表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/36

17. 痕跡の正体




【惑星Zeronia カルザ帝国軍基地 司令部】




ゼノンは司令部の一室で、天の川銀河オリオン腕の星図を見つめていた。


そこに、星脈を重ねる。


星々のあいだを縫うように、淡い光が走る。

やがてそれは、蜘蛛の巣のように広がった。


──これさえ手に入れば。


アストラ王族の力。


意識も、時間も、空間も。

すべてがこの流れにつながっている。


その中心に立つことができれば──

宇宙は、意のままになる。


「……美しい」


思わず、言葉が漏れた。


そのときだった。


星脈が、拍動した。


ひときわ強く。


「……?」


空気が変わる。


沈黙しているはずの領域が、わずかに震える。

呼吸のような、かすかな波。


──聞こえる。


誰もいないはずの空間から、確かに。


〈ゼノンよ……〉


背後ではない。

内側から、直接響く声。


──やはり、来たか。


ゆっくりと振り返る。


そこに立っていたのは──


「……おまえは」


白銀の髪。

彫刻のような顔立ち。

シルバーグレーとチャコールグレーが重なる、異様な双眸そうぼう


アストラ族の最後の王、アルセリオン。


〈ふたたび、星脈が開く日は近い〉


静かに、しかし確信に満ちた声。


〈それを開くのはおまえか。それとも──〉


その言葉は、途中で途切れた。


アルセリオンの輪郭が崩れる。

黒い霧となって、ゆっくりと広がる。


そして──再び、形を結ぶ。


細い肩。

短い黒髪。


華奢な、テラ族の女。


「……っ」


ゼノンの喉がわずかに鳴った。


──知っている。


〈ゼノン様……〉


その声。その、笑い方。


間違いない。


ノヴァだ。


確信した瞬間、像は崩れた。


黒い霧が部屋いっぱいに広がる。

やがてそれは、巨大な〝何か〟の輪郭を取る。


人のようで、人ではない。


暗闇の中に、二つの光る目。


見下ろされている。


「……我が神、アル=ラーグス猊下げいか


両手が、知らずに上がっていた。


〈始まるぞ……〉


その声と同時に、暗闇が崩れた。


黒い塊が音を立てて砕け、無数のねずみとなって床をはしる。


「っ……!」


足もとを埋め尽くす感触。


逃げ場がない。


「ゼノン様」


扉が開いた。

カーディスが入ってくる。


その瞬間、鼠は消えた。

何もなかったかのように、静寂だけが残る。


ゼノンはその場に立ち尽くしたまま、星図に目を向ける。


光は消えていた。


だが。


胸の奥のざわめきだけが、消えない。


「……聞こえたか」


ゼノンの声はわずかに震えた。


「聞こえました」


カーディスは、この場の異常など意に介さぬような、冷ややかな声で答えた。


さっきまでそこに神がいたというのに、この男はなぜこうも淡々としていられるのか。


「いよいよです」


カーディスは続ける。


「軍を集めております。ご挨拶を」


その圧に、逆らえない。




【司令部 中央広場】




ゼノンはカーディスに促され、広場へと出た。


整列する軍。

その背後に、民衆の群れ。


エリュシアの視線を背に受け、一段高い台へ上がる。


声は、張らない。

すでにNPリンクでつながっている。


「カルザ族の民よ」


ざわめきが完全に止む。


「我らは、長く待った」


軍隊と民衆を見渡す。


「テラ族は、みずからを自由だと信じている。だが実際は、力を恐れ、秩序から目を背け、宇宙を放置してきた」


視線が、一斉に自分へ集まっている。


「我らは決して〝奪う〟のではない。〝正す〟のだ」


ゼノンのかたわらで、エリュシアとカーディスも静かに耳を傾けている。


「支配とは、暴力ではない。選ばれた意思が、宇宙を導くことだ。アストラ族は、その鍵だった」


〝アストラ族〟という言葉に、民の心がざわりと揺れるのを感じる。


「だがテラ族は、それを隠し、我らから遠ざけた」


ゼノンはそこで、一段と声を強めた。


「だから我らが行く」


軍隊が賛同の声を上げる。


「恐れるな、疑うな、迷うな。逆らう者には容赦しない」


民の声も重なる。


「今こそ進むのだ。我らの真実を示す!」


一斉に拳を突き上げる兵、民衆。


カルザ族の真実が、ここにる。




【テラ軍 外来宇宙船停泊エリア 宇宙船メビウス号】




『わたくしめは正直、ご主人さまが只者ではないことは察知しておりました……』


ルークは、L2-D2のセリフに深いため息をついた。


どうでもいい慰めだ。


冷静になるために、いったん自分の宇宙船に戻ってきている。


〝おまえの父親はG-アリゲーターだ〟

と言われた方がマシだったかもしれない。


そんなはずはないと、何度も否定した。


だが結果は変わらない。

二度目の遺伝子検査も、同じだった。


アストラ王族。

二十八年前に滅びたはずの王家の血が、自分の中に流れている。


「……ウソだろ」


つぶやきは、空気に溶ける。


だが、思い返せばつじつまは合う。

自分にしか読めない、神経リンクの周波数。


意識がどこかにつながるあの感覚。

無意識に、その力に触れていた。


そして、ここ一、二年で変わった瞳の色。

これが、兆候だったのだとしたら。


否定したいのに、裏づけだけがそろっていく。


「L2-D2」


顔を上げずに問う。


「遺伝子に星脈位相制御領域せいみゃくいそうせいぎょりょういきを持つのは、王族の何親等までだ」


『いちばん強い星脈を持つのは王の直系男子です。女子にこの遺伝子はありません』


〝直系男子〟


その言葉がグサリと刺さる。


「じゃ〝遠い親戚〟でも遺伝することはある?」


王が遠い親戚なんだと思いたかった。


『星脈位相制御領域がいちばん強く遺伝するのは王の長男で、次男はその半分以下しか遺伝しないという記録があります』


王の、長男?


「アストラ族の最後の王に子どもはいたのか」


『アルセリオンには子どもが二人おりましたが、いずれも女子でした』


「じゃ、男の兄弟はいたのか」


『いえ、おりません』


と、言うことは……


『ご主人さまは、アルセリオンの隠し子だったという推測が立ちます』


ルークはコックピットのパネルに突っ伏した。


ダメだ……

それしか考えられない。


パネルに突っ伏したまま、なぜか頭に浮かんだのは、リラの笑顔だった。


こんなことなら、安易に〝オレの特定の人になって〟なんて言わなきゃ良かった。

自分のそばにいれば、確実に巻き込まれる。


カルザ族がEarthを狙う理由は、〝アストラ族の力の痕跡〟が隠れているから。


──つまり、自分だ。


それならば、ここにはいられない。


答えは、もう出ていた。




【テラ軍本部 地下 レベルS-7会議室】




通常の作戦会議室よりさらに深い、遮断層の奥。

限られた上層部の人間しか入室を許されない会議室。

円卓の上に投影されたホログラムは、ただ一つのファイル名だけを示していた。


〝案件:Stellar(ステラー) Phase(フェーズ) Control(コントロール) Locus(ローカス)


誰も口を開かない。

沈黙が、異様なほど長い。


その部屋に最後に入って来る人物。

統合防衛評議会議長兼、テラ軍最高総司令官。

中央に着席すると、SPが両脇を囲んだ。


「早速、始める」


総司令官は、円卓の一角に浮かぶ名前と階級のホログラムに視線を向けた。

その青白い光が、老将の瞳を冷たく照らす。


「……カイ・キリュウ大尉。この件は、ここにいる者以外、誰も知らないのだな」


「はっ」


キリュウはうなずいた。


「アラン・ロベール少佐と自分。それに、医療部隊のジアン・パク中尉だけです」


さらに総司令官はロベールに向かって続ける。


「ジアン・パクについてはすでに隔離済みということで間違いないな?」


「はい」


ロベールは重く静かにうなずいた。


ジアン・パクは、キリュウが目撃した不自然な様子、ルークの遺伝子検査の重要性を理解していながら黙っていたことから、カルザ族の神経リンクを張られているという判断にいたった。


クドウについても引き続き上長が監視を続けている。


参謀総長が低く言う。


「カルザ族がルーク・ウォンの正体を知れば、彼を狙って攻撃を仕掛けてくるのは間違いありません。危険です。即刻追放を」


「それも危険です」


ロベールが参謀総長に反論した。


「アストラ王族の星脈がカルザ族に渡れば、この宇宙はカルザ族に掌握されてしまう」


しばしの沈黙の後、総司令官がふたたび口を開く。


「それを恐れた王アルセリオンは、みずからの命と共に惑星Eliosを消滅させた……しかし、子孫を遺していた……」


それが、ルークだった。


「ジアン・パクに、カルザ族の神経リンク切除術を行えるのも、ルーク・ウォン以外にいません」


キリュウが総司令官にそう訴える。


「……わかった。ルーク・ウォンは引き続き、AKF預かりとする」


「総司令官!」


参謀総長が反論するように立ち上がる。


「これはテラ軍史上、最も危険な賭けだ。だが唯一の希望でもある。アストラ族の復活があるならば、宇宙の調和はふたたび訪れるかもしれない」


そこまでで極秘の会議は終了し、ホログラムの、


〝案件:Stellar Phase Control Locus〟


は消えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルに応援クリックお願いします → ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ