↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
29/42

第28話 カーライル・ギレ―ゼン! 食えない男ですわ!

 応接室では、カーライルに招かれた想定のリリアが、

 ぎこちない動作でテーブルに座った。


 ギギ……ギ、ギ……。


 と音が聞こえてきそうなくらい、カクカク動きますのね。

 これが平民のボロというものなのですね。

 普段のように、もっとスムーズに動きなさいな!


 カーライルがにこにこと主人役の席に座っている。


「どうぞ、かけて?」

「あ……えっと、はい……」


 ああああっ!

 椅子はもう十分に引かれておりますのよ!

 あなたはただ座ればよろしいのですのに!


 言うべきことは言わず、余計なことは全部しますのね!

 平民は、恐ろしいですわ……っ!


 カーライルは笑顔をまったく崩さず、マーガレットの方を見る。

「マーガレット嬢。お茶を淹れて差し上げて」


 なんでわたくしがそんなことを……!

 淹れ方なんて知りませんが、

 置き方くらいなら知っておりますので。

 それでよろしくて?


 マーガレットは、従者の真似をしてリリアの前にソーサーとティーカップを置いた。

 ついでに、和やかなお茶会のように、三段に連なったアフタヌーンティースタンドを中央に置く。

 カトラリーとお皿も……って、多いですわね!


 その間、カーライルは主賓として、リリアに話しかけていた。


「学校にはもう慣れた?」

「生徒会でも、噂になってるよ。バレエ、頑張っているそうだね」

「こういうお茶会は、まだ行ったことはない?」


 それに対して、

 リリアは縮こまって、「はい……」と「いいえ……」しか言っていない。


 もう少し会話を広げなさいな!

 と目で合図しても、

「す……すみません……」

 と委縮する始末。


 ああもう、もどかしいですわ!


 クス、と笑い声がした。

 カーライルが優雅に口元に手を当てて、肩を揺らしている。

 そして、流れるような自然な動作で立ち上がり、

「そこまでにしようか」

 と言った。

 それだけのことなのに、目が吸い寄せられてしまう。


 動作一つ一つが、綺麗だった。


「社交的な場では、緊張をそんなに見せてはいけないよ?」


 言いながら歩き、リリアの横で立ち止まる。


「失礼、少し触れるよ」


 華奢なリリアの肩に、カーライルの手が添えられる。

 

「肩に力が入りやすいみたいだね。

 目を閉じて。息を吸って――吐いて……。

 ……そう、いい感じだよ」


 リリアの小さな胸が、小さく上下する。

 目を閉じた表情も、少しだけ穏やかなものになったような気がした。

 

 ……いえ、ちょっと待ってくださいまし?

 これ、何かが良くなくてよ?


「さ、目を開けて。

 テーブルの前には、なにが見える?」

「ティーカップと……お菓子のセット……」


 リリアが、ぼんやりとした乙女の表情で答える。

 カーライルは頷いた。


「そう。

 緊張するとね、目の前のことすら見えなくなっちゃうし、

 紅茶の味も分からなくなっちゃうんだよね。

 だから、所作の第一歩は、深呼吸。

 分かったかい?」

「はい……!」


 深呼吸なんかで、いちいち頬を染めないでくださる!?

 ふと、

 リリアとカーライルの視線が絡み合う。


 その一瞬が、あまりにも魅力的で。

 額縁を当てはめたら、名画になり得るほど、

 二人が光輝くように見えた。

 

「そ――そこまで、ですわ!」

 

 マーガレットは、リリアの肩を掻っ攫うように抱き寄せ、

 カーライルから強制的に引きはがした。


「カーライル様、無駄な接触はおやめくださいまし!

 わたくしがおねい様に怒られてしまいますわ!」


 カーライルは、小さく肩を上下させた。


「少し、不躾だったかもね。

 今後、気を付けるよ」

「……今後?」


 マーガレットの首筋に、ひんやりとしたものが滴り落ちた。

 苦笑したカーライルが、

「だって、そうでしょ?」

 と言う。


「練習と実戦あるのみ。

 ある程度できるようになったら、僕のお屋敷で実際にやってみる?

 夏の長期休日のどこかにさ」

「……」


 否定したいのに、言葉が見つからない。

 ギレ―ゼン邸は、学園から馬車圏内にある立地の良さ。

 簡略化されているけれど、お誘いを、無下に断るリスク。


 こんな時、おねい様なら、どんなふうに答えるのかしら。


 マーガレットが迷っていると、

 リリアが椅子から立ち上がり、カーライルに向き直る。


「よろしくお願いします」

「うん。頑張ろうね」


 ぺこっとお辞儀をして、勝手に話を進めてしまった。

 カーライルの目がきらりと光を宿すのを、

 マーガレットは見逃さなかった。


 この男は、危険ですわ。

 

「あ……あなたねぇ……!」

「すみませんマーガレット様。

 でも私、頑張りたいんです。

 ……マーガレット様の隣に立っていても、恥ずかしくないように」

「う……」


 そんな迷子の子犬のような瞳を向けないでくださいまし!

 確かに恥ずかしいですわよ!?

 ……ずっと、今のままでは。


「ふん。

 自覚があるのなら、さっさと直しなさいな」


 カーライルが、話をまとめるように手を打った。


「――じゃ、これからよろしくね」


 食えない男ですわ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。