いざ!
「……で、じいちゃん。天狗界にはどうやって行くんだよ? どこかに隠し扉でもあるのか?」
ロールケーキをエナエマに奪われ、空腹のまま立ち上がった俺に、じいちゃんはニヤリと笑って手鏡を差し出した。
「扉などない。鏡を指定して見るんじゃ」
「は? ? 何言ってんだよ、鏡見てどーすんだよ」
「いいから見ろ。目を合わせてみるんじゃ」
姿見の鏡を覗き込む。そこには、姉貴に磨き上げられ、ヨガで強制的に血行を回された「潤子」の顔がある。
「集中しろ、じゅん坊。その鏡の中の自分と、エナエマの気配を同期させるんじゃ」
『ジュンチン、この鏡で良いのね!?じゃあ鏡ごしに私と目を合わせて♪ ほら、逸らさないで! じーっと、熱烈に!』
エナエマが俺の顔の数センチ先まで回り込み、鏡越しにジッと見つめてくる。
視線がガッチリ合った瞬間、鏡の表面が水面のように揺れ、視界が歪んだ。
「うわっ、吸い込まれる……!? ちょ、エナエマ、引っ張るなって!!」
【異界:天狗界】
次の瞬間、肺に流れ込んできたのは、代官山の排気ガス混じりの空気ではなく、鼻の奥がツンとするほど濃密な「霊気」だった。
目の前には、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような古い村並みが広がっていた。
いろんな種類の天狗たちが行き交い、中には人間らしき姿もちらほら見える。
突然の異世界の光景に、俺が驚き戸惑っていると——。
「じゅん坊、驚くな。今日は日曜だからか、これでも人は少ない方だぞ」
いつの間にか修行着に着替えた父さんと、その背後に控える父さんの守護体「大天狗・大和」が立っていた。
「……ガチかぁ。修行つらそうだな。じいちゃん達、ここで一体何やってんの!?」
「ほら、まずは天狗界のこの村に慣れろ。本格的な修行は明日の月曜日からだ。今日はエナエマといろいろ見て回ってこい」
『ラジャー♪ ジュンチン、ハイテンションで行こー!』
エナエマが俺の肩に手を置くと、ふわっと体が浮き上がった。
「……おい、父さん。これ大丈夫か!? 落ちないかこれ!?」
「大丈夫だ、エナエマに身を委ねろ」
『ジュンチン、まずは天狗のことを知った方がいいね! あとここの和菓子、人間界に負けず劣らず美味しいんだよ♪』
「またスイーツの話かい……。わかったよ、とりあえず案内頼む」
【20時30:帰宅】
「……ただいま…………」
玄関のドアを開けた時、俺の頭は「霊力酔い」でガンガンしていた。
「お帰り、潤子。……あら、どうだった!? 名物のイチゴ大福、食べてきた!?」
風呂上がりの姉貴が、タオルで髪を拭きながら俺を鑑定するように眺めた。
「……お土産あるよ。っていうか姉貴も行ってるの!? ……あぁ、姉貴はもう力のコントロールができるんだったね……」
「そうよ、とりあえず頑張んなさい! そして次はさあ、ルーチンよ、ルーチン! まずはクレンジングと、しっかり保湿! 終わるまで寝かせないわよ!」
「……鬼だ。鬼はマサの種族だけにしてくれよ……。その前にお腹すいたんだけど……飯……」
俺の絶望を余所に、寝る前の「美容メンテ」が始まった。
明日から平日の天狗界が始まると思うと、俺の胃袋と精神が同時に悲鳴を上げた。
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