ひらひらの薄いドレスに苦労しながら、侍女の手を借りてやっと立ち上がった。
靴が片方脱げてしまっている。
マーガレットも、侍女の手を取って立ち上がった。
身体が、熱いですわ……!
おねい様と触れ合った手首、胸、腰、足が――ピリピリと甘く痺れている。
どうして、履き慣れているヒールでくじけてしまったのかは分からないけれど――、
昨日の挙動。
そして、くじけたのは、今ので三回目らしいこと。
いつものおねい様ではないわ……!
一番違うのは、
暖かな、弱腰な、あの瞳。
ああ……――。
おねい様は、やっぱり――
ポンコツになり果ててしまったんだわ……!
そんなおねい様も……素敵……っ!
マーガレットは胸の底に、甘い匂いを放つ黒い何かを感じた。




