美しいは武器であり1つの正義
日も沈みかけた、日曜の夕方。
玄関の電子錠が重厚な音を立てて解錠された。
流れ込んできたのは、焦げた魔力と消毒液、そして冷たい鉄錆の匂いだ。
「ただいま。……すまんな、遅くなった」
防護服を半ば脱ぎ捨て、泥のように疲弊した父さんが立っていた。後ろでは、祖父が「ふぅ」と深く重い息を吐く。
「じじ、パパ! おかえり!」
「……ああ。ココ、心配をかけたな。だが収穫はあったぞ」
父さんがフラつく足取りでソファに沈み込むと、キッチンから母ローラが静かに現れた。その手には人数分のコーヒー。
「お疲れ様です♪ まずはこれを。……堀井先生の分も、もうすぐ来るわね?」
まもなく、玄関のチャイムが鳴る。
母が迎えにいくと、ネオンカラーのトレンチコートをなびかせて堀井先生がやってきた。
「タイミング良いわね、先生」
「ええ、お邪魔するわ」
母がリビングへ案内し、先生がソファへ腰を下ろす。
「街の偽装結界はどうでしたか?」
父の質問に、先生は険しい顔で首を振った。
「最悪よ、パパさん。あちこち餓魔や『魔漏』の反応を隠蔽する細工がされてたわ。……それで、ラボでの結論は?」
父さんがタブレットを起動し、ホログラムの刻印を空中に投影する。
それを見た瞬間、堀井先生のコーヒーを啜る音が止まった。
「……偽装魔導印。間違いない、あの人――ヨウキヒヨ元長官のセンスだわ」
「ヨウキヒヨ……。堀井先生の、元上司だよね?」
父さんが尋ねると、先生は自嘲気味に笑った。
「ええ。美と嫉妬の化身。あの方は、かつて餓魔対策の研究をしていたはずなのに、今は人間も含めいろんな種族を『ジャバサ』へと変異させている!?。なるほど、この刻印のせいで、彼らは本来の浄化システムをすり抜けて肥大化し続けるのよ」
「つまり、ヨウキヒヨが……全部仕組んでたってことか」
「ええ。特定の『美』に執着したり、それが手に入らない絶望、妬み嫉み、加害欲、悪意。誰にだって少なからずある負の感情……。ヨウキヒヨはそこに付け込むの。厄介だわ、なんとかしないと取り返しがつかないわね」
「なるほどね!」
その時、俺の視界に天狗天女姿の『エナエマ』が現れた。軽快に指を鳴らし、優雅に扇子を振る。
画面には、今回持ち帰った個体の正体を暴く、非情なまでの「正解」が並んだ。
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◎リポート
■ Subject: Jabasa
人族: 『Q』(元・ブランド狂いの転売ヤー)
■ Tendency: 【富裕層への羨望と憎悪】
■ Strategic Weakness (Critical Point):
顔タイプ:【クール・エレガント】
(圧倒的な気品に触れるとガードが30%低下)
骨格:【ストレート】
(迷いのない「芯」のある打撃に1.5倍ダメージ)
カラー:【ウィンター】
(冷徹な色彩に対し、精神耐性が激減)
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「……こいつ、自分が一生手に入れられなかった『本物の高級感』に、本能的に怯えてるんだ。だから昨日、堀井先生の攻撃が効きすぎたのね。……ってことは、ジャバサの好みに合わせて攻撃すれば効率いいのね?」
母の言葉に、堀井先生が低く呟く。
「そうね。まぁ、ある程度『顔面偏差値』が高いなら通じるけれど……こればかりは好み(タイプ)があるからね」
父さんが真剣な面持ちで立ち上がった。
「各管轄省庁と連携を組んで、ラボに対策本部が設置された。しばらくワシと祖父はラボへ常駐になる。……家のことはローラ、ココ、潤、任せたぞ」
「わかった。パパたちが命がけで持ち帰ったデータだもん。……今後の訓練に取り組んで、少しでも役に立ってみせるよ」
母さんも頷き、祖父、父、堀井先生と共に、戦いの中心地であるラボへと向かっていった。
嵐が去った後のような静けさ。
ココ姉貴は何かを思い詰め、握りしめた拳を震わせながら「……私、ちょっと考える」とだけ残して自分の部屋へ戻ってしまった。
「まずは、できることから、か」
俺は、基本から確認しないとと思い鏡の前に立った。
「自分を整えることが、最大の武装になるのか……!?」
まずは【朝のルーチンセット】。
ぬるま湯で丁寧に顔を洗い、母さん特製の化粧水で肌を整える。指先に伝わる自分のコンディションを、試しにあげてみるか。
《 Beauty Maintenance: 3% UP ↑ 》
《 Defense: 1% UP ↑ 》
視界の端で一瞬、ポップアップが表示され、粒子となって消えていく。
「ぇ!?」
思わず声を上げた俺のリアクションを見て、エナエマが満足げにささやいた。
「この方がわかりやすいでしょう!?」
「お、おう、ありがとう、エナエマ。準備、手伝って」
「……オッケー♪ 任せなさいっ!」
エナエマの声に応じるように、俺は光に包まれ、再構築されていく。
流行りのメイクを効かせ、不敵に笑う――ギャルになった潤だ。
エナエマが俺の背中を力強く叩き、サムズアップを送ってくる。
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