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第22話 リリアの能力値、ですわ

 いつものように、平日の授業が終わり、

 『リリアボロ雑巾&夢を見させて突き落としましょう計画』の予定をこなそうとしたマーガレットは、講義室の自席にいるリリアの目の前で立ち止まった。

 

 顔色が悪い。

 今日の授業や昼休みでも、ぎこちない笑みを浮かべて、額に手をやることが多かった。


「あなた、ご機嫌よろしくて?」

「マーガレット様……大、丈夫です……」


 マーガレットはリリアの額に手を当てて、熱をみた。

 そんなに高くない。

 隣に控えていたリディアが、控えめながら、はっきりと言葉を発した。


「今日は、お休みになられた方がよろしいかと思います」

「……いえ、今日は、所作……」


 リリアが、普段の数倍弱々しい声で呟く。


 マーガレットは、大きくため息をついた。


「あなた、ちゃんと眠っておられますの?」

「そ……それは……」

「魔力のコントロールもろくにできていないのに、無理をなさるから、

 お身体がしんどくなるのですわ」

「うぅ……」

「今日はお部屋でおやすみなさいな。

 リディア、ミーナ、送って差し上げて」


 ミーナが元気よく返事をした。


「でも、マーガレット様は?」

「わたくしはおねい様のもとへ行って、お手伝いやお話をしてきますわ!」


「おひとりで大丈夫ですか?」

 リディアが気遣いを見せた。

 リリアだけに悪い虫がつくわけではない。


「道案内兼護衛役なら、お任せください! マーガレット様!」

 ミーナが明るく言う。


 わたくしは方向音痴だということですの!?

 ピクリと眉を上げたマーガレットは、首を横に振った。


「平気ですわ。それでは、ごきげんよう」



 教室を出る。

 おねい様は、生徒会室かしら!

 

 毎日リリアばかりで、飽き飽きしていたところでしたわ。

 今日はおねい様のお膝の上にお顔を乗せて、

 よしよししてもらうのですわ!


「うふ……うふふふ……!」


 生徒会室の前についた。

 扉をガララ、と開けると、正面の窓際の長テーブルに座っていた人物が顔を上げた。


「あ……エラルド、王子」

「やあマーガレット嬢」

 

 エラルドがふっと優しく微笑む。

 マーガレットは、左右を見渡した。


「おねい様は、おりませんの?」

「クリスティーヌは、ここにはいないよ」


 なんだ。残念ですわ……。


「今日は、リリアは一緒じゃないの?」


 また、リリア、ですの?

 マーガレットは、唇をツンと突き出してそっぽを向いた。


「体調をお崩しになりましたのよ。熱は無さそうですけれど」

「一回お休み、ということだね」


 なんだか軽い言い方ですが、そう言うことになりますわね。

 マーガレットは頷いた。

 

「魔力のコントロールが弱いからかな」

 エラルド王子がぽつりと呟いた。


「……王子は、個人の能力値が数字として見えるとおっしゃっていましたけれ ど……、

 いつから、ですの?」

「それは、言えないなぁ」

「わたくしのも、見えますの?」

「うん。かなり優秀だと思うよ」


 かなり優秀。

 当たり前だと思っていても、エラルドの言葉は心に沁みるくらい嬉しかった。


「どんな数値で見えますの?

 知識や、体力、魅力、魔力の面からも、詳しく見ることができますの?」 


 エラルドは頷いた。


「いつも見てるわけじゃないけれどね。君の数値、知りたい?」

「嫌ですわ。成績表みたいで、気持ちよくありませんもの」

「あはは。そうだよね。……それが、僕が今まで黙っていた理由さ」

「……」


 エラルドの表情に、ほんの少しだけ影が差す。

 普段、優しげな微笑みを絶やさない方だから、余計に気になった。


「でも、リリアの成績を見たいですわ」

「うーん……」

 エラルドの眉が下がる。


「ごめんね。本人を前にしないと見られないんだ」

「あら……残念ですわね」


 そのとき、マーガレットの後ろから、鈴の音のような声が聞こえた。


「私なら……ここに、います……!」

「え――」


 マーガレットが振り返ると、

 廊下に、リリアと、取り巻きの二人が申し訳なさそうに立っていた。


「ど――どういうことですの? あなたたち」

「すみません、マーガレット様……」

「聖女様が、どうしてもと」


 なによ。

 体調が悪いならさっさと帰りなさいよ。

 項目に『聞き分け』も追加してもらおうかしら。


「私、知りたいです。

 自分の……数値を」


 エラルド王子の青緑の瞳が少しだけ細まった。


「いいよ。

 じゃあ、項目はさっきマーガレット嬢が言った四つにしようか」


 エラルドが、生徒会室の隅にあった紙を一枚取り出し、

 さらさらと羽ペンを動かした。

 

 そして紙を折り、立ち上がって、リリアの目の前に差し出す。


「数字は今の現状。最大値は百。

 あくまで今、君が発揮できる実力って言うことね。

 突発的に百が出ることもあり得るけど、安定している値の参考として」

「あ……ありがとう、ございます……!」

「誰に見せて、誰に見せないか。君が選択肢を持つんだ。

 ……君は、たくさんの選択をしないといけないからね」

「……? はい……」


 エラルドの含みのある言い方に、

 マーガレットだけでなく、取り巻きの二人も首を傾げた。


「それじゃ。本当に顔色がよくなさそうだね。

 早く休むといいよ」

「はい。エラルド王子」

 リリアは深々と頭を下げた。

 エラルド王子はクスっと笑い、いつものように優しい微笑みを浮かべて、

 掌をひらりと振った。


 あ。

 おねい様と、似たような、仕草ですわ……。


 ふと、そんな違和感を胸に抱きながら、マーガレットは生徒会室の扉を閉めた。


「マーガレット様、見てください」

 リリアが紙を手渡す。

「……いいのですの?」


 誰にでも、見せていいものではないでしょうに。

 エラルドが、本人がいないとみられないと言ったのは――方便ですわ。


 本当は、軽々しく、他人の能力値を見たいなんて、

 言っては、いけなかったのですわ。


 リリアは、紙を開いた。


 知識 十五 体力 三十 魅力 十 魔力コントロール 五


「……分かりましたわ」

「こんなにも、コントロールが……できてないなんて」


 リリアが暗い声を出す。

 ふん。

 なにを今更なことを言っているのですの?


「落ち込んでいる暇がありましたら、

 さっさと体調を戻して、新しく計画を立てますわよ」


 マーガレットは、百合の華を目指して歩き出した。


 

 胸の中で、ちくりと何かが刺さる。

 数値化、なんて……。


 傷ついていい勇気がある人にしか、出来ませんわね。


 だから、わたくしは――

 一生、できない気がした。



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