華の金曜日!?
美術室での一件を、俺は「家族グループLINE」に手短に共有した。
すぐに父さんから既読がつき、簡潔な返信が戻ってくる。
『他のエリアでも、餓魔による異変が報告されている。週末にラボから戻るから、詳しい状況をまとめて話そう』
平和に見えるこの街の裏側でも、やはり目に見えない何かが起こり始めている。
美術室でのあの一件から数日は、嵐の前の静けさのように、拍子抜けするほど穏やかに過ぎ――。
そして、金曜日。
明日は土曜日だ。
父さんと、あの厳格な祖父が「ラボ」から帰ってくる。
それだけで少し背筋が伸びる思いだが、まずはこの一週間を、締めくくらなければならない。
「じゃあ潤、私たちは堀井先生と食事してくるから。冷蔵庫にチーズインハンバーグあるわよ、好きでしょう!?適当に温めて食べてね」
「あ、はい。ありがとう!お母さんも姉貴も、気をつけてね」
母さんと姉貴は、今週の疲れをデトックスすべく、堀井先生を誘い出して銀座の夜へと消えていった。女性陣の圧倒的な行動力とキラキラした勢いには、天狗の翼があっても追いつける気がしない。
『ジュンチン、アタシもちょっと母様たちの様子、覗いてくるわ! 19時には「天狗界」行くでしょ!? 戻るから、ちゃんと待ってなさいよ?♪』
そう言い残して、エナエマも姿を消した。
家の中が、急に静かになる。つい数時間前まで、「爆美女・潤子」のコーディネート論で翻弄されていたのが嘘のようだ。
一人分だけ丁寧にハンバーグを温め、誰もいないダイニングで手を合わせる。一人で食べる夕飯は、美味しいはずなのに、ほんの少しだけ味が薄く感じる。
(19時か……。祖父や父さんたちがいない分、今日の修行は、俺がしっかりやらないとな)
時計の針が刻一刻と約束の時間を刻む中、ストレッチを始めた俺のスマホが光った。マサからだ。
『今度さー、鬼族の故郷、鬼ヶ島案内するから! 桜子にも伝えとくから、みんなで行こうぜ。……あ、あとピーチ太郎と桃姫も紹介するよ。桃一族』
「……ピーチ太郎に、桃姫……?」
あまりに軽すぎる誘いにスマホを二度見する。鬼の故郷への旅行。何か目的があるんだろうか。
19時まで、あと数分。
エナエマの戻りを待つ俺に、今度は桜子さんから通知が届いた。
『助けて』
短すぎるその三文字に心拍数が跳ね上がる。
(とりあえずエナエマ、至急お願い……!)
俺は必死に念じた。
何があった!?
餓魔か!?
状況がわからず冷や汗が伝う。
直後、またスマホが光った。
『鍵無くした。潤のうち、隣じゃん!親帰ってくるまで居させて』
「…………」
俺は、込み上げてきた緊張感をそっと飲み込んだ。サキュバスの、そのちょっとしたイタズラじみたラインが、なんとも言えない余韻を残す。
ちょうどその時、エナエマが俺の前に現れた。
「……エナエマ! ごめん、やっぱり何でもない」
『は? アンタ、至急って呼んどいて何それ! 急いできたから銀座のスイーツ、最後の一個食べそびれたじゃん! マジ最悪なんだけど!なんかくれ♪』
俺は拝むように謝り、パニックを鎮める。
修行の時間はもう目前だ。俺は慌てて桜子さんに『玄関開けてあるからいつでも入って』とラインを打ち込んだ。
しばらくして、チャイムが鳴る。
「おう! 桜子、ラインせず直接くればよかったのに。『助けて』は焦るよ!マジで」
玄関には、少し申し訳なさそうに立つ桜子がいた。
「ごめんごめん、いきなりよりは良いかなと思って! すぐ親帰ってくると思うからさ。長居しないからよろしく! ココさんやお母さんにも挨拶するね」
「二人とも出かけてるよ。ちなみに、祖父も父も」
「え!?」
「え!?」
予期せぬ「二人きり」の空気に俺たちの声が重なった。
その時、俺の肩越しにどこか楽しげな声が響く。
「――いやいやいや♪ 妾もいるよん♪ あまり潤をからかうでないぞ♪」
空中で、スイーツを逃した不機嫌さをどこかへやった天女が、ニヤリと口角を上げていた。
19時まで、あと三分。
……ギリ、間に合うかな。
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