第23話 頼りたくありませんけれど、仕方ありませんわ
翌日、リリアはすっきりとした顔で授業をこなしていた。
寝不足が不調の原因だったらしく、
漠然とした不安やプレッシャーが、リリアを追い詰めていたが、
エラルドの渡した成績表が、ある種の処方箋になったようだった。
「魔力のコントロールって、また瞑想、ですか?」
昼休み。
リリアが、マーガレットの分もトレーを持ち、外のテラス席へと運んできた。
いつもの四名で、席を囲む。
リリアは、すっかり馴染んでいた。
「いいえ。瞑想ではコントロールの効率が悪いと感じましたので、
人を頼りますわ」
「マーガレット様が……頼る……?」
フォークを落としそうになったリリアと、実際に落としたリディア。
口をあんぐりとあけたまま、固まっているミーナが目に入った。
「……なんですの?」
「い、いえ……何でも、ないです」
本当は、頼りたくなんてありませんわ。
でも気持ちのコントロールだけでは、結果が伴わないのだから、仕方ありませんわ。
そして放課後、マーガレットは、リリアを連れて魔導研究部の扉を目指した。
……少し、迷ってしまいましたが、
夕暮れ時に探し当てられて、良かったと思いますわ。
まさか、魔導研究部が、生徒会室の隣にあるなんて、思いもしませんでしたわ。
コンコン。
とノックすると、中から「どうぞ~」と気の抜けた返事があった。
「失礼するわ」
ガラッと扉を開けると、ツンとする匂いが鼻を突く。
窓辺のカーテンが全部閉じられた、薄暗い部屋に戸惑った。
ひょこっと、白衣を着た男性が部屋の奥から現れる。
「あれぇ? マーガレット嬢、とリリアちゃん。どうしたの~?」
ウェーブのかかった紫色の前髪を揺らし、
フィンネルが試験管を持ちながら、にたぁと笑った。
「う……」
リリアが、マーガレットの後ろに下がり、制服の裾を掴んでくる。
「その薄い笑いをやめなさいって、何回も言っておりますわよね!」
「だって、嬉しかったら笑うでしょ? 誰だって」
悪びれもなくへらりと笑うフィンネルに、マーガレットの眉に皺が寄る。
「リリアちゃん絡み?
もしかして、マーガレット嬢以外にも、
ボクにもワンチャンス、巡ってるのかなぁ」
「……それ、どういう意味よ」
まるでマーガレットが第一候補のような言い方。
ま、この御方だけは、こちらからごめんこうむりますけれど。
「だってさぁ。ボクなんて、家柄以外は何の魅力もメリットもないでしょ?
ましてや引っ張りだこのリリアちゃんなんかに、見向きもされなくて当然なの」
「変人という自覚があるなら、直してくださいまし?」
その性格さえ直せば、少しはましになるというのに。
フィンネルは、んふふ、と楽しそうに笑った。
「そういう面で、マーガレット嬢の方が、僕の嫁候補としての順位は高いんだよね!」
「どういう意味ですの!?」
売れ残り、とでもいうつもりですの!?
マーガレットの拳が、強く握られた。
「まあまあ落ち着いて。
可愛い顔が台無しだよぉ?」
「誰のせいですの!?」
フィンネルは、さぁ、と首を傾げた。
そして、ローズピンクの目の奥に光を宿す。
「――で、なんか、ボクに用?」
「……」
今更になって、回れ右をして帰りたくなりましたわ。
こんな、失礼な人を頼りたくありませんけれど……!
「……魔力のコントロールを、上手くするには、どうしたらいいかしら。
今日は、その相談をしに来たのですわ」
「あはぁ」
にたぁ、よりも気味の悪い笑みを浮かべて、
フィンネルが納得したように頷いた。




