第14話 ふん、一週間の計画を立ててきたようですけど、まだまだですわ!
翌日の朝。
百合の華のエントランスロビーに集合したマーガレットは、
リディアとミーナと共に、ソファに腰かけた。
リリアが手帳を開き、一週間の予定をマーガレットに見せる。
なによ。
文字、可愛いじゃないの。
丸くて、変に読みやすい独特の書き方に、思わず魅入ってしまった。
しかも、ところどころネコやトリの絵が小さく書かれていて、
それが、少し――可愛い。
「えっと、今日(第二)から第五曜日までは、
勉学・お稽古・所作・魔法の順に一通りやって……、
休日の第六と第0曜日のどちらかで、お出かけ……したいな、と」
どちらかで、お出かけ?
この子、楽しくお出かけが出来ると思っているのかしら。
おめでたいこと。
「わかったわ。じゃあ、お出かけは第0にするとして、
第六日は、何をするおつもり?
午前と午後、夕方まで計画できますわよ?」
「ええ……と」
リリアの翡翠の目が泳ぎ、
ストラップのついた可愛らしいボールペンを取り出した。
例の丸文字で、
勉学・お稽古・所作、
と書いていく。
「……あなた、何でもかんでも順番にしていけばいいってことはなくってよ?」
「え……?」
マーガレットは、心の内側に溜まる靄を吐き出すようにため息をついた。
ほんっとに、おバカな子。
「まず、あなたに足りないのは所作ね。『魅力』が足りないわ。
ま、それを言うなら勉学で『知識』も足りませんし、
魔法の『コントロール』も全然ダメ。
バレエのお稽古なんて、まったくの初心者なんだから、『体力』もついていないのではなくて?」
「う……」
リリアのか細い喉が鳴る。
「順番に平均的にやってもいいでしょうけれど、
何かが頭打ちになって、それ以上伸びない項目も、もしかしたら出てくるかもしれませんわね、おーっはっほっほっ!」
努力しても伸びなくなるなんて、可哀そうな子!
想像しただけで笑いが止まりませんわ!
「さすがマーガレット様!」
ミーナも賛同してくれる。
リディアも満足そうに頷いて、口を開いた。
「先見の明ですね。そうならないために、マーガレット様がアドバイスされたことを、
よく肝に銘じて、来週からの計画を立てていってください」
「は――はい!」
……んえ?
リリアの潤んだ瞳が、真っすぐ向けられる。
「ありがとうございます、マーガレット様!」
「え……ええ……」
しまった……ですわ。
なんて余計なことを。
昔から、わたくしはよく言われておりましたのに。
お前は余計な一言が多すぎる、と。
ああ、また、やってしまいましたわぁああ……!
「マーガレット様」
リリアの声に、心の内側にいた意識が浮上する。
「……なんですの?」
「私、頑張ります……! マーガレット様のような、
素敵な女性になるために」
パアァァ――。
後光が差した。
天使の羽根が舞うのが見えた。
空気が浄化されて、さわやかな風が吹いた気がした。
心臓が、どきんと跳ねた気がした。
時間が、
止まったように感じた――……。
――――じゃ、ないですわ……っ!!!
バリンッ!
と音がして、聖なる幻覚のような、居心地のいい、気持ちの良い心境にひびを入れる。
……あ、危なかったですわ……っ!
ぜい、ぜいと肩で息を二、三度はいた。
本当に、油断ならない子!
危うく魅了されてしまうところでしたわ!
リディアとミーナは、まだ惚けた顔をさらしているけれど、
このわたくし、マーガレットは、このくらいの可愛さなんかじゃ、
ちっとも揺るがないのですのよーーーーっ!!
マーガレットは、わざと椅子の音を大きく立てて立ち上がった。
「そろそろ、登校しましょう」
リディアとミーナも、意識を取り戻し、そそくさと鞄を持つ。
マーガレットは三人を待たず百合の華を出て、早足で歩いた。
「マーガレット様ぁ!」
ミーナが駆けてきて、少し追い越し、振り返る。
後ろ向きに歩みを進めて、ネコのように大きな瞳をきゅっと細めた。
「私、決めました!
マーガレット様と聖女様を守り抜くって!」
ミーナは、シャドウボクシングのように空気を相手にジャブやフックをした。
――え?
リリアの手を取ったリディアも、少し早足で追いついてくる。
「マーガレット様が、今後どのように聖女様を教育なさるのか――
大変興味深いですね。もちろん、私も最後までお供しますよ」
――ん?
いったい、どうしてそういうお話になっているのでしょう……?
わたくしが、教育ぅうう?
「あ……その、お願いいたします、マーガレット、様」
全員の視線が痛い、ですわ……っ!
ですが、ここでめげるわけにはいきませんわ。
計画は変更せず、ボロ雑巾目指してきつく追い詰めるのみですわ――。
「おーっほっほっほっ!」




