束の間の
「……ただいま」
月曜日。なんとか「男」の姿を維持して登校し、無事に帰還した俺を待っていたのは、リビングから漏れ出る異常な熱気と、聞いたこともない呪文のような応酬だった。
母さん、姉貴、そしてエナエマ。
三人がソファに陣取り、血眼でスマホを連打している。
「ちょっと! ソールドアウト!!? 嘘でしょ、私の狙ってた多幸感パレットが!OMG」
「ママ落ち着いて、他の狙ってるやつを連打! 連打! 私はこの清潔感爆上げ下地をストック買いするから、決済回しといて!」
『ジュンチンお帰りー! 今、春のメガ割りキャンペーンで必死よ! 見てこの新作、中顔面短縮メイクに神すぎる配色なの。絶対欲しいー♪』
「……なんだよメガ割りって!? つーか、中顔面ってなんだよ。顔の真ん中だろ」
興味なさそうにスルーしてキッチンへ向かう。
修行明けの疲れを癒やすべく、自分用のコーヒーを淹れるついでに、叫んでいる三人の前にもカップを置いた。
「ほら、コーヒー。少しは落ち着けよ。画面の見すぎで目がいっちゃってるぞ」
「……はぁ、潤。あんた神? 育て方間違ってなかったわ! むしろ気が利きすぎて涙出るわ」
「最高。潤、マジで優しい。……ねえ、ついでにマッサージしてくんない? ずっとスマホ見てたから肩バキバキで」
姉貴の言葉を皮切りに、母さんもエナエマも「私も!」「私もー♪」とスマホを持ったまま身を乗り出してきた。
仕方なく、俺は順番に肩を揉み始める。武道を習っていた時のマッサージ経験がこんなところで役に立つとは。
「あー……そこ。潤、上手いわね。……でも、肩だけじゃ甘いわ!まずは私がやってあげるから終わったらやって」
姉貴がニヤリと笑い、俺の手を強引に引き寄せた。
「リンパをやってあげるね。老廃物流さないと、今度ギャルになった時の顔が浮腫んで、多幸感どころか悲壮感漂うわよ?」
「……は? なんで俺がリンパ流されなきゃいけないんだよ」
「あんたねぇ、浮腫みは敵よ!」
『そーだよジュンチン! ギャルにとって浮腫みは万死に値するんだから! はい、鎖骨の下からグーっと、ゴリゴリに流して!』
「ちょ、おい! 押すな!今男だし、 痛っ、変な声出るだろ!」
「はい、逃げない! これもギャルを維持するための家族サービス! ほら、次は脚! 股関節のリンパ詰まってると、ミニスカ履いた時に脚が太く見えるわよ!」
「……だから! 今の俺は男だっつってんだろ! 痛えええ! 姉貴、指の角度が暗殺者のそれなんだよ!」
「いいから! 多幸感は一日にして成らず! ほら、ゴリッといきなさい!」
俺の悲鳴をよそに、春のコスメ祭りはさらに加熱していく。
明日、もみ返しで歩けなかったら、もう二度とコーヒーなんて淹れてやらないと心に誓った。
「あっねえ、そろそろご飯用意しないと19時に間に合わないわよね!? でもまだ欲しいコスメあるし、ウー◯ーしちゃう!? あっ、クーポンあるじゃん! ピザにしよっか。サイドメニューは何食べたい!? 飲み物は!?」
コスメとピザの注文に沸く女たち。
……そうだ、忘れてた。今日から平日の19時は、天狗界への「修行」が始まるんだった。
俺の週明けは、ピザの匂いと絶望の予感に包まれていた。
「はい、潤!ピザ来るまで今教えたリンパやって」
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