先生!!!
「ねー、マジで今、掲示板の裏が光ったって! 誰か隠れてるよ!」
女子生徒たちの足音が、死神の鎌のように近づいてくる。
「やべえ……マジで来るな、来るな……っ!」
「桐山、動くな! 俺の背中に完全に入れ!」
「マサ君、もっと右ですわ! 潤を奥に隠れるようにしないとだわ」
絶体絶命。湿気で膨らんだ俺の銀髪が掲示板からはみ出し、制服のボタンが「パツン……」と悲鳴を上げた――その瞬間。
「そこの君さー。桐山でよくて!?」
白衣にミニスカ、緑髪ショートボブにやや尖った耳、
眼鏡越しにドヤ顔を決めた女性が、そこに立っていた。
モデルのような細身の長身、その胸元は美しいお椀型の微乳。
洗練された美しさを放つ彼女は、紛れもなく高潔な種族――エルフ!?ハイエルフ!?。
「はいはい散って散って――入学式遅れるわよ。ほらチャイム鳴るわよ! 急いで急いで」
冷徹な声が響き、カツ、と鋭いヒールの音がアスファルトを叩く。
「あ♡……堀井先生!」
生徒たちが慌てて教室へ駆けていく。
白衣を翻して現れたのは、保健医の堀井先生と言うらしい。
クールに笑いながら、俺の「盛り」を興味深そうに、あるいは値踏みするようにジロジロと眺めてくる。
「さて、桐山。膨らませたおっぱ……いや胸が目立つわね。そのままではせっかくの胸が美しくないわ。どうにかしてあげてよくてよ? そこの2人、手伝って」
「「はい!」」
「え、ちょっ……ひゃんっ! 冷たっ! 先生、何これ、液体窒素!?」
「静かに。私のブランド『Aethel』の特製魔道具よ。これでお前の汚いマナを凍結・圧縮するわ」
【保健室】
「……ぎ、ぎぎぎ……! 死ぬ、死ぬって先生! 締まりすぎ!」
「動かない、動かない。早くその盛りを落ち着かせないと、私の魔道具のブランドの評価に傷がつくわ」
俺の胸部と腰回りに、魔力封印包帯が容赦なく巻き付けられていく。もはや肺はお煎餅のように平らだ。
「……先生、これ……一文字喋るごとに、ボタンが弾け飛ぶ予感しかしないんだけど……」
「いいわ桐山、そのバインドは私の会社が開発した次世代マナ吸着素材よ。物理的にあなたの『盛り』を封じ込めているわ。……ただし、一回でも深い溜め息をついたり、興奮して心拍数を上げたら――」
「上げたら……?」
「『ドカーン!』とバインドが全弾射出されて、普通科1年A組に銀髪爆盛りギャルが爆誕してよくて? あと、顔がギャルすぎて目立つから、マスクして伊達メガネして過ごしなさい。……お行き、私の大事な『検体』」
「……鬼かよ……!!」
「そこは鬼じゃなくてハイエルフかよ!?でしょって♡」
【普通科1年A組・教室】
まだ入学式目前のホームルーム前
俺は彫像のように椅子に座り、前だけを見つめていた。
よりによって今日は雨。低気圧のせいかパッキングされた体は重く、喉仏を動かすだけで「パキッ」と嫌な音が鳴る。
そこへ、堀井先生から再度呼び出しがかかった。
フラフラで保健室へ戻ると、彼女は銀色のトレイを掲げていた。
「あら、桐山。顔色が死後三日経った土色でよくて? 大丈夫かしら!?さっき桐山の母から『差し入れ』を預かってきたわ」
先生がトレイの蓋を開けると、そこには宝石のように輝くマカロンが鎮座していた。
(……このブランドの!?ッ! マカロンか!?なぜ!?)
姉貴が自分へのご褒美にしか買わない、あのパリの品評会で最高位を獲ったという「世界一のマカロン」。
その瞬間、俺の脳内にエナエマの歓喜の絶叫が響き渡り
パァーッ!
お約束のように現れる
『わあああ! 本物だぁ! 超有名なとこのマカロンだぁ! 潤子ちゃん、それお供えして! 食べさせてくれたら、半日だけ魔力を燃焼させて、体をモブに戻してあげるよ!』
「…モブっていうな…男に戻して、おねがいします。エナエマ様、やってください……っ!」
マカロンを捧げた瞬間、凄まじい熱気が全身を駆け抜けた。シュゥゥゥ……ッ! と体から蒸気が立ち昇り、抑え込まれていた「盛り」がみるみる霧散していく。
「旨し」
エナエマはまた一瞬にして消えた
「ふぅ……。……助かった……」
30秒後。そこには、呼吸を取り戻した「いつもの桐山潤」がいた。
「……桐山。……元の安定のモブだな。安心するぜ」
「残念ですけどよかったですわ、潤くん! 完璧にモブですわ!」
マサと桜子が安堵の表情を浮かべる。だが、トレイを片付ける堀井先生の口角が、不敵に吊り上がった。
「……いいわね、桐山。今、あなたは規定以上の魔力を使われたわ。……多分その反動、土日にまとめて『増幅』して帰ってくるから覚悟してよくて? 私の新作の『耐久テスト』には絶好の機会だわ」
「……え?」
パァーッ! 再びエナエマが現れる。
『明日から週末だしちょうど良いじゃん! 土日の48時間は、その盛りを受け入れて慣れよう! もしくは再度、世界一のスイーツをお供えするか……ね?』
ふっ、とエナエマは言いたいことだけ言って消えた。
ガタガタと、俺のペンを持つ手が震え出す。
「俺の土日が消えた……」
パァーッ!
『あはは! 週末は勉強会かねて慣れだね! マサくん、桜子ちゃん、遊びに来てねー!♡』
「……笑い事じゃねえええ!!」
俺のスマホに、母からのLINEが届く。
『潤〜、マカロンでツレた? 土日はお姉ちゃんと一緒にあんたを「着せ替え人形」にするから、逃げちゃダメよ♡』
俺は「今だけ手に入れた半日の平和」を噛み締めながら、来るべき地獄の週末に絶望するのだった。
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