想定「スタンビート」
「……よし。腹は満たされたわね。それにちょうど13時!じゃあ、始めるわよ?よくって!?」
堀井先生が扇子を閉じた瞬間、訓練エリアに警告音が鳴り響く。
投影されたのは、数千人のファンが熱狂する地方ライブ施設風の空間。だが、その熱気は一瞬で恐怖へと変わった。
想定トレーニング――『LV3:地下アイドルのライブ会場における餓魔のスタンピード(大群暴走)スリーマンセルバージョンVo1』。
ステージ裏や通路から、文字通り「溢れ出した」無数の餓魔が、濁流のように客席へと押し寄せてくる。
「「潤子ー桜子! アイドルより目立ってどないすんねん!」」
「「つけま取れる前に、あの群れなんとかしぃや!」」
外野で双子が叫ぶが、冗談抜きで敵の数がおかしい。
「潤、いえ潤ちゃん! 行きます! 『ライブ・レイド・エンチャント』!!」
桜子がその豊満なボディをさらに艶やかに昂らせ、サキュバスの魔力をバーストさせる。
本来の妖艶な姿へと変貌した桜子の姿に、一瞬見惚れそうになるが――。
「マサ、前から来る大群は俺が止める! 漏れたやつを叩け!」
「……了解。一匹も残さない」
マサも鬼化し、青白い火花を散らして地を蹴る。
桜子の回避バフにより、マサは押し寄せる餓魔の波をサーフィンのようにすり抜け、発光する拳で「暴走の核」となる個体を次々と粉砕していく。
『ジュンチン、来るよ! 結界を最大出力で展開して!』
エナエマの警告に、俺はジャージの袖を捲り上げ、長い付け爪の指先を力強く突き出した。
「これ以上、一歩も通さない……!」
魔力伝達効率1000%――。
潤子姿の俺が放ったネオンブルーの巨大な結界が、ドームを真っ二つに分断するように展開される。
ドォォォォォン!! と、押し寄せる餓魔の大群が透明な壁に衝突し、ひしめき合う。
「「……は? あの数、全部止めたん? 潤の結界、もはやダムやん……」」
双子が呆然と、餓魔の濁流を一人で堰き止める潤子を見つめる。
「おふぅ……! 潤ちゃんの結界が、私のバフで絶対不可侵の領域に……綺麗……♡」
「桜子! 押し返された奴らをマサが仕留めるまで、バフを切らさないでね!」
結界で足止めされ、逃げ場を失った餓魔たち。
そこに、桜子のバフで鬼神と化したマサが、物理の暴風となって突っ込み、全てを砕き散らしていく。
「……出力、防御範囲、共に合格点。ですが潤子さん」
背後から、堀井先生の冷徹な声が刺さる。
「潤子、今、結界を支える時に少し大股はしたなくってよ!? もう少しコンパクトに優雅にするともっと良いわ。……マサ、桜子、最初にしては良いわね。新大久保行った甲斐があったわ」
「そんなの戦闘中!! 無理ですよ!!」
潤が絶叫する一方で、マサと桜子は先生に褒められたのが嬉しくて、パッと表情を明るくした。
……なんだよ、俺だって、本当は褒められたいのに。
「次よ」
堀井先生が非情に告げる。
俺の叫びと共に、さらに巨大な「暴走の第2波」が結界を叩く。
魔力1000%でこの状況を救い、かつ今度は「内股」をキープする。
地獄の特訓は、まだ始まったばかりだ。
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