第15話 今日も今日とて、おねい様は素敵ですわぁ!
~リリアの日記より~
第二曜日は、マーガレット様と図書室に行って、お勉学しました♡(=^・^=)♡
学校の復習と、ベルーゼ王国の歴史なども勉強していくそう。
がんばらなくちゃ!
第三曜日は、バレエのお稽古でした!
初めてだったから、マーガレット様に笑われちゃった(´;ω;`)
体力つけなきゃなぁ。
第四曜日は、素敵なレディになるための所作を学びました☆ミ
まずは口調からですか?って聞いたら、思考回路からですわと言われちゃった。
物事をはっきり言うのが課題だって(´;ω;`)
第五曜日は、魔法のコントロールについて、訓練しました♡
私、無意識に聖女の力が出ちゃうみたいだから、
しっかり制御しなくちゃ!≧≦
*
休日になった。
第六曜日の朝、マーガレットとリリアは百合の華のエントランスロビーで待ち合わせをした。
一日の流れの確認と、明日のお出かけの行き先、来週の予定の相談をするためだった。
ソファに向き合うように腰かける。
リリアが小さなカバンから手帳を取り出した時、
「あわ――っ!」
するん、と手から抜け落ちて、日記のページが開かれた。
ぱさり。
「……なんですの? 日記?」
「あ、わわわーー!」
慌ててリリアが回収する。
「……」
読めてしまいましたわ。
短い文でしたもの。
相変わらず、可愛い文字で書いてありますことね。
前向きな言葉で綴ってありましたけれど、
本当は無理しているのではなくて?
マーガレットは、そっと指を唇にあてた。
「ふふ」
「……っ」
リリアの白い頬が、少しだけ赤く染まる。
あら。
恥じらいなんて乙女らしいこともできるのね、平民のくせに。
今はまだ余裕があるようですけれど、
いつまで精神を保っていられるかしら?
「今日は、どんな予定にしますの?
言っておきますけれど、疲れたから一日休むなんて、できませんことよ?」
リリアがこくこくと頷く。
「ええ。私も、休んでなんていられない、と、思っています……!」
「あら、そう。
――で、今日は、前回計画した通り、お勉学・お稽古・所作の順番でよろしくて?」
「あ……あの……」
リリアがもじもじしだした。
「なんですの? 言いたいことがあるのなら、はっきりとおっしゃいなさいな」
こんな引っ込み思案で、いままでどのようにして生きていらっしゃったのかしら。
マーガレットは両膝の上に肘をつき、頬杖をついた。
こんな行儀の悪い恰好、とてもおねい様にはお見せできないのだけれど。
……平民相手なら、少しくらい、いいですわよね。
もじもじしていたリリアが、ちらりと上目遣いでマーガレットを見た。
「私、知識も体力もありませんので……、
今日は、午前中にお勉学。午後と夕方に、お稽古をしたいと……思います」
マーガレットの片眉が跳ね上がった。
お稽古を二回連続、ですって?
「……本当に、よろしくて?」
リリアは、こくっと頷いた。
「はい。よろしくお願いします!」
……ふぅん。
マーガレットは少し唇を尖らせて頷いた。
最初だけは気合が入るものですものね。
「じゃあ次、明日のお出かけなのですが、行き先はわたくしが決めてもよろしくて?」
マーガレットの言葉に、リリアが目を輝かせて頷いた。
「あ、はい! 私、貴族街に詳しくなくて……!」
知っておりますわ。
マーガレットは、ふん、と喉を鳴らした。
「ないと思いますが、特定のご予定はありますの?」
「ありません。街並みを見られることが、楽しみなんです!」
健気なこと。
マーガレットは、頬杖をやめて、少し上の方に視線を滑らせた。
――久しぶりの外出、ですわ。
となれば、やはり、やることは一つしかありませんわね。
「明日はショッピングをいたしますわ。
あなたのみずぼらしいお洋服を見繕うのも楽しそうですし」
「え――でも、私、お金が……」
マーガレットは首にかかっている、くるくるした髪の毛をさらっと払いのけた。
「そんなもの、わたくしが気に入ったら購入して差し上げますわ」
「あ……う……」
リリアの唇が、言葉にならずに動く。
マーガレットは、眉を顰めた。
なによ。
なにが気に食わないっていうのよ?
お金の問題をなにか気にしていらっしゃるの?
……ま、平民なら、お小遣いが少なくても仕方ありませんことね。
「勘違いしないでくださる?
あなたが買いたいものを買うのではなく、
わたくしが気に入ったものを購入するのですわ」
「……うーん……ですが……」
あーもう!
煮え切らないのが一番嫌いなのですわ!
「でしたら、お勉学やお稽古などで出来を評価しますので、
必死になってポイントを稼ぎなさいな。
あなたはボロ雑巾のようになり果てるまで付き合って差し上げますわ!」
「ぼ……ボロ雑巾?」
リリアが可愛らしく首を傾げ、はちみつ色の髪がさらりと流れた。
その後ろで、銀髪に輝く、神々しいまでに美しいお姿がエントランスに現れ、
マーガレットは、反射的に背筋をピーンと伸ばす。
「おねい様!」
エントランスに響いた声は、
リリアとの会話の比じゃないほど高く、甘さを含んでいた。
姉はふわっと微笑み、マーガレットの呼びかけに答えてくれた。
その微笑みだけで、胸をズキュンと撃ち抜かれる。
あああ、おねい様…‥!
「おはよう、マーガレット、リリアさん」
「ごきげんよう、おねい様!」
同時に挨拶をしたリリアの挨拶を掻き消して、
マーガレットは姉のすべすべの腕を取った。
「座ってください、おねい様!」
「ええ」
二人くらい余裕で座れるソファに、きゅっとくっついて並ぶ。
姉の肩にことん、と頭を乗せて姉を全身で嗜む。
「二人で計画をしていたの?」
姉のほっそりとした指が、リリアの手帳を撫でる。
サファイアの瞳が少し揺れて、文字を読む横顔を間近で眺めた。
「――ふふ」
姉の喉が、不敵に震える。
お稽古を二回連続でやる今日の予定は、
やっぱり滑稽なくらい無茶ぶりですこと。
「いい計画ね。ばっちりだわ」
「ええ! ばっちりです、おねい様!」
すぐにリリアの心をバキバキにして見せますので!
スッと姉が立ち上がり、
マーガレットは、縋っていた支柱を失った。
「あ――っ」
「邪魔したわ。頑張ってね」
「そんな――邪魔なんて……」
姉は掌をひらひらさせてエントランスを出て行ってしまった。
なんですのその仕草……っ!
貴族令嬢にあるまじき軽い仕草を開発したのですの!?
可愛すぎて、息ができなくなりましたわ……っ!!
「っはぁぁ~」
今日のおねい様も、素敵でしたわぁ……!
「あの、そろそろ、講義室に移動します?」
目の前のリリアが何かを言ったけれど、
そんなか細い声は、耳が遠いので聞こえませんでしたわ。
「はぁ……おねい様……」
今日も今日とて、
「素敵、ですわぁ……っ!」




