第9話 甘すぎ……ですわ。
マーガレットは、急いで運動広場に向かった。
エドガー・ヴァルクールと聖女リリアが一緒にいる、ですって!?
あの田舎娘、いったい何をするつもりなのかしら。
野次馬のような好奇心が芽生えつつ、
マーガレットのもう一つの目的も同時に叶う、いい機会だと思った。
この騒ぎ――おねい様も駆け付けるに違いありませんわ!
ただの騒ぎではありませんもの。
エドガーが、生徒会に所属しているからこその大事件。
いくら身分が高くても、
あんな粗暴な生徒が生徒会にいるなんて、無視できませんもの。
おねい様なら、きっとばさりと斬り捨てるに違いありませんわ!
『どんな理由があっても関係ありませんわ』
『あなたは生徒会から除外します』
『――まったく。せっかく生徒会に引き入れたのに。
恩を仇で返された気分だわ』
――さすがおねい……いえ。
最近のおねい様は……もう変わってしまわれたのでした……。
エドガーだって、おねい様を嫁候補として見ているはず。
そのおねい様が、エドガーを切るかどうか――。
それを確かめに行くのですわ。
マーガレットの予想通り、広場には、姉とエラルド王子、
それと野次馬の生徒も数名集まっていた。
中央にいるエドガーと、その前に立って、何かを訴えているリリアが見える。
「待ってください!
エドガー様は悪くないんです!
私が――私のせいで――!」
何を言っていますの?
泣いてないで、しっかりなさい!
喉元までせり上がった言葉を、ごくんと飲み込む。
姉が、リリアの前まで歩いたからだった。
「事情があることは分かります」
姉が、綺麗なハンカチを取り出して、リリアの目元を拭う。
その仕草を見て、マーガレットの思考は――完全に停止した。
リリアが、幼い頃のマーガレットと重なる。
それだけで、
ずきん、と胸が痛くなった。
嫌……ですわ。
どんな事情があろうとも。
そんなこと……関係、ないはずでは……?
姉がエドガーを見上げた。
「あとで生徒会室へ。
そこで、話を聞きます」
エドガーが舌打ちした。
「話すことなんて何もねぇけどな」
エラルド王子が一歩前に出て、エドガーの肩に手を置く。
「クリスティーヌもそう言っているんだから、素直に打ち明けてほしい」
穏やかな口調だった。
誰も責めていない。
わたくしだけ……ですの?
胸の内側に、どす黒い感情の塊が落ちる。
生徒会からの名簿削除の罰は?
心を抉り取るようなきつい言葉は?
話なら、あとからどうとでもなりますのに――。
「甘すぎ……ですわ」
つい言葉をつぶやいてしまった。
姉が驚いたように振り返る。
「マーガレット……」
どうして、そんなに驚いていらっしゃいますの?
なにか、都合が悪いみたいに。
「リリア・クローバーがご自身の非を認めておりますわ。
まずは、しかるべき罰を課すべきでは?」
「え――あ……」
リリアが目を見開いた。
翡翠のような瞳が、涙で揺れる。
なによさっきから。
自分から言ったくせに。
その時、マーガレットは気づいていなかった。
リリアの後ろにいるエドガーの眉がピクリと動き、
降ろしていた拳に力が込められたことに。




