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第20話 いきなり花のワルツを踊らされるなんて、聞いておりませんわ!

 リリアが育たなきゃわたくしがエドガーとのペア、だなんて。

 マーガレットは、親指の爪を噛んで、じとっとエドガーを睨んだ。


 幼い頃から何度もペアを組まされてきた、この男。

 一見完璧に見える演技は、裏に粗暴さを秘めていて、

 心を通わせることなく、ただこなすだけ。


 いつだって、

 わたくしを一番輝かせてくれる存在ではないのですわ。


 ぼそっと何かを呟いたエドガーは、

 仏頂面でマーガレットを上から見下ろした。


「演目は何にする」


 なによ。

 やる気になっちゃって。

 マーガレットは、顎に手をやって俯いた。


 初心者のリリアがぎりぎりできる範囲の演目……。


「……花のワルツ、しかないですわね」

「いいだろう」

 

 エドガーは即答した。

 そして、マーガレットの二の腕をずむっと掴むと、

 舞踊室の中央付近へ歩き出す。


「ちょ――ちょっと! なんですの!?」

「合わせる」

「いきなり、ですの!?」


 強引にもほどがありますわ!

 それに、今エドガーは制服なのに。


 エドガーがリリアを振り返る。


「よく見ていろ」

 なんですの!? その決め台詞は!?


「――はい……っ!」

 リリアの頬が赤くなりましたわ!

 

 キィィィィ!!


 悔しいですわ!

 そんなこと、おねい様にだって言われたことないですのに……っ!


 波がサアアと引くように、

 舞踊室にいる生徒が、部屋の中央を広く開けた。


 マーガレットは、往生際悪く口を開く。


「放してくださいまし!? 

 わたくしはまだやるなんて言ってな――」


 そのとき、部屋の片隅からくるみ割り人形の音源が流れ出した。

 それも、花のワルツの演目の十小節前から。


 二人が向き合い、

 立ち位置、姿勢、すべての演技の準備が整えられるような、一呼吸の間――。


 いったい誰ですの!?

 空気の読めないポンコツなアシストですわね!!


 キッとレコードスペースを睨むと、

 

「んふふ」


 楽しそうに手を振る、笑顔が眩しいおねい様がいた――。


「う……ぅぅ……っ」

「やるぞ」


 くるみ割り人形の、優雅で可愛らしい曲に合わせて、

 ゆったりと身体を動かす。


 基本のステップと、

 軽いタッチ。

 この演目は、華々しい動きよりも、

 二人の動きがシンクロすることを意識した。


 練習無しの、突発的な合わせにしては、よくできた方――だった。

 エドガーがマーガレットの動きに合わせただけ、だったけれど。


 リリアがギリギリできそうな動きしか取り入れなかった結果、

 練習に毛の生えた程度の難易度でまとめた。


「動きは分かった」

 

 エドガーがどこか満足そうに呟く。


「聖女は俺が指導してやる」

「何を言っていらっしゃるの?

 そんなの無理に決まっておりますわ」


 この男、こんなにぐいぐい押す方でしたの!?

 これはもう、遠巻きに告白しているのと同じではなくて?


 マーガレットは、ふん、とそっぽを向き、

 部屋の隅で、乙女のように頬を染めているリリアのもとに近づいた。


「わたくしたち、バレエだけやっていられるほど、暇じゃありませんの。

 リリアはまだ、基本ですら覚束ない初心者ですのよ。

 あなたと合わせるのは、ずいぶん先になりますわ」


 これ以上、この場所にいられませんわ。

 お稽古の妨害も甚だしい。


 マーガレットは、夢見心地の表情を浮かべるリリアの腕を取り、

 女性更衣室へ向かった。


「マーガレット様……お美しかったです」

「そう」


 どうせ、エドガーしか見ていなかったくせに。

 ……リリアは、エドガーに惚れたのかしら?


 少し、つまりませんわ。

 それに、最近、お稽古ばかりで他のことがおろそかになっておりますし。

 ここらが潮時ですわね。


「明日のお稽古は、変更してちょうだい」

「ど……どうして、ですか?」

「バレエは身体だけ動かせばいいというわけではありませんの。

 あなたには知識も所作も、何もかも足りてませんわ」

「あ……そ……そう、ですよね……」


 リリアは、少し俯いて肩を落とした。

 

 そんなに、落ち込むことですの?

 やっぱり、エドガーに会えなくなるから、寂しいのですのね?

 ――知りませんけど。


「次は、図書館でお勉学でもなさったらよろしくて?」

「ええ……そうします」



 この時は、まだ知りませんでしたの。

 リリアに言い寄ろうとする殿方が、エドガー以外にもいらっしゃることに。



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