06. 二重虹彩の男
【テラ軍 第一戦闘部隊 射撃訓練場】
AKF招集の翌日、第一戦闘部隊三人はまず射撃場に集まることになった。
あとから医療部隊二人とルークも合流する。
機関システム部隊が開発した対カルザ族用の新しいマルチフェーズライフルを試すためだ。
リラは、もともとライフルが苦手だった。
復帰早々、気が重い。
キリュウは訓練室の壁に立てかけてあった黒いライフルを手に取った。
黒い銃身に側面に沿って走るコイル状の発光ラインが青く光っている。
続けてグオも隣の一挺を掴み上げる。
リラもそれに続いた。
「思ったより軽いわ」
リラのつぶやきにグオが早速ライフルを構える格好をして見せる。
「火薬を使わず磁力で弾を加速するタイプだからな」
「まず階級バッジを読み取らせる」
キリュウの動作を見てコイルラインにバッジを当てる。
するとバッジの生体データを読み取り、トリガーがリラの手に合わせて小さく変化した。
「次に訓練モードにする」
リラはキリュウの手元を見ながら訓練モードにシフトした。
「訓練モードにしておかないと、的を外した時に建物ごと吹っ飛ばすから要注意だ」
「そりゃヤバイな」
言いながらグオも訓練モードにする。
「これでもう撃てる?」
「ああ、やってみろ」
キリュウに促され、グオは早速、訓練用レーンに立った。
慣れた構えで、ホログラムの標的を狙って撃った。
パシュッと空気を裂くような小さな音がして、ホログラムの標的にヒットした。
命中位置を示すライトが白く光る。
「ナイス!」
キリュウが声をかけた。
「これすごいな、反動がほぼない」
「その分、連射時でもブレにくい」
見ていると、リラもうまく扱える気がしてきた。
「おまえはもう難度を上げていいな。ホロ標的をカルザ族に設定して、重力変化も考慮した訓練モードにしろ」
「了解」
グオは標的設定をカルザ族に切り替え、重力を可変モードにした。
「さて、問題は……」
キリュウはそう言いながらリラをチラッと見る。
「なんで私が問題だってわかるの」
「過去の成績を見た」
見なきゃいいのに……
「ま、君のようなタイプでも扱いやすくなってる。撃ってみて」
リラは小さく息をつき、レーンに立った。
ホロ標的のユラユラする動きが、リラをバカにしているように見える。
照準器をのぞき、撃った。
命中位置を示すライトは赤く光った。
「惜しい」
「惜しくないわ、はずれなのに」
肩を落とすリラにキリュウが近づく。
「まず姿勢が良くないんだ、構えて」
リラは銃を肩に当てて姿勢を取る。
「頭が斜めになってる」
言われなきゃ、わからなかった。
「もっと頬にギュッと当てて、反動はないから怖くない」
……別に怖いわけじゃないけど。
心の中で言い訳をつぶやく。
「右脇はキッチリ締める。安定するまで左手は添えるだけでなく握り込んだ方がいい」
リラは言われるままに構える。
「頭、まっすぐ」
頭の位置を手で修正される。
「よく見て」
ホロ標的はリラに向かってあっかんべーをした。
イヤなヤツ!
「撃て」
トリガーを引く。
パシュッと音がして今度は〝イヤなヤツ〟を一撃した。
ライトは青く光った。
とりあえず、掠っただけだが当たった。
「その調子で繰り返すんだ」
「了解」
何度か狙撃を行っていると、ニコライとメイヴが姿を現した。
「おつかれさま。グオったらほとんどプロじゃない」
グオは、右へ左へとポジションを変えながら、遮蔽物の隙間を撃ち抜く。
「プロだから!」
重力負荷が変動する中で、複雑な角度からホロ標的に見事に命中させた。
「おぉ、カッコイイ」
メイヴが感心する。
「私たちもやりましょ」
「最初に生体データを取り込むんだな?」
二人はリラたちと同じようにキリュウに登録方法を教えてもらっている。
よし、頑張ろう。
リラは気を取り直し、余裕を見せているホロ標的に向き合った。
キリュウに言われたとおり姿勢に気をつけ、冷静に標的を狙う。
何度か繰り返すが、なかなか命中を示す白いライトは点灯しない。
こういうアナログな戦闘は、やはり苦手だった。
ニコライとメイヴも訓練を開始し、何度か撃つと早くも命中させるようになる。
医療部隊の二人ですらあのレベルなのに……
「なにしょんぼりしてんの」
気がつくとルークが横に来ていた。
いつの間に……
「狙撃は苦手なの」
「ゲームだと思って気楽にやればいい」
笑いながら自分のライフルのグリップを握る。
『リラさま、元気を出して、わたくしと共に練習いたしましょう』
シャーッと姿を現したのはL2-D2だった。
「あら、L2-D2、あなたも狙撃の練習をするの?」
『もちろんでございます。ご主人さまの身に危険があってはなりませんので、このL2-D2めが全力でお守りせねば』
L2-D2はそう言いながら自分専用のライフルのグリップをフレキシブルアームで握る。
「似合うわ、カッコイイ」
『ありがとうございます』
喋っているリラの横のレーンで、ルークはいきなり標的をカルザ族に設定し、高負荷モードに切り替えた。
「ルーク、素人がいきなりそれは無理だって」
グオに突っ込まれるも、おかまいなしでライフルを構えるルーク。
「えぇ? どこがだよ」
喋りながら不規則に軌道を変えるホロ標的を、本当にゲームのように撃って命中させた。
一同は言葉を失った。
「おぉ、さすが、よくできたライフルだな……」
ルークはそう言いながらライフルを眺める。
『ご主人さまに負けてはいられません』
L2-D2がその横のレーンで、いきなり全パラメータを最大設定に引き上げて連射を開始し、ホロ標的をコテンパンにした。
射撃場に居合わせた人々が唖然としてL2-D2を見ている。
「L2-D2は演算補助機能で射撃精度を底上げしてる。そりゃ生身の人間はかなわない」
ルークはそう言い訳をした。
「ちょっと休憩」
リラはそうつぶやいてL2-D2の後ろで彼の狙撃を見学した。
「私はL2-D2に守ってもらうわ」
『リラさま、お任せください』
「うふふ、頼もしい」
「ミタライ、さぼるな」
キリュウに見つかり怒られる。
「ここでの狙撃に慣れたら3Dホログラムのシミュレーションに入るぞ」
「よーし、じゃ、オレはもうそっちに入るわ。戦闘訓練用AIが相手だ、ワクワクする」
グオは鼻息荒くそう言いながら、シミュレーションエリアへ移動した。
真面目にやらなきゃ、居残りさせられそう。
「終わったら診察をする」
ホロ標的を狙いながらルークがリラにそう言った。
「オレは早く帰りたいから、早くクリアできるよう頑張ってくれ」
「えぇ、プレッシャーかけないでよ」
リラはレーンに戻った。
「こんなのゲームだゲーム」
リラはルークのそんなセリフを耳にしながら適当にホロ標的を狙って撃った。
「あ!」
初めて命中を示す白いライトが点灯した。
それを見ていたルークが言う。
「ほら、力入れすぎだったんだって」
リラはもう一度、照準器をのぞき、ホロ標的を狙って撃った。
点灯する白いライト。
急に感覚が噛み合った。
リラを馬鹿にしていたホロ標的も動揺している。
「なによ、うまいじゃん、リラ」
シミュレーションエリアに移動を始めたメイヴがリラにそう声をかけた。
「うん、なんか、コツが掴めたのかも……」
理屈はわからない。ただ、さっきとは違う。
「さ、もういいだろ、オレたちも行こう」
言いながらレーンを外れるルークを、ニコライがじっと見つめた。
「ルーク」
「ん?」
「おまえ、目、そんな色だったっけ? コンタクトしてる?」
ニコライの言葉に、リラはルークの目を見た。
射撃場の訓練レーンには自然光が差し込んでいる。
より実際の戦闘の環境に近づけるためだ。
その光に当たるルークの瞳の色は、不思議な色をしていた。
虹彩が二重になっている。
外側はシルバーグレーで、中心に向かい濃いチャコールグレーになっている。
──不思議な色だ。
「いや、裸眼だ。ここ一、二年で変わった」
「目の調子はいいのか」
ニコライは医師として気にかかるのだろう。
「いい。心配するような疾患ではないと思う……」
ルークは表情を曇らせた。
「でももしかすると、父親が変な異星人だったんじゃないかって、そっちが心配になってきて。ちゃんと聞いとけば良かった、母親に」
ルークは父親のことを知らないらしい。
「希望すれば遺伝子検査で父親の種族はわかる」
ニコライの言葉にルークは首を横に振った。
「いいよ怖いから。〝G-アリゲーター〟だったらどうすんの」
冗談めかして笑顔をつくり、そう答える。
「いくらおまえでもそれはないだろ」
二人が笑って話しているとキリュウがやって来た。
「さ、もうここは全員いいな、シミュレーションに入るぞ。今日のところは三十分程度のプログラムとする」
「了解!」
リラは最後にもう一度だけ、ルークの瞳を見た。
あの瞳の色だけが、なぜか胸に残った。
*
ルークの視界に、キリュウとリラの背中が入る。
プログラムを操作している。
レベルの調整だろう。
「大尉、レベルは?」
「ここだ。ミタライは初級コースで──」
「はい」
──リラ・ミタライ。
ゼノンの愛人だった女。
顔も名前も変えて、神経リンクも切断した。
だが──
その感情までは、切れていない。
「カイ、ちょっといいか」
リラがシミュレーションルームに入るのを見送り、キリュウに声をかけた。
「なんだ」
「彼女のことだが……」
ルークは、キリュウをそこから少し離れた場所に誘導した。
「ミタライがどうした?」
キリュウはシミュレーションルームの方を振り返ってからこちらを向く。
「……あれで、本当に切れてると思うか?」
ルークの言葉にキリュウは眉をひそめる。
「切れてると思うか、とは?」
昨日見た彼女の記憶の3Dホロ映像。
あれはどう見ても、愛し合う男女の様子だった。
「神経リンクは切断した。でも、彼女の感情までは……わからない」
キリュウはわずかに視線を落とし、思案する。
「昨日のホロ映像を見て思っただろ? ゼノンはかなり彼女に入れ込んでいた」
それに対する彼女の、触れ方、声、視線。
──あれは〝作ったもの〟か?
「彼女はそうじゃない。ゼノンを殺れなかったことを軍人として悔やんでる」
「情があったから、殺れなかったんだろ」
キリュウはいつもの射抜くような鋭い目でルークを見る。
「睨むなよ怖いな」
そうやって昔から、無言の圧で黙らされた。
「逆に聞くが……信用できないようなそぶりでも?」
それは……
「ないけど」
キリュウは短く息をついた。
「信用してるからAKFに招集した」
その言葉にゆらぎはなかった。
「医師として、気にかかることがあれば報告してくれ」
キリュウはそれだけ言うとルークに背を向けてシミュレーションルームの方へ戻って行った。
「医師として、ね……」
ルークはそうつぶやいた。




