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第25話 魔力のコントロールができるからって、接触は禁止ですわ!

 フィンネルの魔法の指導が始まって、数週間が過ぎた。

 リリアは、週に三回、お稽古をし、お勉学と魔法を中心に計画を組んだ。

 ……所作は、後回しだそうで。


 この時も、リリアは魔導研究部の室内で、

 液体だけを透明にしようと意気込んでいた。


「ん、うぅ……」


 リリアの聖女の力が白い光を放ち、掌に集中して溢れ出す。

 ガラスのコップの表面に付けた青色は、

 赤色の水と共に綺麗に浄化され、無色透明なコップと水になっていた。

 

 がっくりと、リリアがうなだれる。


「……私、才能、ないんでしょうか……」

「ちょっと、嫌味ですの!?」


 柔軟体操をしつつ、見守っていたマーガレットが、唇を尖らせた。

 リリアの瞳が揺れる。


 そんな顔をしたって、

 可哀そうとも何とも思わないのですのよ!

 ふん!


 そのとき、奥でぐつぐつ煮込まれた液体をビーカーに移してきたフィンネルが、

 軽い足取りで近づいてくる。


「精が出るねぇリリアちゃん。ちょっとこれ、浄化してみて?」


 紫色の、変な匂いの液体がリリアの顔の前に差し出される。


「……これは?」

「いいからいいから」


 絶対に良くないですわ!

 この男が何を研究しているのか、全く分かりませんが、

 ろくなことにならないのは分かりきっておりますわ!


「リリア、やめた方がよろしくてよ」

「やってくれないの? 面白くなるのになぁ」


 リリアの顔がマーガレットとフィンネルを交互に向けられる。


「私は――」


 一拍の間があった。

 何かを、選択するみたいな。

 ……早く答えてくださいまし!


「フィンネル様、貸してください」

「お、やる気になってくれて、うれしいよん」

「バカね! やめなさいって言っておりますのに!」


 マーガレットの忠告をよそに、リリアはビーカーを受け取った。

 そして、両手で包み込んで力を流す。


 ふいに、フィンネルがマーガレットの真横に椅子をもってきて座った。


「ボクが思うにさ」


 フィンネルの長い指が、リリアの細くて白い手首に伸びる。

 

「リリアちゃん、全部抑えようとしてるんじゃない?

 そうじゃなくて――」


 フィンネルの指先が、つつっとリリアの手首から手の甲を滑った。


「力を感じて、流れを正すようにするんだ。

 ボクの魔力を感じてごらん?」

「――ぁ……」


 リリアの口から、ため息とは違う、

 細いけれど熱がこもった息が零れた。


「……いま、分かった?

 大切なのは、流れを止めないこと。

 それが分かれば、簡単なんじゃないかな?」

「ちょっと、お待ちなさいなっ!」


 マーガレットは、フィンネルの手を握って引きはがした。


「何をしていらして!?

 距離が近すぎですわ! はしたないですわよ!」


 そのまま腕を引っ張り、リリアの隣の席からフィンネルを退かす。


「いや~だなぁ。

 ボクはちょっと、指導してただけでしょ?

 求婚も何もしてないでしょ~?」

「求婚しなければいい、というわけではないのですわ!

 接触も禁止なんですのよ!」 


 フィンネルは面倒くさそうに頭の後ろを掻いた。


「もう。そんなにカリカリしないでってば。

 ――で、リリアちゃんは、できたのかい?」


 フィンネルの目が逸れる。

 そして、少し、見開かれた。


「……はい。

 言われた通りにしてみたら、できた、みたいです……」


 少し頬を染めて、成功した興奮を抑え気味にしているリリアは、

 手元のビーカーをフィンネルに見せた。


 フィンネルのふざけた表情が、一瞬無くなり、真顔――のような横顔になる。


「驚いたな……」

「……え、へへ」


 ビーカーの中には、透明な水と、

 繊細な光を放つ紫色の花が、ガラス細工のように形作られて、そこにあった。


「……これは、なんですの?」

「ボクの魔力の結晶」


 フィンネルは、花を手に取り、白衣のポケットに生けるように差す。


「卒業パーティに、求婚する誰かに渡す花は、特別製がいいでしょ?

 そ、の、試、作、品」


 いつものようにおちゃらけた口調に戻ったフィンネルは、

 満足そうに、んふ、笑ってビーカーに花を生けた。


「ボクの実験大成功。

 リリアちゃんの浄化の力、すごく役に立つよ」

「えへへ……!」

「――じゃ、ありませんわ!

 いつ、あなたの実験に参加すると言いまして!?」


 危険、ですわ!

 これ以上、ここにいたら、いいように使われて、

 計画より早くボロ雑巾にされてしまいそうですわ!


「コントロールが分かったのなら、あとは練習あるのみ、ですわ!

 行きますわよ、リリア」

「あ――マーガレット様……!」


 リリアはペコっとフィンネルに頭を下げて、マーガレットの後を追った。

 

 *


 一人残されたフィンネルは、歪ませた唇に手を持って行って抑える。


「聖女……か。

 ボクも、本気で狙ってみようかな」




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